( 139978 ) 2024/02/16 23:51:36 0 00 このところ、いわゆる「バイトテロ」が、相次いで表面化している(写真:Stanislav Kogiku/アフロ)
「ドミノ・ピザ」店内で撮影された動画が、SNSに投稿されて炎上している。ドミノの制服姿でピザ生地をこねる人物が、鼻の穴に指を突っ込み、その指を生地に突き立てる――。まったく衛生的とは言えない内容が問題視され、運営会社が謝罪に追い込まれた。
【写真】ドミノピザによる謝罪文
この件にとどまらず、このところ従業員による「バイトテロ」が頻発している。昨年は回転寿司チェーンでの「醤油ペロペロ」をはじめとする「迷惑客テロ」が相次いだが、それとの関連性はあるのだろうか。
ネットメディア編集に10年以上携わり、数多くの「炎上事案」を見てきた筆者が、その経験から考察する。
■相次いで表面化している「バイトテロ」
冒頭の動画について、運営会社のドミノ・ピザ ジャパンは2024年2月12日、同日午前2時ごろに営業終了後の尼崎店(兵庫県)にて、同店のアルバイト従業員が撮影したものだと発表した。
24時間の発酵工程が完了する前の生地だったとして、それ以外の生地も含めて、すべて廃棄処分に。尼崎店は同日付で営業停止した。加えて、関与した従業員への対応として、「就業規則に則り、厳正に処分する予定」であり、また「厳正な法的措置を検討中」だとした。なお従業員は翌日、解雇されたと報じられている。
このところ、いわゆる「バイトテロ」が、相次いで表面化している。
2月6日には、すかいらーくレストランツが運営する「しゃぶ葉」伊奈店(埼玉県)で、口の中にホイップクリームを流し込む動画が撮影・投稿されて話題になった。こちらも営業終了後に、廃棄予定の食材が用いられたとして、「当事者への厳正な処置を行った上で、従業員教育の再徹底について改めて取り組む」と発表している。
また、和食チェーン「炭火焼干物定食 しんぱち食堂」のフランチャイズ(FC)店舗である宇都宮店(栃木県)でも、調理器具と思われる容器から、従業員の口に液体を流し込む動画が投稿された。これはFCのパート従業員3人が、昨年秋に撮影したもので、すでに1人は退職済み、残る2人は発表日の2月6日付で解雇処分となった。
同店の運営企業は「迷惑行為を行った当事者に対して厳正な法的措置をとる」といい、FC本部もまた運営企業に対して、「原因究明と再発防止が十分に行われない場合には、フランチャイズ契約を解約する」と申し入れたという。
■思い出される昨年の「迷惑客テロ」
相次ぐバイトテロを受けて、先の「迷惑客テロ」と絡めた反応は少なくない。あれだけ外食チェーン店での不衛生事案が相次いだのに、なぜまた起きてしまったのかという論調だ。
そういえば筆者は2023年6月、スシローが損害賠償(後に取り下げて和解)を求めたという報道を受け、当サイト(東洋経済オンライン)に寄稿したコラム「スシロー、賠償請求も『非常識少年』また出る必然」で、このように予測していた。
「一時的に迷惑行為は消えるかもしれないが、数年も経てば『SNS空間の住人』は入れ替わる。単に『調味料のボトルをなめたら、数千万円も請求されちゃうんだ!』と印象づけたところで、『なぜダメなのか』が血肉になっていない人々がいる限り、根っこにあるものも変わらないのだ」
結果としては、「数年」が過ぎる前に、衛生面でのトラブルが再発している。
ひとつの理由として考えられるのは、不祥事の忘却サイクルが早まっている可能性だ。SNSのタイムライン上では、日々話題が消費されている。数カ月前のことですら、言われて初めて「そんなことあったね」と思い出すほど。倫理観ですらもカジュアルな位置づけになっているおそれはある。
もうひとつは、続報が伝えられないことで「どれだけ損害を与えても、代償を払わなくていいのでは」という認識が広がっている可能性だ。客テロの個別事案は認識していても、結局どうなったのかが伝わっていなければ、社会的責任を負わなくてもよいと錯覚してもおかしくない。
とはいっても、手ぶらで来店できる「客テロ」と、雇用契約を交わす「バイトテロ」では、実際に不適切事案を行い、SNS投稿するまでのハードルは異なるはずだ。なにか別の理由もあるのではないか。
バイトテロと聞いて思い出すのは、2013年頃の「前回ブーム」だ。コンビニの冷蔵ケースに横たわってみたり、そば屋の食洗機に身体を突っ込んでみたり。ドミノと同じ宅配ピザ業界に限ってみても、「ピザハット」で顔をピザ生地で覆ったアルバイト従業員が問題視され、謝罪している。こちらも閉店後の廃棄食材が使われていた。
これらの事案が起きたのは、約10年前のことだ。当時の経験から、とくに大手企業の危機意識は増したのではなかろうか。昨今のコンプライアンス意識の高まりも考えると、それなりの規模の会社であれば、マニュアルや研修にSNS関連の項目を盛り込んでいるはずだ。
こうした教材が、そもそも未成熟だったり、更新頻度が少なく時代に追いつかなかったりする可能性はある。また、従業員側の忠誠心や責任感の薄れなども、背景としてはありそうだ。
■マニュアルを強化しても、防げる事案なのか?
ただ、その前提のもとに浮かぶのが、「マニュアルを定めれば、避けられる問題なのか」という疑問だ。
マニュアルや就業規則は、破れば最悪の場合「解雇」となる重要な決まりごとだ。しかし、正社員ではない者にとって、それが抑止力として機能しているのだろうか。どれだけ炎上事案を知ったところで、先のコラムでも書いていたように、「なぜダメか」が血肉にならなくては意味がない。
ドミノの事案も「鼻に指を突っ込んだからNG」だと思っているようじゃ不合格だ。それはあくまでひとつの要素でしかない。
たとえば、マスクもせず、おしゃべりしながら調理している様子を見たとき、客にはどんな印象を残すのか。そもそも、キッチンに私物のスマートフォンを持ち込むことすら、衛生的にどうなのかという論点もある。
このあたりが性善説で通じないようであれば、残念ながらスマートフォンの持ち込み禁止や、従業員のプライベートSNSの監視なども、検討しなければならなくなるだろう。そうなったときに割を食うのは、まっとうに働いている大多数の従業員だ。一部の「やらかし」によって、罪のない店員まで同一視されてしまう。
それなりに常識がある立場からすると、「マニュアルを定めれば、守ってくれるだろう」とか、「(前回のバイトテロブームは知らないにせよ)外食に携わる者として、客テロの問題点には気づいているだろう」といった考えに至るだろう。しかし、それは甘い。ときに想像をはるかに上回る、稚拙な迷惑行為が起きてしまうものなのだ。
従業員の教育充実と意識向上、場合によってはスマホ持ち込み禁止など、一歩踏み込んだ厳格なルールづくりまで、さまざまな面から、バイトテロ対策を見直すタイミングに来ているのではないか。
ただ、現実問題として、そもそも正規雇用ではないアルバイトに、「企業人としての矜持」を求めるのは無理がある……と言ってしまうと、真面目に働いている多くのアルバイトの方々から「自分はしっかりやってるよ!」「その場のノリで不衛生な行為をしてしまうのは、『企業人としての矜持』よりずっと手前の話ではないか?」などとお叱りを受けそうだが、もちろんそういう人たちまでとやかく言う意図は一切ない。ただ、世の中には、しっかりしていない人もいるという話だ。
またSNS監視などの従業員チェック体制を、正社員と同等レベルまで高めるとなれば、コスト面から「わざわざバイトとして採用する必然性があるのか」となりかねない。各種事案の「ダメな理由」と「やらかした場合の社会的制裁」に気づいてもらうほうが圧倒的に近道だ。
■ドミノ・ピザはスピード対応していた
企業のリスクマネジメント体制を構築するうえでは、法的な問題点だけでなく、SNS炎上などの倫理観も、常に意識しておく必要がある。その点、ドミノ・ピザ ジャパンは、「鼻ほじ」事案の発生防止こそできなかったものの、事態把握と経緯説明、社内処分など、これまで類を見ないスピード感で発表までこぎ着けた。
深夜2時に撮影された動画は、その日の午後にX(旧ツイッター)へ転載され拡散・炎上する。そして謝罪文が投稿されたのは22時台と、発生当日のうちに区切りを付けているのだ。
この初動の俊敏さは、今後のモデルケースになるだろう。動画投稿の数十時間後には、早くも法的措置の可能性に言及し、その翌日に解雇。「やらかした場合の社会的制裁」を知らしめるうえでの抑止力になるのでは……と感じるが、そうした筆者の予想もまた、オトナ視点の「甘い考え」なのかもしれない。
城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
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