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記事の要点は、財務省が財政均衡主義を優先し、増税にこだわる姿勢をカルト教団のようだと批判している経済アナリストの森永氏の告発について報じています。

また、アベノミクスの失敗について、安倍政権が財務省との折り合いがつかなかったことを指摘しています。

経済政策や増税に関しての複数の発言や状況を挙げて、財務省の影響力やカルト教団化について検討しています。

(要約)

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アベノミクス失敗の陰に財務省あり?(時事通信フォト) 

 

「財政への信任が失われることがないよう、財政健全化を着実に進める」──1月22日、経済財政諮問会議で岸田文雄首相はそう発言した。内閣府は同日、2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)について、「1.1兆円の赤字」見通しとなる試算を公表。インフレによる税収増を歳出増が打ち消すため、「政府が目指す2025年度のPB黒字化達成は困難」とメディアは報じている。 

 

【写真】在任中は「3本の矢」について何度も繰り返した安倍首相 

 

 そうしたなか、金融とグローバリゼーションを題材にした小説『エアー3.0』を執筆中の小説家・榎本憲男氏は、経済アナリスト・森永卓郎氏によるベストセラー本『ザイム真理教』に注目する。国民生活が貧しくなっても消費税増税を続ける財務省は“カルト教団化”しているという森永氏の告発について、榎本氏が考察する。 

 

 * * * 

 昨年話題となった森永卓郎氏の『ザイム真理教』がいまだに売れ続けているという。僕も先日遅ればせながら読んだ。 

 

 この本のタイトル「ザイム真理教」の要点を先に述べよう。ただし、以下は僕独自の要約であり、森永氏の言葉遣いを、僕なりに若干翻訳していることを先にお断りしておく。 

 

 本書は、タイトルにも反映されている通り、財務省がカルト教団化しているという告発本である。財務省は、財政均衡、財政の健全化、プライマリーバランスの黒字化(この3つはだいたい同じと考えてよい)がなによりも大事なのだ(財政均衡主義)という根本教義を広めている。新聞テレビの大手メディアもこの教義の拡散に協力して国民を洗脳し、さらに再配分に力を入れるはずのリベラル陣営の政治家や評論家もこの教義にいつのまにか洗脳されている──。国民生活がどんどん貧しくなるのを止めるには この洗脳を解き、一刻も早く、減税と財政出動に政策を向けるべきだ。こう考えた森永卓郎氏が、決死の思いで書き上げたのが本書である。 

 

 森永氏は、「新自由主義からの脱却を目指す」と宣言した岸田政権に発足時には非常に期待を寄せたが、日を追うごとに落胆が大きくなったと言う。興味深いのは、対照的に森永氏が、安倍晋三元首相のアベノミクスを評価していることだ。 

 

 アベノミクスの「3本の矢」、【1】金融緩和、【2】財政出動、【3】成長戦略は決してまちがいではなかった。ただ、【1】から【2】へ移れなかったのだ。なぜ移行できなかったのか。それは財務省が協力しなかったからだろう。ということは、無双に見えた安倍政権も、財務省カルト教団の教義を封じ込めることができなかったということか。 

 

 

 では、ここで、『安倍晋三 回顧録』(安倍晋三著、聞き手:橋本五郎、聞き手・構成:尾山宏 監修:北村滋)を紐解いてみよう。財務省に対する恨み節はいろいろ出てくるが、ひとつだけ紹介する。 

 

〈この時(*筆者注/増税政策を拒否した時)、財務官僚は、麻生さんによる説得という手段に加えて、谷垣禎一幹事長を担いで安倍政権批判を展開し、私を引きずり下ろそうと画策したのです。(略)彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない〉(同書「安倍政権を倒そうとした財務省との暗闘」より)。 

 

 しかし、それでも最終的に安倍政権は逆にやむなく消費増税までするはめになった(2014年4月1日に5%から8%、2019年10月1日に8%から10%)。それほどまでに財務省のプレッシャーは強いということか。 

 

 先日、経済学者の高橋洋一氏(嘉悦大学教授)が国民民主党代表・玉木雄一郎議員の地元香川県に赴いて講演し、その後ふたりで行った対談を収録したYouTube動画(YouTube高橋洋一チャンネル950回「香川で玉木さんと財務省の話とうどんを」)がある。 

 

 高橋・玉木の両氏はともに大蔵省に入省し、財務省を退官後にそれぞれの道に進んだ。財務省の空気をぞんぶんに吸ってきたふたりである。そして、彼らは「ザイム真理教」の“布教活動”は確かにあると言っている。玉木氏は「財務省は頭もいいけど、人もいいんですよ」と持ち上げておいて、「メディアも政治家も、財務省の講義を30分から1時間受けるとすぐ転ぶ」(大意)と観客を笑わせているが、本当だとしたら笑いごとではない。 

 

 思い当たる節はある。安倍政権下、蓮舫議員は「財政黒字を憲法に入れたい」と財務省が泣いて喜ぶような主旨の発言をしているし(2017年5月2日付日本経済新聞)、枝野幸男・立憲民主党代表(当時)は「だから、本来効果が上がるはずの金融緩和をとことんアクセルを踏み、財政出動にとことんアクセルを踏んでも、個人消費や実質賃金という、国民生活をよりよくするという経済政策の本来の目的にはつながらないところで止まっているのではないでしょうか」と大演説をした(2018年7月20日衆院本会議)。 

 

 

 枝野演説について言えば、安倍政権は消費税増税は実施したが、「財政出動にとことんアクセルを踏んで」などいない(安倍政権下の公共事業関係費は鳩山民主党政権下の公共事業関係費の当初予算よりもむしろ低い)。アベノミクスの【1】から【2】への移行はなかったのである。批判をするなら、「アベノミクスの三本の矢の二本目はどうしたんですか。いつ財政出動するのですか」とツッコむべきではなかったか。 

 

 経済が停滞している時に増税という経済政策は本来なら有り得ないのだが、我が国では、ザイム真理教が、財政均衡主義という根本教義のもと、たとえ国が疲弊しても、この愚策を強引に押し進め、今後も進めようとしている。このような行為はとてもじゃないがカルト教団の教義をもってしか正当化できない、と森永氏は告発している。 

 

「ザイム真理教」という呼称には劇薬に似た激しさがある。本書が大手出版社数社から出版を断られたのは、その激しさ故だろう。ここまで激しい表現を使わなければ伝わらないのだという、著者の覚悟が滲むタイトルだ。そして、この本は売れているという。森永氏が込めた劇薬はすこしずつ効きはじめているのかも知れない。 

 

【プロフィール】 

榎本憲男(えのもと・のりお)/1959年和歌山県生まれ。映画会社に勤務後、2010年退社。2011年『見えないほどの遠くの空を』で小説家デビュー。2018年異色の警察小説『巡査長 真行寺弘道』を刊行し、以降シリーズ化。『エアー2.0』『DASPA 吉良大介』シリーズも注目を集めている。近刊に『サイケデリック・マウンテン』、『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』など。 

 

 

 
 

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