( 136653 ) 2024/02/06 23:50:26 0 00 「元上司が再雇用で部下に…何を頼めばいい?」相談しづらい管理職の悩みに、識者が答えます
部下のマネジメント、仕事の成果、重くなる責任……管理職になれば向き合う問題が次々と襲ってくるようになりますが、立場上なかなか相談しづらくなるのがつらいところ。
そんな管理職のみなさんが抱えるマネジメントの悩みに、人材育成、女性活躍、ダイバーシティ、組織開発、チームワークなどに長けた識者が回答します。
宮原淳二さん
回答者:宮原淳二さん 東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部長
21年前、当時“働き方改革”の先陣を切っていた資生堂に入社し、営業、商品開発・マーケティング、労働組合専従、人事部などさまざまな業務を経験した。 特に男女共同参画・WLB(ワーク・ライフバランス)の分野で中心的に活躍、当時まだ珍しかった男性育児休業も取得。マネジメント経験も豊富。 2011年より東レ経営研究所に転職し、働き方改革に関する講演や政府の審議会委員なども務める。
「私の会社では定年も延長され、定年退職者の再雇用も積極的に始めています。しかし、いざ現場を取り仕切るものとしては、年上で自分より経験のある人に何を頼んだらいいのかわかりません。
現場の若手にも育ってほしいですが、再雇用者に事務的な作業を頼むわけにもいかないのです。どんな仕事を頼めばいいのでしょうか?」
ご相談ありがとうございます。
日本の労働力不足は年々加速し、女性活躍推進はもちろんのこと、シニア層の活躍も今後は不可欠になってきます。令和3年4月に厚生労働省は改正高年齢者雇用安定法を制定し、努力義務ではありますが、70歳までの就業機会を企業に求めることになりました。
一方で法改正が行われたといっても、シニア層に高い意欲を持って働いていただくには、会社側、管理職や同僚、そして何よりも本人の意識改革が必要になってくるでしょう。
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シニア層の再雇用が広がる中、社内では元上司が自分の部下になるというケースも出るようになりました。年上の部下を持つ管理職としては、何かと気を使う再雇用制度ですよね。
しかし、シニア層も役割が変わったのですから、いったんこれまでの考え方をリセットし、周囲にどう貢献できるか、意識を変える必要がありますよね。
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実は私も以前の職場で、自分より年上の再雇用者の管理職となったことがあります。
その時に気をつけたのは、相手の経験や知見をリスペクトし、プライドを傷つけないようにしたことです。
例えば、その方は私の部下ではあるものの、普段は敬語を使って話していました。しかし、何か問題が起きたり、やり方を変えてもらったりしたい時には、強い口調で伝えたこともあります。年下の管理職を甘く見られては困りますからね。
ただ注意する時には、みんなの前で指摘したりはしませんでした。「ちょっと時間ありますか?」と伝え、会議室で話をして、「こうしていただかないと周囲が困ることがあります」など、常に周囲からどう見られているのかを中心に話をしていました。
また話を締めくくる時には、「これまでさまざまな経験をされてきましたよね。〇〇さんの存在、助かっていますよ」と伝えるようにしました。
しかし、誰もが心を開いてくれる方ばかりではありません。
経験豊富でも、つい手を抜いてしまうこともあります。そういう方には何度も繰り返し注意をしなくてはなりません。手を抜いている様子を、若手はきちんと見ています。
目に余る行動をしたシニアには担当を代わってもらったこともあります。周囲からのクレームにどう管理職が対応するかも同僚たちはよく見ています。
若年層であれば、先は長いので、経験をバネに成長してくれますが、シニア層はそうはいきません。1年更新の再雇用ですので、何度注意しても態度が変わらない人は次年度の更新の打ち切りをもちらつかせたこともありました。
なるべくそうしたくはないのですが、そこは徹底しないと、組織力が落ちてしまうのです。
令和3年4月にシニア雇用に関する法律が変わりました。
【改正高年齢者雇用安定法の概要】(2021年4月1日施行)
〔改正の趣旨〕
少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、活躍できる環境整備を図ることが必要。個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化する努力義務を設ける。
〔現行制度〕 事業主に対して、65歳までの雇用機会を確保するため、高年齢者雇用確保措置(①65歳まで定年を引き上げ、②65歳までの継続雇用制度の導入、③定年廃止)のいずれかを講ずることを義務付け。
〔改正の内容〕 ● 事業主に対して、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、高年齢者就業確保措置として、以下の①~⑤のいずれかの措置を講じる努力義務を設ける。 ①70歳までの定年引き上げ ②70歳までの継続雇用制度の導入 ③定年廃止 ④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 ⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に
a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 に従事できる制度の導入
● 努力義務について雇用以外の措置(④および⑤)による場合には、労働者の過半数を代表する者等の同意を得た上で導入されるものとする。
出典:厚生労働省『70歳までの就業機会確保(改正高年齢雇用確保法)』
再雇用者の創業支援もできるようになり、社内でそのまま再雇用しなくても業務委託することも可能になったのです。
そうなると、これまでの人間関係とは切り離して、また「仕事」中心の関係で付き合っていけばよいので、年上部下として付き合うよりは対等な関係となり、変なストレスがなくなるでしょう。
まだまだそうした事例は少ないので、これから事例をたくさん作っていく必要はあると思います。
再雇用されるシニア層にも意識改革が重要です。
「自分は多くの経験を持った上の人間だ」という意識は捨てなくてはいけません。いつまでも上から目線な態度で周囲に接しているとさけられてしまいます。
よく聞くのは、シニア層は「電話を取らない」「事務作業をしない」「雑談が多い」などです。 慢性的な人手不足から、現役社員は多くの仕事をこなしています。給料が下がったからといって、仕事の手を抜くことは周囲に対して悪影響です。
お金の価値ではなく、チームの一員として働く意識が必要なのです。日本人の良いところは、欧米型の「ジョブ型」と違い「メンバーシップ型」を重んじるところです。 確かにお金は大事な要素ですが、そこに固執するのであれば、別の仕事を探すべきかもしれません。
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これまでお世話になった会社に再雇用されるのであれば、ご自身の経験をしっかり後輩に伝えるなど、「後輩の良き伴走者」になることが重要になってきます。
経験があるからこそ、明文化されていないような仕事のノウハウや細かな情報を伝えてあげたり、人生の先輩としての相談役になったりすることもできます。
もう体力的には現役世代の方にはかないません。しかし、過去、こういう場面で失敗した、などシニア層の体験は何物にも代えられません。ぜひ、周囲から尊敬されるシニアになっていただきたいと思いますね。
宮原淳二さん
また、会社側としても再雇用で働く人の位置付けをきちんと考え直す必要があります。給料は下がったのに同じような仕事をさせていて裁判になったケースも過去にはあります。
さきほど、日本は「メンバーシップ型」というお話をしましたが、近年、ジョブ型にかじを切る会社も増えてきました。私はシニア雇用こそ、ジョブ型に適しているのではないかと思います。
ジョブディスクリプション(職務説明)をはっきりと明記し、互いにその内容を確認し、会社が期待していること、また当事者が望んでいる役割やサポートしてほしいことなど、しっかり対話していくことをお勧めします。
ただし、通常の社員との違いで一つ特に気にしなくてはいけないのは、健康管理です。
「まだまだ元気で現役と同じだ」という方も多いと思います。しかし、体は少しずつ老化しています。頑張りすぎて途中で倒れてしまう例も実際に聞きます。
本人はもちろんのこと、会社側、管理職側も一緒になって無理をさせていないか、健康診断の結果を受け、きちんと再検査しているかなど、気を配る必要があります。
そうした配慮をしつつ、お互いがリスペクトできる存在であってほしいですね。
取材・構成:岩辺みどり 写真:鈴木愛子 編集:中村信義 デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
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