( 135103 ) 2024/02/02 13:37:13 0 00 Photo:Tomohiro Ohsumi/gettyimages
● トヨタの「鎮火」に協力?大人しすぎる報道のワケとは
「あれ?なんだかダイハツに比べるとずいぶん優しいんじゃない?」
豊田自動織機が生産するディーゼルエンジンで検査不正が確認されたことを受けて、トヨタ自動車はランドクルーザーやハイエースなど10車種を出荷停止、国内4工場、6つの生産ラインを稼働停止するという。この発表を受けたマスコミ報道に首を傾げた人も多いのではないか。
ちょっと前に、朝から晩までボロカスに吊し上げられたダイハツの不正に比べると、メディアのトーンがかなりマイルドというか、明らかにトヨタに一定の配慮をしているように感じられるからだ。
わかりやすいのは、会見直後の報道である。23年12月20日、ダイハツの奥平総一郎社長が記者会見を催して不正について説明、謝罪をしたところマスコミ各社はビッグモーターの再来かというほど厳しく糾弾をした。
《「はよ潰れろ」ダイハツ工業の不正問題「『できない』が言えない」「内部通報の犯人探し」報告書に記された衝撃の“ブラックすぎる”職場》(FLASH 23年12月20日) 《不正発覚のダイハツは解体的出直しを》(日本経済新聞23年12月21日) 《ダイハツ不正「あり得ぬ」 利用者、驚きと憤り 出荷停止》(毎日新聞 12月21日) 《「まさにブラック企業」ダイハツ不正問題、第三者委報告書に激震『で?』『なんでそんな失敗したの』具体例見て「今のうちの会社…」と震え上がる声も》(中日スポーツ 23年12月21日)
しかし、今回の不正について豊田章男会長が会見をした翌日の各社のトーンは、以下のように二重人格なのかと疑うほどの豹変ぶりだ。
《トヨタ・豊田章男会長が相次ぐ不正を謝罪 グループ責任者として「変革をリードする」》(日刊スポーツ24年1月30日) 《トヨタ会長自ら「グループを見る」相次ぐ不正を謝罪 「絶対にやってはいけないことをやってしまった」》(カンテレ 24年1月30日) 《トヨタ、グループ17社に責任者 不正問題受け新設》(日本経済新聞24年1月31日)
ダイハツの時のようなユーザーやネットの怒りを引用する記事は少なく、トヨタ側の再発防止策も大きく取り上げており、疑り深い見方をすれば、一緒になって「鎮火」に協力しているようにさえ感じる。
そんな「トヨタ忖度」が特に強く感じられるのが、テレビや新聞という「マスコミ」だ。今回の不正でやたらと「問われる」報道が多いからだ。
● 「問われる」という言葉を乱発する報道の“逃げ”
「なにそれ?」ポカンとしている人のために説明しよう。普段あまり気にしないと思うが、ニュース記事のタイトルで、「問われる政治責任」とか「日本が問われる社会の多様性」みたいな文言を見たことがあるはずだ。これは社会全体に問題提起がなされている重要なテーマですよ、と読者や視聴者に伝える「ニュース話法」のひとつだ。
ただ、そういう本来の使い方がされない時もある。報道機関である自分たちが厳しく「問いただす」ことをしなくてはいけないが、オトナの事情でそれができない時に、「厳しく追及していますよ」という雰囲気を醸し出すために多用されるのだ。
ジャニーズ問題がわかりやすい。ご存じのように、ジャニー喜多川氏の性加害は週刊誌や月刊誌、ネットやSNSではかなり以前から「事実」として語られていた。しかし、ビジネスパートナーであるテレビと、警察発表に依存する大新聞は「黙殺」してきた。
そういう経緯もあるので、テレビも新聞も本音の部分では、自ら進んでこの問題は扱いたくなかったし、同業者の責任追及や批判などしたくなかった。つまり、「問いただす」ことをしたくないのだ。
しかし、世間はそれを許さない。「膿を出せ」「検証せよ」「手ぬるいのでは」という感じで厳しく追及せよプレッシャーがくる。そこで「本当はやりたくないけれど、やっているように世間に見せる」ために、「問われる」という便利なワードに依存してしまう。
《ジャニーズ事務所が性加害認める 問われるメディアの姿勢》(NHK放送文化研究所 「放送研究と調査」23年11月号) 《ジャニーズ報道、問われる「沈黙」 朝日新聞「メディアと倫理委員会」》(朝日新聞 23年12月25日) 《ジャニーズ、性加害で謝罪 問われる自浄能力》(日経新聞 23年9月8日) 《ジャニーズキャスター、問われる矜恃 故・ジャニー喜多川氏の性加害認定どう語る 週末に報道番組など所属タレント登場》(夕刊フジ23年9月1日)
「いやいや、報道機関なんだから自分たちで厳しく問えよ」とあきれるかもしれないが、これがマスコミにとっては精一杯のファイティングポーズだ。
もし朝日新聞社やNHKという巨大組織の中で、「メディアの姿勢を問う!」とか「ジャニーズ報道の沈黙を問う!」なんて言い出す人があらわれると、「お前正気か?」「先輩やOBの顔に泥を塗るのか、この裏切り者!」なんて感じでボロカスに叩かれて、更迭や左遷されるのがオチなのだ。
● 今回のトヨタ報道でも「問われる」だらけ
そんなメディア忖度を象徴する「問われる」というワードが、今回のトヨタの不正を報じるニュースのタイトルや記事内容で頻出している。その一部を抜粋しよう。
《 (記事本文中)改めてトヨタの統治体制が問われている》(朝日新聞デジタル『トヨタ社長「組織上の課題」源流・豊田織機で不正拡大、問われる統治』1月29日) 《問われる「トヨタ」企業統治 豊田織機不正、染みついた受託体質》(毎日新聞1月29日) 《 (ナレーション部分)日本の“ものづくり”の最前線で拡大する不正の数々…。改めて「トヨタブランド」のあり方が問われています》(読売テレビ『「キャンセルの可能性」納車は白紙に…トヨタ不正で10車種出荷停止 広がる影響に関西の企業も困惑』1月30日) 《不正拡大、問われるトヨタ流 ダイハツに続き織機でも》(朝日新聞1月30日) 《 (記事本文中)品質への信頼が揺らぐ事態となっており、変革に向けた取り組みの実効性が問われている》(読売新聞『グループ各社はトヨタに「もの言えない」、豊田章男会長認める…トップ交代で「意見出やすくなった」とも』1月31日) ここまでわかりやすい不正をしているのだから、企業統治や「トヨタ流」に致命的な問題があるのではないか、と厳しく問うのがテレビや新聞の役目なのに、なぜそんなに腰が引けているのか。
ビッグモーターで不正が起きた時はテレビも新聞もあれほど嬉々として、創業者一族支配や社内のノーと言えない空気の原因を問いただしていた。「問われるパワハラ体質」なんてぬるいことは言ってなかった。
ならば、トヨタでもそれをやるのが筋ではないか。他社ではあれほどやっていたことを、トヨタだけにはやらないとなると、「忖度」と指摘されてもしょうがない。
なんてことを口走ると、「中立公正」「社会の木鐸」を掲げるマスコミや立派なジャーナリストから「おかしな難癖をつけるな!トヨタとダイハツやビッグモーターでは不正の種類や規模、期間、悪質さが全然違うから報道のトーンが違うだけだ!」という厳しいお叱りを頂戴しそうだ。
ただ、本当に中立公正な目で「悪質さ」を批判したいというのなら、今回のトヨタの不正は、ダイハツの不正の1.5倍くらい厳しく叩かれなくてはいけないはずだ。
ダイハツの不正は、親会社であるトヨタの「不正カルチャー」の影響を受けた可能性もあるからだ。
● 「日本を代表する企業」であれば、負の側面も集約される
「朝日新聞デジタル」(23年12月29日)も指摘しているが、ダイハツの不正が始まったという1989年以降、同社の歴代会長・社長12人中、トヨタ出身者が8人もいる。
買収などで巨大グループの子会社になった経験のある人はわかると思うが、親会社から派遣された経営陣は、最初は「これまで通りみなさんのやり方でやってください」と寛容さと自由度をアピールする。しかし、次第にコーポレートガバナンスの名のもとに、「親のやり方や思想」を現場に押し付けるものだ。
今回、トヨタグループの「源流」である豊田自動織機に不正が見つかった。そして、同じような不正は「統治先」である子会社でも見つかっている。親と子の力関係的やトヨタ出身経営者の多さを踏まえれば、不正が当たり前であった「親」の影響を受けて、「子」の不正カルチャーが脈々と育まれていった――と考えるのが自然ではないか。
30日の会見で、豊田章男会長は「トヨタにものが言いづらい」という空気があったことを認めた。特別調査委員会の報告書でも、開発遅れの懸念を上司に相談しても「『何とかしろ』と言われる雰囲気があった」との声が記載されている。これはダイハツやビッグモーターでも明らかになって、マスコミが大騒ぎした「恐怖支配」「ブラック企業体質」と丸かぶりだ。
何かにつけて、マスコミはトヨタを「日本を代表する企業」と称賛している。が、日本を代表する企業ということは、裏を返せば、日本企業の負の側面を代表するような「組織の病」を抱えている可能性も高いということだ。
神戸製鋼、東芝、三菱電機などこれまで日本を代表する「ものづくり企業」で数十年単位に及ぶ不正体質が明らかになっている。ならば、「日本代表をする企業」でも同様の問題が起きていてもおかしくない。
そこをしっかりと問いただして、近年多発する不正問題の根っこを浮かび上がらせることこそが、立派な報道機関やらジャーナリストのみなさんがやるべきことのような気もする。
「問われている」という腰が引けた姿勢はそろそろやめて、今こそ日本企業のどこに病巣があるのか、トヨタグループに厳しく「問う」べきではないのか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)
窪田順生
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