( 137793 ) 2024/02/10 14:06:34 0 00 2月5日の午後、東京は雪に見舞われ首都高などは予備的な通行止めを行った(筆者撮影)
2023年1月下旬、当連載で新名神高速道路で大雪のために30kmを超すクルマの立ち往生が発生した「事件」について考えをまとめたが、この冬も高速道路と雪との闘いが大きなニュースとなった。
【写真】246、甲州街道一般道も「通行止め」に
注目すべきは2つあり、1つは1月24日から25日にかけて、名神高速道路関ヶ原IC付近で発生した大規模な立ち往生。そしてもう1つは、2月5日午後からの首都圏でのことだ。
大雪予報が出ていたこの日、首都高などでは予備的な通行止めが行われ、立ち往生が未然に防止された一方で、一般道で大規模な渋滞が発生した。立ち往生を招いても事前に防いでも、今後への課題が浮上する、ある種“もぐらたたき”のようになっているところに、「高速道路と雪」の難しさがある。
調整を行うNEXCO各社や国土交通省、警察など関係者のご苦労や立ち往生、大渋滞に巻き込まれた方々の苦難にも思いを馳せつつ、今冬の雪との闘いについてまとめてみたい。
■事前の通行止めで立ち往生なしでも一般道が大渋滞
まず、「もう1つ」のほうの首都圏での様子からお話ししたい。
2月5日、神奈川県との県境に近い東京・大田区に住む我が家のまわりでも、夕方になって降雪がひどくなり、みるみるうちに道路やクルマのフロントガラスが雪化粧を始めた。ふと、自宅からほど近い中原街道に出てみると、身動きの取れなくなった車列が延々と続いているのに目をみはった。
交通情報を確認すると、首都高3号線とそれに接続する東名高速道路は、静岡市あたりまで昼前からずっと通行止め。首都高4号線とそれに接続する中央道も、山梨県まですべて同様に通行止めとなっていた。
しかも、驚いたことに中央道と並行する国道20号線(甲州街道)も世田谷区から西が午後から通行止め。
さらに、東名と並行する国道246号線も都内から神奈川県にかけて通行止めとなっていたほか、東京と横浜を結ぶ第三京浜も通行止めとなっていた。
つまり、多摩川中流域で東京都と神奈川県を結ぶ幹線道路が軒並みマヒ状態になっており、唯一といってよい中原街道にクルマが殺到したことが、私が目撃した「動かない車列」の原因だったようだ。
中原街道は、江戸期に東海道の脇往還として往来に使われた、江戸と神奈川県の平塚を結ぶ街道である。現在も五反田で国道1号線と分かれたあと、ほぼ東急池上線沿いに田園調布まで来て丸子橋で多摩川をわたり、川崎市中原区から横浜・港北ニュータウン方面を結ぶ主要な大通りとなっている。
「中原区を通るから中原街道と名付けられた」と思われがちだが、中原は平塚市の地名。「中原街道が通っているから中原区と名付けられた」というのが真相である。通常でも朝夕は通勤の車で渋滞が発生する道路ではあるが、今回の混雑は渋滞というよりも「閉じ込め」という状況であった。
■なぜ、こんな事態になったのか?
経緯を改めて振り返ると、前週の木曜日あたりから週末、週明けにかけて「都心部でも雪の可能性がある」という予報は出されており、5日朝には「積雪の可能性が高い」ことが報じられていた。
そして、まだ雪が本格的に降る前、道路もまだ乾いている状態で首都高の多くの路線が相次いで計画閉鎖され、それと接続する高速道路も閉鎖された。
さらに驚いたのが、並行する国道の閉鎖である。国道は高速道路と違い、「特定の入口を閉鎖すれば、クルマが入ってこない」ということはなく、いくらでも脇道から進入できる。
これまで国土交通省やNEXCO各社では、高速道路と並行する一般道は、物流の妨げにならないよう「どちらかはできるだけ閉鎖しない」という方針だったが、片方閉鎖してももう片方にクルマが殺到して混乱する恐れもあり、実は近年、一般道でも予防的な通行止めを行う方針に転換していた。
今回は、雪道に不慣れなドライバーが多い東京での積雪予想ということもあり、高速道路・一般道ともに閉鎖の判断に至ったと国土交通省では説明している。当日は不要不急の外出を控えるよう繰り返しアナウンスされていたが、月曜日で仕事のクルマも多く、しかも朝出かける時間帯にはまだ雪の気配はあまりなかった。
そのため、午後に主要道路が閉鎖されると、中原街道だけではなく246号線、そこに接続する環状七号線(環七)や環状八号線(環八)でもまったく動かないような状況が生じたと考えられる。とはいえ、(大渋滞に巻き込まれた方々には申し訳ないが)この早目の判断により、高速道路での立ち往生という最悪の事態はほぼ回避された。
特に首都高では、天気が回復してもその構造上の問題(路側帯がほとんどなく雪の排出の場所がないこと、路線の多くが高架で地熱による雪解けが期待ができないことなど)で、通行止めはなんと50時間以上続き、7日午後にようやく全面的に解除された。多くのクルマが首都高の上で数珠つなぎになっていたら、より深刻な事態になっていただろう。
■「予防的な閉鎖」が周知されれば
関東平野南部、特に東京付近は、どんなに冬型の気圧配置が強くても晴天が続く反面、春が近くなると発生する南岸低気圧の通過で雪が降りやすいという、日本でも特異な降雪パターンの地域である。しかも、強い冬型の雪の予想とは異なり、低気圧の通過位置が少しずれるだけで雨になったり雪になったり微妙に変化する。
予想が立てにくい、あるいは予想が当たりにくいだけに、予防的な閉鎖で最悪の事態を避けるという措置は、現時点では有効である。そして、それが広く周知され、たとえ空振りであっても年に何回か「クルマを使うのを避ける」ことや「それによって少し不便になる」ことが社会に浸透すれば、それが「高速道路と雪」の折り合いをつけるきっかけになるのではないか。
これだけ情報が自在に行き交い、天気予報の精度が上がっている時代にあっても、私たちは自然を支配することはできない。
もどかしいことではあるが、コロナ禍で在宅でもテレワークである程度の仕事ができることを学んだ私たちは、「危ないときは動かない」ことを原則として大雪をやり過ごすことの大切さを感じる今回の経験であった。
ただし、特に一般道の予防的な通行止めはまだあまり知られていないし、今回も事前の周知はほとんどなかった。もちろん、周知をしても意に介さず、日常の行動パターンを変えない人もいるだろうが、やはり「一般道の幹線道路も通行止めの可能性がある」と知れば、運転を控える人は大幅に増えるだろう。
■またも大規模な立ち往生が発生
一方で、大規模な立ち往生が発生したのが、名神の関ヶ原IC付近である。1月24日午前9時ごろ、関ヶ原IC付近で大型トラックが立ち往生したのをきっかけに、上り5.5km、下り6.6km、あわせて770台あまりが高速道路上に滞留した。
自衛隊も出動し、懸命の除雪作業を行ったものの、立ち往生が解消されたのは19時間後で、小さな子どもが体調不良で救急搬送される事態にもなった。
このニュースでは、いくつかの局のキャスターが「関ヶ原は雪国ではなく、雪に慣れていない」というようなコメントをしていたが、幼少時代を愛知県で過ごした筆者からみれば、関ヶ原は東海地方でも特異な「雪国」だという認識である。
冬型の気圧配置が強まると、それまで晴れていた濃尾平野に雪雲が流れてくる。その方角は名古屋から見て北西、まさに東海道新幹線の京都方面の延長線上だ。養老山地と伊吹山の間がぽっかり谷間になっているのが見え、雪雲はそこから流れてくる。そう、その谷間が関ヶ原なのである。
名古屋では5cm程度の積雪でも、岐阜に来ると10cm、大垣で15cm、そして関ヶ原では30cmを超えるようなことは、幾度となく経験してきた。要するに、関ヶ原は冬型の気圧配置が強まれば雪になりやすい「雪国に近い気象条件下」にあり、今回も降るべくして降った雪だと言える。
ただし、これまでと違うのは、降雪量と積雪量である。1月24日は6時間の最大降雪量は49cmとなり、過去最高となっている(なお、降雪量ではなく積雪の記録としては、2年前の2022年2月の87cmが過去最高となっており、近年雪の降り方が激しくなっていることを表している)。
地球温暖化の影響もあってか、近年日本海の海水温が高いため、北西の季節風は大量の水蒸気の供給を日本海から受けて前例のない雪を降らす。今回、起きた大規模な立ち往生には、そうした背景が考えられる。
■大雪のときに「どのような社会」を目指すのか
新名神が通行できるようになり、関西と東海地方の往来には四日市・亀山・鈴鹿峠ルートが新たに加わったとはいえ、まだまだ名神は日本の流通を担う大動脈であり、閉鎖の判断はかなりの慎重さが求められる。
たとえ100台のクルマのうち、99台が雪道に慣れていて装備が万全だとしても、1台不慣れなクルマがあり一度でもスタックすれば車列は一気に延びる。しかも、尋常ではない降雪があると、1時間停まっているだけで雪はタイヤを埋め、スタッドレスであろうがチェーンを巻こうが動けなくなる。
今回の立ち往生で「閉鎖の判断が遅かった」と一方的に高速道路サイドを責められないのも、これまでにない尋常な降雪の量や、食材をはじめとした生活物資の多くを、手の届く範囲ではなく日本中、あるいは世界中に頼る「物資の輸送依存」体質が、これまでの常識を変えつつあることを考えてしまうからである。
降雪時の高速道路閉鎖に対する「こうすれば大丈夫」という公式的な正解はない。今年もまだ大雪の可能性が残されているし、来年はさらに観測史上最高の積雪がどこかで生じるかもしれない。
そのとき、私たちは雪に挑んでどんなときにも通れるような社会を目指すのか、それとも道路が閉鎖されて数日通勤できなかったり物流が止まったりしても誰も責めない社会を目指すのか。そんなことまで考えてしまう今年の雪事情であった。
佐滝 剛弘 :城西国際大学教授
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