( 137816 )  2024/02/10 14:35:23  
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日経平均株価が約34年ぶりに3万7000円台をつけた。

今後の株価について冷静で中立的な予測が必要だが、現状ではそのような予測がないと指摘されている。

日本株の上昇の理由として、個人、機関、海外投資家が日本株を買っており、日本ブームが支えているとされている。

ただし、国内機関投資家や日本銀行などの動きは目立たない。

株式市場は物語や欲望に基づいており、投資家の願望が自己実現する仕組みになっていると述べられている。

(要約)

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日経平均株価は1990年2月20日以来、約34年ぶりに3万7000円台をつけた。日本株は今後も上昇するのだろうか(写真:つのだよしお/アフロ) 

 

 今後の株価はどうなるのか。9日の日経平均株価は一時3万7000円を突破したが「今日の日経平均の終値」は、いまや明日の天気に次いで、国民的に重要なニュースになっている。 

 

■冷静で中立的な立場で株価予測をやってみよう 

 

 しかし、改めて観察してみると、適切な株価動向の見通しのアドバイスをやっているような番組はどこにもない。NHKのニュースはそんなことに踏み込めるはずがないし、ほかの媒体だってそうだ。 

 

 一方、経済や金融市場専門のニュース番組は、テレビにせよ、ネット番組にせよ、市場関係者に埋め尽くされており、ほとんどが上がるという予想だ。しかも大半は買い推奨でしかなく、どうみてもムードが悪いときは、調整局面で買い場を探る展開、という解説になる。いわゆるポジショントークしかない。 

 

そして、もともと弱気だったり、懐疑的だったりする人々は、あまりメディアから声がかからなくなる。そうなると株に常に強気の人ばかりが世の中にあふれることになる。これは前回の「なぜ株価はほとんどいつも上がっているのか?」でも触れたところだ。 

 

 正しくなくても、予想として当たらなくとも、冷静で中立的な予想、あるいは見通しの分析はどこにあるのか?  ない。では、ないならば、やってみよう、というのが今回の趣旨である。 

 

 すでに多くの読者の皆さんもご存じのように、私は、現在の株価には弱気である。だが、今回はその自分の見方を排除して、中立的な描写に徹したい。 

 

 まず、今年日本株が上がってきた理由は何か。個人も機関投資家も海外投資家も日本株を買っているからである。個人は新NISA(少額投資非課税制度)が施行されて、急激に株式投資シフトを強めている。 

 

 ただし、米国株を中心とした海外株が多数派で、日本株は、高配当利回りを狙った個別株狙いが多いようだ。ある報道によるとJT株が一番人気だった模様だ。 

 

 一方、海外投資家も今年に入って、買い意欲を加速させた。2024年1月は、ヘッジファンドなどの短期ローテーション買いが多かった模様だ。ただ、昨年から長期の現物株の投資が増加しており、ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイの大手商社株買いがニュースとなった。 

 

 だが、それ以外の、長期に保有する投資家の個別株買いも増えている模様だ。さらに、中国国内の個人投資家も、自国からの資金逃避先として日本株を選好しているということが伝えられている。海外のほとんどすべての投資家は、短期でも長期でも、日本株へ資金を傾けている。 

 

 

■日本ブームが日本株買いを支える 

 

 短期も長期も、これらの背後にあるのは、日本ブームだ。この理由は、第1に、海外投資家が中国からの撤退により、アジアへの投資配分を日本へシフトさせているということ、第2に、東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄解消への圧力など、株主還元が加速する見通しが広まっていること、第3に、日本の個人投資家も株式投資に動き出した気配があるということ、これらによると言われている。 

 

 ただ、それ以外に、文化、社会的な日本ブーム、すしや観光などの日本ブームが日本のイメージを急激に良化させている面もあると言われている。大谷翔平ブームが関係あるかどうかは何とも言えないが。 

 

 一方、日本の国内機関投資家の動きは目立たない。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は「ネタ切れ」「タマ切れ」だ。パッシブ中心の運用となっているし、かつ日本株の上昇は、ポートフォリオ上、上限であるウェイト25%の超過をもたらすから、動くとすればむしろ売り方向だ。 

 

 また日本銀行も、新規のETF(上場投資信託)買いは、ほぼゼロであり、植田和男総裁も先日国会で見直しの可能性に言及した。ただし、「売るのはもっと先の話」とも述べた。そのほかの国内勢も、急な上昇に戸惑ったままついていけない感じで、もともとのホームバイアス(自国など身近で親しみのある資産への配分が過多になること)があるから、これ以上日本株をドラスティックに増やす余地はない。 

 

 これはアベノミクスによる異次元緩和により、日本株ブームとなった2013年と同じだ。今まで日本株を買わなかった投資家ほど、新しいストーリー(物語)に乗って、闇雲に日本株を買った。いままで日本と日本株をよく知っている投資家ほど、変化には懐疑的で、流れに乗り遅れた。円安と過剰流動性相場だから、実態に変わりはない、という見立てはおおむね正しかったが、それまでの「日経平均8000円台」というのが異常な安値だったから、価格水準の訂正のきっかけとしてのアベノミクスは効果を発揮した。 

 

 

 現在も、似た状況だ。日本株を買いたいと思う投資家たちの、買うためのエクスキューズ(言い訳)は、コーポレートガバナンスの改善、東証の圧力による株主還元の拡大であり、これは企業の事業モデルの変革でもイノベーションでもなく、株主への「見せ方」、プレゼンテーションの改善である。 

 

 つまり、見栄えが良くなっているだけであり、ブームに乗りやすいストーリーを見せているだけだ。それで流れは変わるのだから、株主や新規参入投資家にとっては素晴らしいのだが、中身が劇的に変わっているわけではない。もちろんまったく変化がない、と言っているわけではない。だが、中身の地道な改善や変化は、1998年のアジア通貨危機のときあたりから個別企業においてはずっと続いているわけで、何も2024年に新しいことが始まったわけではない。 

 

■株式市場はすべて需給で決まっている 

 

 これが株式市場の本質だ。株式市場は、すべて需給で決まっている。これは行動ファイナンスの本質でもある。冒頭から「株式市場の見通しを中立的に」と言っておきながら、為替の水準もPER(株価収益率)も、成長性も何も言及せず、需給の話しかしていないのは、原始的で、シンプルで、洗練されていない議論だが、それが現実だからだ。 

 

 株式市場とは、理論や情報をぶつけ合うところではない。欲望をぶつけ合うところだ。株式を買いたいと思っている投資家、買いたい状況にある投資家、彼らが、投資する理由を見つけるためのものが、理論であり、ratio(比率)であり、ストーリーなのだ。 

 

 まさにストーリーという言葉が象徴するように、それは投資家が夢見る物語にすぎない。PBRが1倍割れしていれば、解散価値が株式時価総額を上回るから、株主は解散すれば儲かるはずなのに、解散しないということは、今後の企業収益価値がこれを上回っているからであり、これは理論的におかしい。だから、PBRは少なくとも1倍までは上昇する、つまり株価は上がらなければおかしいから、上がるはずだ、という理論に力を部分的に借りた物語を信じようとするだけだ。 

 

 

 しかし、信じる者は救われる。その物語を信じて買えば、株価は需給に基づいて上がる。上がるという物語は真実のストーリーとなり、その物語を信じる人々が増え、それは物語から事実、ストーリーがファクト(事実)に変わる。株式市場は、投資家の願望(または恐れ)が自己実現する仕組みになっている。 

 

 理論や株価モデルは、その理論の信者が増えれば、物語が現実となる。多くの人がPBR1倍割れは上がると信じれば、ビジネススクールに通い、「株価は企業価値で決まる」という教科書の理論的理想郷を信じれば、その楽園の物語が現実化する。 

 

 MBA(経営学修士)という布教活動が広まれば広まるほど、その「企業価値教」は正しさを増す。これがMBAの力であるが、実はこれよりも影響力の大きい「教祖」はアメリカの有力投資銀行であり、有力投資家である。 

 

 彼らが買えば上がり、スピードも速く、規模も大きいから、布教活動で語られた物語は、すぐに実現する。「これからはBRICsだ」と唱えた瞬間に(実はその前から)、ブラジル、ロシア、インド、中国の株価は上がる。「原油価格は1バレル=200ドルでもおかしくない」と言った瞬間に、原油は最後の暴騰を見せる。 

 

■「新たな物語が次々と語られ、暴落で忘却」の繰り返し 

 

 「なんだ。中立的な記述でなく、お前こそ市場の物語を語っているではないか」と言われるだろうが、この物語が現実化しているのである。理論自体では何も意味を持たない。その理論を信じるものが増え、それに基づき投資する、買いが生まれるから、その理論の示す株価まで上がるのであり、この構造を利用する、ストーリーテラー(語り部)がいるのである。 

 

 行動ファイナンスという理論の信者がさらに増えれば、理論は現実をつくるための1つのストーリーのパターンにすぎないというストーリーが事実として、広く認識されるようになるのだ。 

 

 リーマンショックが起こり、株価が異常に下がれば理論株価などは無関係で、この理論、このメーターは機能しないことに誰もが気づく。しかし、人々は新しい前向きな物語を信じたいから、次の物語にすがっていく。量的緩和バブル、いや物語としては「流動性相場が始まる」という、いままで、企業価値と言っていた人々が、流動性という要は直接的な需給の支えのロジックを使うようになる。 

 

 そして、人々が投資を再開、拡大していくと「投資家のセンチメントが改善した、リスク許容度が上がった」という、理論では枠外とされているものを語って、株価を上昇させていく。 

 

 

 
 

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