( 135477 )  2024/02/03 14:31:44  
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トヨタグループの不正問題を受け、豊田章男会長がグループの変革に取り組むことを宣言し、新しいビジョンを示した。

豊田会長は、自ら責任者として改革に取り組むことを表明し、グループの進むべき方向を示し、「発明の心」を重視する方針を発表した。

また、日野自動車、豊田自動織機、ダイハツ工業における各社の不正問題も報告され、それぞれの問題点が明らかになっている。

豊田会長が今後の行動を注目されている。

(要約)

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相次ぐトヨタグループの不正発覚を受けて、豊田章男会長は責任者としてグループの変革に取り組むことを宣言した Photo: Getty/Bloomberg 

 

● トヨタグループの一連の不正で 新ビジョンを策定 

 

 トヨタ自動車は、1月30日に名古屋のトヨタ産業技術記念館で「トヨタグループビジョン説明会」を行い、豊田章男会長が会見に臨んだ。これは、日野自動車・豊田自動織機・ダイハツ工業とトヨタグループ各社の不正が連鎖したことに対応したもので、豊田会長は改めて深く陳謝した。 

 

 会見の場で、豊田会長は「トヨタ創業の原点を見失った」とし、新たなグループビジョンを「次の道を発明しよう」と定め、トヨタグループ全体で共有することを発表した。 

 

 新ビジョンの背景として、豊田会長は、トヨタグループの原点は「多くの人を幸せにするためにもっといいモノをつくること」、すなわち「発明」にあるとし、「発明の心と向き合い、誰かを思い、技を磨き、正しいモノづくりを重ねる。互いに『ありがとう』と言い合える風土を築き、未来に必要とされるトヨタグループになる」と説明した。 

 

 この会見に先立ち、トヨタグループの原点である産業技術記念館にグループ17社の会長・社長と現場リーダーを集め、トヨタグループの進むべき方向を示した「新ビジョン」と「心構え」を全員で共有したことも報告した。また、豊田会長は「今日から私自身が責任者として、グループの変革をリードしていく」と、トヨタグループ全体責任者としての立場を明確にして改革に取り組んでいくことを宣言した。 

 

 1月30日に豊田会長による「トヨタグループビジョン説明会」を開くことはトヨタから事前に予告されていたのだが、豊田自動織機の会見が前日にあったことから実際には“謝罪会見”となるとみられており、豊田会長がどのような言葉を紡ぐのかが注目されていた。 

 

 だが、実際にトヨタがグループ新ビジョンを公表したことに対し、筆者がやや違和感をもったのは、トヨタグループにはすでに行動指針として「豊田綱領」がある点だ。豊田綱領は、トヨタの始祖であり豊田会長の曾祖父にあたる豊田佐吉氏の遺訓で、トヨタおよびグループ各社に浸透してきたものだ。「常に時流に先んずべし」のフレーズが有名だが、最初の一文は「上下一致、至誠業務に服し」とある。トヨタの中核であるグループ17社には、この豊田綱領を今一度、徹底させればいいのではないか。 

 

 

 皮肉にも同日にトヨタは、2023年の世界新車販売がグループ全体(ダイハツと日野を含む)で22年比7%増の1123万台、トヨタ単体(トヨタ・レクサスブランド)で8%増の1030万台だったと発表したばかりだった。グループ全体と、トヨタ単体ともに過去最高であり、単体で1000万台を超えるのは初となる。いずれも独フォルクスワーゲン(VW)を上回り、4年連続で世界首位を堅持した。 

 

 また、近く24年3月期連結決算が発表されるが、本業のもうけである今期営業利益は過去最高となる前期比65%増の4兆5000億円を確保する見通しだ。まさに「トヨタ一強」が浮き彫りになる中での、トヨタグループの不祥事に対応する最高責任者会見となった。 

 

 豊田会長は自身の社長就任時以来の出来事を振り返り、リーマン・ショックによる赤字転落、品質問題による米議会公聴会への出席などの経験から「14年前に一度つぶれた会社であるトヨタ」を変革してきたことを強調し、グループ3社の不正対応を「会社を作り直すくらいの覚悟で、強みを生かし変革の仕方を探すことを責任者としてやっていく」と述べた。 

 

 当面の具体的な動きとしては「グループ17社の株主総会にすべて出席して状況を把握し、現場と商品軸のグリップを固めていく」こととした。 

 

 一連の不正問題が発覚したトヨタグループ各社を見ると、いずれもグループにおける重要な企業だということが分かる。 

 

 トラック(商用車)の日野、軽自動車・小型車のダイハツと、トヨタ本体にない領域をカバーしていることに加えて、トヨタの源流会社でグループ御三家に数えられる豊田自動織機は、フォークリフトで世界トップシェアの位置付けにある。さらに、いずれも自社ブランドと共にトヨタからの受託生産を行なっている。 

 

● 日野自、ダイハツ、豊田自動織機… グループで多発した不正発覚 

 

 日野自動車のエンジン認証不正の発覚は22年3月だったが、その後の調査で2003年から不正が続いていたことも判明していた。23年5月末に親会社のトヨタは独ダイムラー傘下の三菱ふそうと日野自の統合を発表し、24年末までに日野自・三菱ふそうが統合して、商用車メーカー再編にまでつながるものとなった。 

 

 ダイハツは、23年4月に内部告発で明らかになった側面衝突試験の不正が当初取り沙汰されたが、それから半年を経過した第三者委員会の報告では174件もの試験不正があったこと、それらが1989年から30年以上続いていたこと、さらに2014年以降に不正行為件数が増加していることが明らかになった。これにより、12月26日からダイハツ全工場で全車種出荷停止という異例の事態に陥った。 

 

 なお、ダイハツといえば明治40年創業の最古参スモールカーメーカーで、大阪府池田市ダイハツ町1番1号を本社とし、大手自動車メーカーで唯一関西を地盤とする。 

 

 トヨタとの関係は1967年の業務提携に始まり、98年にトヨタがダイハツ株の過半(51%)を取得して子会社化、2016年には100%出資の完全子会社となった。 

 

 かつては小型三輪車の「ミゼット」で一世を風靡(ふうび)するなど「在阪メーカーの気概」を持った自動車メーカーだったが、トヨタとの連携が深まる中で、開発期間の短縮・構造改革のプレッシャーなどが不正を増加させたという見方もある。 

 

 そうでなくとも、16年に社内カンパニーとして発足した「新興国小型車カンパニー」はダイハツを軸として始動しており、それらの経営判断を行ったのが豊田会長自身なのだから、ダイハツ立て直しはまさに豊田会長が「グループ責任者」として取り組むべきテーマであり、喫緊の課題となろう。 

 

 

 豊田自動織機は、豊田会長会見の前日の29日に特別調査委員会と伊藤浩一社長らによる会見を開催したが、ここでも見えたのは、日野自・ダイハツと同じ光景だった。 

 

 豊田自動織機は23年3月にフォークリフト用エンジンの性能試験でデータを差し替える不正行為があったことを発表していたが、今回の特別調査委の報告によると、トヨタから委託している自動車用ディーゼルエンジンの出力試験の不正が発覚したほか、フォークリフト用エンジンでも新たな機種で不正が判明した。 

 

 伊藤社長は「弁明の余地がない行為。トヨタとのコミュニケーションが不足し、試験のプロセス、守るべき手順の擦り合わせが十分、行われていなかった」と、陳謝した。 

 

 豊田自動織機といえば、豊田会長の祖父の喜一郎氏が同社からトヨタ自動車工業を分離独立させた、いわばトヨタの“源流・本家”である。トヨタの完成車の委託生産やエンジン委託生産を含む多岐にわたる事業を展開し、先述したフォークリフトのほか、カーエアコン用コンプレッサー、エアジェット織機のシェアは世界トップである。会長には、トヨタ中興の祖とされる豊田家分家筋の豊田英二氏の次男の豊田鐵郎氏が就任している。 

 

 このグループ3社の不正問題は、トヨタにとってそれぞれ「要の企業」であるだけに由々しきことだ。豊田会長にとっても14年のトヨタ社長としての経歴を傷つけるものとなったことは否めない。 

 

 これは3社に限った話ではなく、この間、トヨタディーラーの車検不正問題が発生したほか、直近ではデンソーの燃料ポンプ大量リコール問題など数々の問題が表面化している。 

 

 豊田会長は30日の会見で、トヨタグループで相次ぐ不正への責任を問われて「14年間、トヨタ自動車社長として赤字で引き継ぎ、危機の連続で正直、ゆとりがなかった。トヨタを立ち上がらせるのに精いっぱいだった」と、反省の弁を口にした。加えて、「昨年、社長を譲って会長になったことは大きな変化点。トヨタグループとして再生するようリードしていく」と、会長マターとしてトヨタグループ再生へ全力を注ぐと力を込めた。 

 

 昨年4月に世代交代して佐藤恒治氏(54歳)にトヨタ社長の座を託したが、豊田会長はまだ67歳だ。トヨタおよびトヨタグループの総帥として、信頼回復と各社の立て直しに今後、どう具体的に動いていくかが重要であり、次の一手が注目されよう。 

 

 (佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫) 

 

佃 義夫 

 

 

 
 

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