( 138471 ) 2024/02/12 14:45:42 1 00 日本の論文数は世界6位であり、国民1人当たりで見ると世界最低レベルとなっている。 |
( 138473 ) 2024/02/12 14:45:42 0 00 日本経済の衰退と論文数の順位低下はどのような関係にあるのか(後ほど詳しく解説します)
日本の論文数は世界6位で、国民1人当たりで見るとさらに低く、世界最低レベルの水準となる。共に順位は下落傾向にあるが、実は日本経済と似た推移をたどっていることがわかる。これをひも解くと、日本経済衰退の根本原因がわかる。
【詳細な図や写真】図1:論文数の世界ランキング(~25位)。日本は1999年-2001年平均で2位だったが下落傾向にある(科学技術指標2023を基に筆者が加工・作成)
日本人の能力を世界と比較すると、どの程度の水準だろうか?
能力を直接比較することは難しいが、それを判断する1つの指標として、文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が公表する「科学技術指標」にある論文数のデータがある。能力が高ければ、多数の、そして質の高い論文を書くことができるだろう。
「科学技術指標」にはいくつかの指標が示されている。まず、「1年あたりの論文数」。2023年版にある2019-2021年(平均)を見ると、図表1に示すように、日本は整数カウント法で世界6位だ(図1)(注)。
注)
外国の研究者との共著論文の場合の寄与を決めるのに、「整数カウント法」と「分数カウント法」がある。整数カウント法とは、「論文の生産への関与度(論文を生み出すプロセスにどれだけ関与したか)」を示す。分数カウント法とは、たとえば1件の論文が日本の機関と米国の機関共著の場合、日本を1/2、米国を1/2と数える方法だ。分数カウント法では第5位となっている。
参考文献:
文部科学省科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2021及び科学研究のベンチマーキング2021、2021年9月2日。
日本のGDPは、2023年にドイツに抜かれて世界第4位になったと考えられるので、ほぼそれと同じ順位だ。
かつて日本の地位はもっと高かった。1999-2001年平均では、日本は米国に次いで、世界第2位だったのだ。
今でも、世界第6位であれば、満足すべきだとの考えもあり得るだろう。だが、そうとも言えない。
第1の理由は、上で見たのは、国・地域全体としての論文数であることだ。しかし、当然のことながら、人口が多ければ、科学者の数も多くなるから、論文数も多くなる。そのため、実際は人口あたりの論文数を見るべきだろう。
そこで、人口100万人当たりの論文数を計算してみた。その結果を図2に示す。
図1と図2では、順位が大きく違う。まず、日本の順位は劇的に下がる。
図2を見ると、日本は18位。韓国や台湾は、論文数では日本より少ないのだが、人口が日本より少ないので、100万人当たりでみれば、順位が日本より高くなってしまう。上位にあるのはヨーロッパの小国だ。世界第1位が、スイス。
映画「第三の男」に、「ボルジア家の圧政はルネサンスを産んだ。それに引き換え、スイス500年間の平和は何を産んだか? 鳩時計だけだ」というオーソン・ウェルズの有名なセリフがある。このセリフは、まったく間違っていたのだ!
なお、人口当たりで見れば、中国の順位はかなり低くなる。
図2の順位は1人当たりGDPの順位と似ている。1人当たりGDPの場合、為替レートがここ数年間で円安になったことの影響で、日本の地位が低下している。しかし、図2の順位では為替レートは関係ない。その意味で、より的確に日本の国力を反映していると考えることもできる。
図1で見た「日本が6位」で満足ができない第2の理由は、論文の質だ。
論文は、数が多いだけではあまり意味がない。質が重要だ。「科学技術指標」では、質を見るための指標として、「Top10%(Top1%)補正論文数」のデータを示している。これは、論文の被引用数が、各年各分野(22分野)の上位10%(1%)に入る論文を抽出後、実数で論文数の1/10(1/100)となるように補正を加えた論文数だ。
日本の場合、2019-2021年平均の総数では、図1に見るように9万681件だったが、「トップ10%論文」だと7239件に減少してしまう。そして、「トップ1%論文」だと、927件になってしまう(図には示していない)。
世界での順位を見ると、「トップ1%論文」数は12位、「トップ10%論文」数は13位だった。このことが大きな問題だとして報道で取り上げられたが、実は、人口当たりで見ると、以下に示すように、問題はさらに大きいことが分かる。
「トップ1%論文」について、人口100万人当たりの数字を見ると、図3のようになる。
日本の順位は20位となり、図2の18位よりさらに下がる。日本より低いのは、イラン、中国、トルコ、ブラジル、インドだけだ。
日本の場合、図2に比べて1/100程度になる。このように、減り方が著しい。1位のスイスは、1/40程度だ。つまり、日本の論文は質の面で大きな問題を抱えているということになる。
以上で見たように、日本の現状は決して満足できるものではない。すでに述べたように、長期的に見ると、昔はこれほどではなかったのだ。
トップ1%論文において日本が世界に占めるシェアの推移をみると、図4のとおりだ(なお、これについても、人口当たりの論文数を見るべきであるが、ここでは時間的な推移を見たいので、人口で割らない元の数字を用いた)。
1980年代を通じて上昇し、1990年代には4.5%程度となった。しかし、2000年代に入ってからは傾向的に低下し、2020年には1.7%にまで低下している。日本人の能力が以前に比べて落ちたというよりは、むしろ、世界の能力が上がったと考えるべきだろう。そして、日本があまり変わらなかったために、相対的に日本の地位が低下したのだ。
これは、日本経済全体のパフォーマンスの推移とほぼ同一のパターンだ。とりわけ2000年代になって、日本の製造業が弱体化した推移と非常によく似ている。日本の電機機器の輸出は、2000年ごろから傾向的に減少している。
では、日本経済の衰退と研究能力の低下と、どちらが原因でどちらが結果なのか? これについては、2つの可能性が考えられる。
第1は、経済力が研究力を決めることだ。経済力が豊かであれば研究活動に多くの資金を用いることができる。したがって、優れた研究成果が出てくる。
第2は、研究力が経済力を決めることだ。多くの研究成果が得られれば、新しい技術が誕生しやすい。それを用いて企業が生産性を高め、経済力が高まる。
実際には、このどちらも働いているだろう。重要なのは、第2の因果関係があり得ることだ。経済成長を決める最も大きな要因は技術力であり、そして長期的に考えれば、それは基礎研究によって決まるのである。
この見方によれば、研究力の低下こそが、日本衰退の最も根本的な原因だということになる。したがって、日本の生産性を上昇させるためには、研究を充実させることが最も重要な手段だ。
執筆:野口 悠紀雄
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