( 139441 )  2024/02/15 14:39:02  
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ドミノ・ピザの従業員がピザ生地に異物を混入させた動画が拡散し、企業は謝罪と対応策を述べた。

この事例を受け、作家の日野百草氏はバイトテロの増加と消費者の反応について指摘している。

過去にもSNSで拡散されたバイトテロ事例があるが、この行為は企業や消費者に迷惑をかけるだけでなく、食品衛生法にも関わる。

また、このような行為に対する制裁が難しい実態も浮き彫りになっている。

一方で、企業や消費者はこうした迷惑行為に対して注目し、対応に憤る状況が続いている。

(要約)

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AdobeStock 

 

 また「バイトテロ」か……。ドミノ・ピザ従業員がピザ生地に異物を混入させたとみられる動画が拡散した。それを受け同社は「ご不快な思いとご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます」と謝罪した。ルポ作家の日野百草氏は「最近はバイトテロより迷惑客のほうが目立っていたが、一罰百戒の難しさが『どうせたいしたことない』『バズるほうが大事』という連鎖を生んでいる」と指摘する。企業はこうした行為に屈するしかないのかーー。 

 

 ピザ宅配チェーン大手、ドミノ・ピザは認めるしかなかった。 

 

「兵庫県尼崎市にある尼崎店のアルバイト従業員により」「店内で撮影された」と。 

 

 ピザの生地をこねながら、カメラに向かって笑顔で鼻くそを人差し指でほじる仕草をして、中指を生地にこすりつけたこと、を。 

 

 大前提としてドミノ・ピザはもちろん他の従業員もまた被害者だ。筆者もつい最近ドミノ・ピザをオーダーして食べたばかりである。寒い中、届けてくれてありがたかった。そして、おいしかった。 

 

 しかし動画は拡散された。そして世界中に「鼻くそピザ」(今回生まれたネットスラング)が知れ渡った。残念だが、動画はありとあらゆるSNSや配信サービスで容易に見ることができる。SNSによっては「おすすめ」として見たくもないのに見せられる場合もある。 

 

 実際に鼻くそそのものがほじくり出され、ピザの生地にすりこまれていたのか、それはわからない。しかしドミノ・ピザはこう釈明している。 

 

「動画内で使用された生地はまだ使用されていないことを確認しております。当該生地は廃棄処分いたしました。店内の生地をすべて廃棄処分いたしております」※抜粋 

 

 ドミノ・ピザとしてはその後を動画で確認できなくとも「鼻くそが入っていたかもしれない」「この生地だけに触れたかわからない」となれば当然の対応だろう。消費者側からすれば「本当に廃棄したのか」もまた問われかねないが、それはここで言うまい。しかし、ドミノ・ピザもそうした疑念を抱かれるであろうことはわかっていたのだろう。 

 

「当該店舗は、2月12日付けで営業停止しました」 

 

 と、店舗そのものを営業停止とした。また関与した従業員を「厳正に処分」、「厳正な法的措置を検討中」とした。 

 

 

 旧Twitter(現「X」)が「バカッター」と呼ばれるきっかけとなったとされる、いわゆる「バイトテロ」。 

 

 スマートフォンの普及に伴うSNSの興隆と足並みを揃えるかのように2013年ごろから、主にアルバイト従業員による「不適切行為」(この言葉そのものが今となっては不適切で、普通に「犯罪行為」もしくは「反社会的行為」だと思うのだが)が横行した。 

 

 コンビニのアイスケースの中で寝そべった男、ステーキチェーンの冷蔵庫内で遊んだ男、そば屋の業務用食器洗浄機に寝っ転がった男、これらはすべてSNSに投稿され、拡散されたものだった。 

 

 かわいそうに、そば屋に至っては個人営業なのでチェーン店のように「あの店舗とうちは別」ができない。結局、不衛生だと批難され営業停止に追い込まれて破産してしまった。 

 

 バイトテロの「テロ」は俗語としての「テロ」であり、実際の「テロ」という言葉の意味とは違うが、その破壊力は店舗および顧客側からすれば「テロ」と呼ばれるのも仕方のない話だろう。実際、男がピザの生地をこねながら、カメラに向かって笑顔で鼻くそを人差し指でほじる仕草をして、中指を生地にこすりつけたことは動画となって世界中に拡散、いまも閲覧されている。正直なところ、ピザを食べながら見るでなくとも厳しい絵面だ。そもそもが、シンプルに食品衛生法の問題もある。 

 

 かつての取材で、スーパーマーケットの店長はこう話してくれた。 

 

「従業員であれ客であれ、万が一にも不衛生な動画が撒き散らされたら大変なことです。たとえばポリ袋(ロール式の俗に「ビニール袋」と呼ばれる袋)につばをつけてめくりとる人がいる。やめて欲しいのにやめない人がいる。あれだって、もし動画で撒かれたら大変なことになると思いますよ」 

 

 これは迷惑客の話だが、近年(とくにコロナ禍)はバイトテロより迷惑客のほうが目立っていた。回転寿司チェーンのいわゆる「ペロペロ少年」の事案は記憶に新しいが、それ以外にも同じく回転寿司チェーンの「醤油さしペロペロ男」や、牛丼チェーン店の「紅しょうが直食い男」など、客による業務妨害罪や信用毀損罪などの行為にあたる疑いのある行為が続いていた。 

 

 しかしアルバイト従業員も戻り、日常の回復してしばらく、再びバイトテロが横行し始めた。しゃぶしゃぶチェーン店のホイップクリーム直接口内流し込み男など、直近でも動画で拡散されている。 

 

 

 バイトテロを呼ばれるようになって10年、それでもなくなるどころか繰り返される実態。むしろ「こんなバズは今までなかったはずだ」「俺が最初に考えたことになる」とばかりに、新たなバイトテロが生み出されている。ピザの生地をこねながら鼻くそを入れる、実際にそうなったかはともかく、現に動画ではそのような体裁で残され、そして拡散されている。 

 

 それでも現実は「どうせ罪は軽いし、賠償金だって更生を考えてくれる優しい人たちがいるからなんとかなる」と言わんばかり。一罰百戒の難しさが「どうせたいしたことない」「バズるほうが大事」という連鎖を生むかのように。 

 

 実際、これまでの「バイトテロ」のテロリスト(本来は誤りだが、ネットスラングに準じて便宜上使う)も、テロリストに転じた客も、おおかたは短期間に晒されただけで世間に忘れてもらい、日常に戻っている。 

 

 先の倒産、破産に追い込まれたそば屋のアルバイト4人は1人あたり50万円程度で和解となった。倒産、破産に追い込まれても200万円ほどしかとれない。 

 

 あの「巨額の賠償金になるのでは」と騒がれた「ペロペロ少年」すら、行為とその企業側の被害に比べれば寛容ともとれる和解で決着したとされる。少年の将来と更生を促す「大人の対応」と評価するメディアや有識者もあった。先のバイトテロの中にも「アルバイトを辞めさせられただけ」という例もある。 

 

 確かにアルバイトにせよ、客にせよ一般人から巨額の賠償をとるのは難しい。払えないものは払えないで済む。また人生台無しの行為であっても、それほど人生に影響のない人もいる。乱暴な言い方かもしれないが現実だ。 

 

 こういう人たちに被害側は事実上の泣き寝入り、これも現実だ。そもそも日本には英米法のような加害者に対する批難や罰、その罪に対する抑止、制裁を加算する懲罰的損害賠償の制度がない。 

 

 企業だけでなく、多くの罪のない他の現場の従業員や顧客にまで影響を及ぼす「バイトテロ」。ピザの生地をこねながら、カメラに向かって笑顔で鼻くそを人差し指でほじる仕草をして、中指を生地にこすりつける動画を世界中にばら撒く行為(結果的に拡散されてしまった、とはいえ)は「迷惑行為」という言葉で済むものなのだろうか。 

 

 これまで名だたる大手チェーンや有名店が被害に遭い、その多くは事実上「屈してしまった」が、ドミノ・ピザは「厳正な法的措置を検討中」とした。懲罰的損害賠償の存在しない国でどう動くか、罪のない他の従業員はもちろん、あたりまえの「食の安全」を渇望し、それを乱す者に憤る国民すべてがドミノ・ピザの今後の対応に注目している。 

 

日野百草 

 

 

 
 

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