( 134750 ) 2024/02/01 14:02:58 0 00 新たに中期経営計画を発表した壱番屋。1月17日の創業記念日に合わせ、「グランド・マザー・カレー」の販売など創業祭を実施している(記者撮影)
再成長に向けて、目いっぱいアクセルを踏み込む。
大手カレーチェーン「カレーハウスCoCo壱番屋」を運営する壱番屋は1月9日、次期3カ年の中期経営計画を発表した。新中計の最終期となる2027年2月期に、売上高740億円(2024年2月期の見込みに比べて34%増)、営業利益70億円(同42%増)を計画する。
【図で見る】壱番屋の店舗数推移、ここ数年は国内減少の一方で海外店舗を拡大してきた
壱番屋の足元の業績は好調に推移している。2024年2月期第3四半期(2023年3月~11月期)の決算は、売上高411億円(前年同期比16%増)、営業利益38.9億円(同66%増)だった。コロナ禍の影響が薄れ、人流が回復。俳優の山田裕貴氏をアンバサダーとして起用しテレビCMを投入したことも奏功し、来店客が増えた。
第3四半期の店舗売上高(国内直営・フランチャイズ、海外店舗を合計したもの)は782億円(前年同期比16%増)。店舗売上高は通期ベースでは1050億円見込み(前期比14%増)と、過去最高を更新する計画だ。
壱番屋はこの余勢を駆って、今年4月からの新中計にのぞむ。
■目標達成のカギを握る店舗戦略
新中計について、目標達成のカギを握るのは店舗戦略だ。店舗の増加ペースを加速させる。2024年2月末の1458店舗(見込み)から2027年2月末には1660店舗へと、200店舗超の純増を予定する。
単純計算すると、年間に約70店舗弱を純増させることになる。コロナ禍であった2021年からの3年間は店舗数の純減が続いていた。コロナ影響の薄れた今2024年2月期も、国内は3店舗の純減の見込みだ。
店舗網拡張の構えだが、つぶさに見ると、国内と海外ではその戦略が違うことがわかる。
国内では、カレーを含めた多様な業態の店舗を拡大する。まず、CoCo壱番屋の店舗を再び増加する。3年間で61店舗の増加を計画する。
これまでは出店してこなかった駅中立地や、配達代行サービスが浸透している住宅街への出店を拡大する。
加えて、カレー以外の業態の店舗を積極的に増やす。あんかけパスタ専門店の「パスタ・デ・ココ」、「成吉思汗(ジンギスカン)大黒屋」(2020年に運営会社大黒商事を買収)、「麺屋たけ井」(2023年に運営会社竹井を買収)、そして「博多もつ鍋 前田屋」(2023年に運営会社LFD JAPANを買収)といった業態を2024年2月末の計45店舗(見込み)から、3年間で100店舗まで増加させる。
現状、壱番屋は売上高の98%をカレー事業が占めている(2023年2月期実績)。今後はカレー以外の業態の店舗数を増やし、収益源の多角化を目指す。
■海外ではCoCo壱番屋に軸足
多様化を図る国内に対して、海外ではCoCo壱番屋に軸足を置いた展開を進める。
出店ペースは、海外のほうが国内を上回る計画だ。国内店舗数(全ブランド合計)は2027年2月末1360店舗と、2024年2月末から9%増を計画。一方の海外は、同300店舗と、2024年2月末から40%増を算段する。
海外では、2027年2月末までの3年間で86店舗の純増を計画している。2014年2月期から2023年2月期の間に、海外で増加した店舗数は85店舗だった。つまり、今後の3年間で、過去10年分の店舗を一気に増やす計算になる。
壱番屋はこれまで、中国やアメリカなどでは直営、東南アジアではFCを中心に出店を進めてきた。今後もこういった地域での出店を進める構えで、タイや台湾、アメリカでは3年間で10店舗程度をオープンする計画だ。
また、直営で出店していたエリアでもFCでの出店を積極化する。アメリカでは初のCoCo壱番屋のFC店を2023年9月にテキサス州ダラスで開店。出足は売り上げ好調のようで、今後も現地でFC店を拡大をしていく方針だ。
さらに、未出店地域でも出店を計画する。EU圏で3店舗、オーストラリアで4店舗をそれぞれ新たに構える予定だ。
それぞれの地域で、日本のCoCo壱番屋をほぼそのまま出店する。メニューなどに一部違いはあるものの、カレーの辛さやトッピングなどを選択する方式は日本のものと同様だ。
壱番屋が海外展開を強化する背景には、海外の飲食事業の環境が日本よりもよくなっていることがある。
「海外のほうが賃金が上がっており、店舗メニューの値上げを行いやすい。事業環境はいい」。飲食業界のある関係者はこう話す。アジア圏で店舗を運営する別の飲食業関係者も、「日本よりも東南アジアのほうが、価格を高く設定している」と話す。
中国に多くの店舗を持つサイゼリヤは国内の価格を据え置いている一方で、中国では値上げを実施している。値上げをしても、「安価なイタリアンのブランド」という消費者の認知が変わっておらず、客足は好調を維持している。足元では、国内よりもむしろ、中国を含むアジア地域で利益を稼いでいる。
■値上げの許容度がある海外への出店を強化
少子化に伴う人口減少により、飲食業の国内市場は縮小していくことが確実視される。その状況下、値上げの許容度がある海外への出店を強化する飲食業者は増えている。
大手居酒屋チェーンを運営する串カツ田中ホールディングスは、2022年6月にアメリカ・オレゴン州ポートランドに店舗をオープン。焼き鳥チェーンの鳥貴族ホールディングスも、2024年中にアメリカへ出店する計画だ。
トリドールホールディングスが運営する、うどん業態の丸亀製麺も海外進出を進めており、すでに海外で244店舗(2023年9月時点)を構えている。
一方で、飲食業の海外展開には難しい側面もある。先述の飲食業関係者は「海外は店舗契約の期間が短い。国によっては3年~5年のところもある(ケースバイケースだが、日本では10年~20年が多いとされる)。契約更新の際に、賃料の上昇を要求されることもよくある」という。別の飲食業関係者も、「海外での出退店は計画通りに進まないことが多い」と嘆く。
賃料が見合わなければ近くの立地に移転して再出店することになるが、引っ越しが頻繁に起こることもあり、既存店舗への設備投資がしにくいという面もある。
壱番屋は今後、現地法人のある地域でもFC契約での展開を進める。その際は店舗契約はFCオーナー企業側にあり、壱番屋本部が負担するものはわずかだ。しかし、日本と同様のペースで出退店が進むとは限らず、計画通りに進まない懸念もある。日本の本部と各国の本部、そしてFCオーナーと連携を密にしていく必要があるだろう。
国内外で店舗拡大に本腰を入れる壱番屋だが、海外での店舗戦略の成否は成長戦略の行方を左右する。海外でもCoCo壱番屋の看板を数多く見る日が来るのか、新中計の進捗を注視したい。
金子 弘樹 :東洋経済 記者
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