( 133993 ) 2024/01/30 13:52:55 0 00 Photo:PIXTA
年末年始、鉄道業界に大騒動が降って湧いた。JR東日本が昨年12月に発表した今春のダイヤ改正で、通勤時間帯の京葉線上り快速・通勤快速の廃止が明らかになった。これにより、千葉県や沿線自治体から「容認できない」反発と戸惑いの声が相次いだため、1月になり、朝の快速2本に限り復活させる異例の「ダイヤ改正の修正」を余儀なくされた。JR東日本はなぜ快速・通勤快速を全廃しようとしたのか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
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● JR東日本が異例の ダイヤ改正の修正
JR東日本の土沢壇千葉支社長は昨年12月22日の記者会見で「我々の説明不足がある。引き続き丁寧に詳しく狙いや背景を説明し、ご理解いただければと思う」と釈明し、あくまでもダイヤ改正の理解を求めていく姿勢だった。だが反発はやまず、1月16日になって早朝の快速2本に限り復活させる異例の「ダイヤ改正の修正」を発表した。
現行ダイヤで京葉線蘇我駅を6~8時台に発車する列車は、各駅停車が24本、快速が3本、通勤快速が2本、特急が5本の計34本だ。ラッシュのピークとなる蘇我駅7時台発(東京駅7時53分~8時53分着)は各駅停車10本、通勤快速2本、特急1本という各駅停車中心ダイヤである。
快速はラッシュピークを避けて、蘇我駅6時42分発、52分発、8時53分発の3本のみなので、廃止しても影響は少ないと思うかもしれないが、問題はピーク時間帯に運行される通勤快速だった。
内房線と外房線・東金線から京葉線に乗り入れる通勤快速は、蘇我駅7時44分発、58分発の2本で途中、新木場、八丁堀のみ停車し、終点まで約40分で到着する。どちらも東京駅に8時30分前後に到着することから、蘇我以遠の通勤利用者御用達の列車だった。それがなくなってしまうのだ。
具体的に木更津駅から乗車するケースを見ると、現行ダイヤで7時25分発の通勤快速は7時58分に蘇我駅、8時39分に東京駅に到着するため、全体の所要時間は1時間14分、京葉線内は41分だ。
しかし各駅停車に変更されると、木更津駅を7時22分に発車し、7時56分に蘇我駅、8時53分に東京駅に到着するので、全体で1時間31分、京葉線内は57分。つまり15分以上、余計にかかるようになる。「東京駅まで〇○分」と聞いて住居を選んだ人は「話が違う」と言いたくなるだろう。
● サービス変更から一転し 譲歩姿勢を示した理由
これまで行われたさまざまなサービス変更(場合によっては改悪)でも利用者から不満や戸惑いの声が上がることはあったが、JR東日本は「理解を求める」という姿勢を崩さなかった。ところが今回の沿線自治体・利用者からの反発は想像以上だったのか、一転して譲歩を示したのだった。
JR東日本のコーポレート・コミュニケーション部門(広報)は「ダイヤ改正は多岐にわたる関係者との調整や多くの綿密な作業であるため、本来であれば短期間で変更することは不可能」としながら、「自治体やご利用のお客さまから多くのご要望があったこと、弊社としても影響に思いが至らぬ点があったことなど、限られた時間の中で何か工夫をできないか検討した結果」、早朝時間帯であれば調整が可能だったため、限定的ながら一部ダイヤを見直すことになったと説明する。
筆者が「考えが至らなかった」とは何を指すのかと問うと、「線区全体の利便性向上を考慮してダイヤ改正を行っている」と前置きした上で、通勤快速・快速の各駅停車化は「快速停車駅の速達性とトレードオフの関係であり、総合的に判断する上でこの課題は認識していましたが、線区全体の価値向上について、我々の考えと皆さまのお考えが一致しなかったということがあり、その点の考えが至らなかった部分と考えています」と回答した。
ただ、「復活」する快速は蘇我駅6時台発の2本で、現行の通勤快速より1時間早い7時25分、7時35分に到着するため、生活リズム自体を変えなければ利用できない。沿線自治体も「見直しは不十分」「納得できない」として、あくまでも通勤快速の復活を目指している。
通勤快速の復活が困難な理由について同社は、「通勤の最ピーク時間帯は列車ダイヤが一番密になっているほか、車両も社員も最大限動かしている時間帯であり、検討した結果、影響があまりにも広くなりすぎるため、限られた時間での対応は困難」と説明した。
一方で「ご利用状況などを踏まえたうえで、さまざまな観点から、京葉線の魅力・利便性向上に向け、柔軟に検討してまいりたい」として今後、改めてダイヤを見直す可能性は否定しなかった。
● 段階的に進めてきた 「快速縮小」の集大成
では、なぜJR東日本は「影響に思いが至らぬ」ダイヤ改正を行おうとしたのか。言うまでもないが、何も嫌がらせのために快速を廃止したのではなく、同社には同社の都合、考えがあって立案した新ダイヤである。
同社はダイヤ改正の目的と狙いについて「列車ごとの混雑の平準化」「快速等通過駅における乗車機会の確保」「各駅停車の所要時間短縮」にあったと説明する。その中で快速・通勤快速を廃止する理由は、前後の各駅停車と比較して混雑する朝ラッシュピーク前の快速2本と、前後より利用が少ないピーク時間の通勤快速2本の混雑の平準化にあるという。
沿線にテーマパークやイベント施設を抱える京葉線では、朝ラッシュに限らず快速列車に利用が集中する傾向が強く、混雑のみならず遅延が生じがちだった。今回のダイヤ改正は朝ラッシュの快速運転廃止ばかり注目が集まったが、日中の快速運行時間帯も午前10時~午後3時台まで大幅に縮小されている。
海浜幕張駅の夕・夜間上り方面はイベント参加者・スポーツ観戦者が快速待ちで混雑することから、到着列車に次々と乗せることでホーム滞留を解消したいというわけだ。また夕夜間にも大ナタが振るわれており、東京駅平日午後6時~午後10時過ぎまでおおむね毎時3本設定されている下り快速・通勤快速が全て廃止され、各駅停車のみの運行となる。
もっとも快速の縮小は今に始まったことではなく、2022年3月のダイヤ改正で通勤快速4本中2本を各駅停車に変更。2013年3月のダイヤ改正では蘇我駅7時台から8時台まで通勤快速を除く快速8本を各駅停車に変更しており、現行の各駅停車中心のダイヤはこの時に確立されたものだ。
当時のプレスリリースには、「これまで快速電車が通過していた駅の停車回数を大幅に増やし、乗車チャンスの拡大や乗り換えの不便解消など、利便性を向上させるほか、『快速』と『各駅停車』で差が生じていた電車ごとの混雑偏りを平準化します」と、今回のダイヤ改正と全く同じ説明をしている。
JR東日本としてはこれまで段階的に進めてきた「快速縮小」が受け入れられたとの判断から、集大成として今回のダイヤ改正を実行可能と考えたのだろう。
● 全列車各駅停車化による 副次効果の真偽
全列車各駅停車化の副次効果が、途中駅での待避(追い越し)がなくなることによる所要時間短縮だ。例えば現行の蘇我駅7時42分発各駅停車は、同44分発、同58分発の通勤快速2本を待避するため蘇我~東京間に60分を要するが、待避しない各駅停車は52~53分で走破する。快速・通勤快速の時短効果は各駅停車利用者の負担で成立している、というのは一面の真実だ。
ただ実際は、そう単純な話でもない。現行ダイヤでは蘇我駅6時台~8時台に特急「さざなみ」「わかしお」が計5本、改正後は6本設定されており、朝のラッシュに特急列車が最も多い路線と言えるだろう。先行する各駅停車を3本追い越すも列車もあり、結局のところ待避は避けられないのだ。
もう一つの各駅停車化の目的として、JR東日本は快速等通過駅の「乗車機会の確保」、つまり各駅停車しか止まらない駅の停車本数増を挙げているが、これらの利用者はそれほどまでに増えているのか。最新データの2022年度、コロナ前の2018年度、10年前の2012年度の各駅定期乗車人員を比較したのが下記の図だ。
なお、コロナ禍で大幅に減少した鉄道利用者は2023年度以降急速に回復しているが、ほとんどが定期外利用によるものだ。定期利用については2020年度以降ほぼ横ばいなので、直近の利用状況も2022年度と大きく変わらないとみなして話を進める。
これを見ると、確かに対2012年度で乗車人員が100%を超えている駅のほとんどが快速等通過駅だ。コロナ前との比較でも快速等停車駅が70~80%台なのに対し、90%以上を維持している駅が多い。
ただ、乗車人員を比較すると、快速等停車駅は検見川浜を除き1万人以上なのに対し、通過駅はいずれも1万人未満であり、停車駅と通過駅の規模には大きな違いがある。あくまでも相対的に通過駅の存在感が大きくなったということだ。
● 平準化が必要なほどの 混雑は生じていたのか
では、各駅停車の増発で対処できなかったのか。大前提としてコロナ禍で減少した定期利用は、テレワークの定着もあり、回復の兆しはない。次の表で示すようにJR東日本関東エリアの定期輸送量は、コロナ前の2018年度に約712億人キロだったのが、2020年度は約74%の水準の約529億人キロまで減少し、その後も横ばいだ。
一方、国土交通省の混雑率調査に着目すると、定期利用の減少以上に朝ラッシュのピークシフトが進んでいることがうかがえる。京葉線のピーク1時間の輸送量は2019年(10~11月に実施)の約5.3万人から2022年度には約3万人まで、約57%に減少している。
そのため、2022年のダイヤ改正でピーク1時間の運行本数が24本から21本に削減されたにもかかわらず、混雑率は102%とかなりゆとりがある(もちろんこれは平均値であり列車、車両によって混雑の度合いは異なる)。そのため今回のダイヤ改正でさらに1本減便され20本となる。
鉄道は、運行本数が最も多い朝ラッシュに合わせて車両や人員を用意する必要があるが、これらの多くは日中使用しないため、経営的には非常に効率が悪い。実際に利用者が大きく減少し、かつ鉄道の収益性が低下する中、輸送の効率化を進めること自体はやむを得ない。
しかし利用者が半分になったからといって、運行本数まで半分にしたら、混雑率は元通りだ。もちろんこれは極論だとしても、コロナ禍の結果によって生じた「ゆとり」の利益を、鉄道事業者と利用者が平等に分け合うのではなく、事業者の都合(利益)だけが優先されるとなれば不満が出るのは当然だ。
利用者にとっての利益のひとつは、コロナ禍以降、特に重視されるようになった混雑の緩和だが、少なくとも統計上の平均値では混雑率は劇的に改善している。混雑緩和だけが目的であれば、利用が多い快速はともかく、利用が少ない通勤快速まで廃止する必要はない。
ではどのような場面で混雑が問題化しているのか。この疑問をJR東日本にぶつけると、次のような回答を得た。
「京葉線では朝ラッシュ時はコロナの影響により京葉線の全体としては大きく減少しています。特に京葉線(蘇我方面から東京方面)の列車については武蔵野線と比較してもコロナ後の戻りが悪くなっており、お客さまのご利用が多く列車運行本数が多い市川塩浜以西においては編成両数や停車駅が異なるため、列車ごとの混雑の偏りが発生しています。
特に8両編成の武蔵野線直通列車も運行していることや、京葉線内を新木場まで停車しない通勤快速を含め、列車種別ごとの混雑に偏りがあると認識しています。また通勤快速が運行している時間帯の蘇我~海浜幕張間などでも各駅停車は混雑が発生している状況です」
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