( 135210 )  2024/02/02 22:39:43  
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この記事は、性被害という困難な過去を抱える女性の体験に焦点を当てています。

女性は 40 歳を過ぎてから初めて自分の体験を受け入れ、精神的なサポートを受けて心の傷を癒し始めました。

記事には、性被害の特徴や認識の難しさ、日本と海外での刑法の違いなどの情報も記載されています。

また、性被害根絶のための運動や、フラワーデモに参加する経験も述べられています。

(要約)

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女性への暴力根絶運動のシンボル「パープルリボン」と子どもの虐待防止を呼びかける「オレンジリボン」運動のキーホルダーを手にする空さん(仮名) 

 

性被害には、被害にあってからすぐに訴え出るのが難しいという特徴がある。 

幼児期から中学生になって初潮が来るまで父親から性虐待を受けた女性(46)は、長年にわたり体調不良や精神的苦痛にさいなまれた。苦しみの原因が性被害にあると認識できたのは40歳を過ぎてからだった。 

何年たっても、痛みは消えない。被害者は悪くない。きちんと被害が認められ、救済される世の中になってほしい。女性はそう願い、行動している。【菅野蘭】 

 

【グラフ】性被害にあった場所 一番多いのは… 

 

 一番近しい人に心を壊された。始まりは4歳のころ。空さん(仮名)は、一緒に風呂に入っていた父にゴツゴツした指で下半身を触られた。「痛い」と訴えたが、行為はやまなかった。父の上に座らされた。 

 一緒に入浴しなくなって、嫌な思いをすることはなくなった。でも、それはほんの一時期だけ。小学校の高学年になると、また、あの手が襲ってきた。 

 2Kのアパート暮らし。親子3人、川の字で寝ていた。隣にいた母は父の行為に気付いていたはずだ。でも、何も言わなかった。母に重度の障害があったことが関係していたのかもしれない。 

 中学生になったある日、父は「気持ちが悪くなっていないか」と体調を尋ねてきた。それ以来、行為はやんだ。初潮を迎える前だった。妊娠を警戒したのではないか。質問の意味に気付いたのは、ずっと後だ。 

 

 恐怖の体験から、自身を「汚れた存在」と思うようになった。引っ込み思案だった性格もあり、クラスで無視されるなど、いじめの標的にされた。学校の先生は「気のせいじゃないか」と話して取り合ってくれず、何度も「この世から消えたい」と思った。 

 それでも進学、就職、結婚、出産とライフステージを進める中で、がむしゃらに意識的に「普通の生活」を送った。 成人後、父を避けてきたことで、親族から「なぜ親を大切にしないのか」と責められた。何度か精神科を受診したが、壊れた心の壊れた心の奥に触れられることはなかった。悪夢のような体験を伝えることもできず、「うつ病」と診断されただけだった。 

 

 

法制審議会の総会で「性犯罪に適切に対処するため、法整備を早急に行う必要がある」とあいさつする斎藤健法相(当時)=昨年2月 

 

 40歳を過ぎて転機が訪れた。育児をしながら家事をうまくこなせず、夫と衝突することが多くなった。「私は生きている価値がないのかな」。助けを求めて、再び精神科を受診した。時を同じくして、久しぶりに高校時代の友人と連絡を取ったことで、当時の気持ちがよみがえり、あふれた。風呂に入っていた時、寝ていた時……。幼少期に受けた父からの行為について、初めて、医師に話すことができた。 

 自身の体験を客観視できるようになり、性暴力の被害でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患う人がいることも知った。「先生、私でも障害者手帳を持てるのでしょうか」。そう訪ねた空さんに、医師は「楽になるよ」とほほえんだ。2022年、精神障害者手帳を取得した。被害体験や、これまでの苦しみが認められたような気がした。「もう1人で抱えなくてもいいよ」と許された気持ちになった。 

 

 性被害に遭っても、すぐに「被害」と認識できない人は6割にのぼる。性被害の当事者らの一般社団法人「Spring(スプリング)」による20年のアンケートで、そんな実態が浮かび上がった。 

 集まった回答のうち、「加害者の体の一部や異物を口や膣(ちつ)に挿入された」と答えたのは1274件。このうち「すぐに被害と認識できなかった」は810件(63・6%)あった。 

 被害を認識するまでの年月について、「26年以上」は35件、うち「31年以上」は19件あった。6歳までに被害に遭った人では、4割超が被害と認識するまで11年以上かかっていた。 

 精神科医で武蔵野大の小西聖子教授によると、30歳を過ぎてから、幼少期の虐待について相談に来る人は多いという。児童相談所など第三者の発見がない場合は本人がすぐに「被害」として認識できないとし、「打ち明けにくい話だし、責めるような言動を浴びせられる2次被害が多いことも影響して、被害の申告までに時間がかかります」と説明する。 

 

 2023年6月、改正刑法が成立した。レイプ被害者が対象となる強制性交等罪の公訴時効は10年から5年延びて、15年になった。 

 18歳未満で被害に遭った場合は、事件のあった日から18歳になるまでの年月が公訴時効に加算される。例えば6歳で被害に遭った人は、15年に12年を足し「33歳」まで加害者を罪に問えようになった。 

 一方、イギリスでは性犯罪に公訴時効はない。スイスは12歳未満の児童への性犯罪は時効が撤廃されている。 

 空さんが性被害を認識したのは40歳を過ぎてからだ。そして、父は10年前に病死している。罪を認めて償うべき人はこの世におらず、公的な補償を求めることもできない。虚無感にさいなまれる日々を送るからこそ、加害者が他界しても、被害者の救済をおろそかにしてはいけないと強く思う。だから、旧ジャニーズ事務所(現SMILE―UP.=スマイルアップ)の創業者、ジャニー喜多川氏による性加害問題の行く末を気に掛けている。 

 

 

昨年2月11日のフラワーデモでは、刑法の改正要綱案について説明があった 

 

 被害に遭ってから月日がたった自分は「今、苦しさのど真ん中にいる人」よりも余裕がある、と思うようになったという空さん。情報を発する支援団体や当事者と巡り合ったことで今はほぼ毎月、性暴力に抗議する「フラワーデモ」に足を運ぶ。 

 小さな花束やプラカードを手に持ち、参加者の話に耳を傾け、時にはマイクも持つ。空さんは、記者にこう話す。 

 「被害を自覚しても最初はその苦しみを受け止めるので精いっぱい。公訴時効の5年延長では絶対足りないと思うんです。今、苦しくて外で現状を訴えられない人の分まで、私は気持ちを伝えたいんです」 

 小さな叫びかもしれない。でも、声を上げ続ける。それはやがて大きなうねりになると信じているから。自身の覚悟を再確認しているようだった。 

 

※この記事は、毎日新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。 

 

 

 
 

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