( 140506 )  2024/02/18 14:20:07  
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2023年11月、JR東日本が"ご利用が少ない線区"の経営情報を公開。

62区間の34路線で648億円の赤字があり、最も通過人員が少なかった区間は陸羽東線の一部で1日わずか44人。

営業係数は1万5184と最大で、千葉県の久留里線の営業費用は運輸収入の数倍。

過疎化などの影響で赤字が生じており、線区ごとの経営状況に対し懸念が高まっている。

(要約)

( 140508 )  2024/02/18 14:20:07  
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村上駅(画像:写真AC) 

 

 JR東日本は、2023年11月に「ご利用が少ない線区の経営情報(2022年度分)」を開示した。開示の対象となった線区は「2019年度の平均通過人員(1kmあたりの利用者の数)が2000人/日未満の線区」で、34の路線の62区間に及んでいる。これらの線区の営業収支(運輸収入と営業費用の差額)の合計は648億円の赤字だった。また、62線区全てが赤字であった。 

 

【画像】えっ…! これが60年前の「海老名SA」です(計15枚) 

 

 最も平均通過人員の少なかった線区は、宮城県の小牛田(こごた)駅から山形県の新庄駅までを結ぶ陸羽東線の内、鳴子温泉~最上間の20.7kmだ。平均通過人員は1日あたりわずか 

 

「44人」 

 

である。陸羽東線全体の平均通過人員も1000人を割り込んでいるが、特にこの区間は宮城県と山形県の県境をまたいでいて、移動の需要が極めて小さいものと考えられる。 

 

 運輸収入200万円に対して営業費用が4億1200万円で、4億900万円の赤字である。また、営業係数は1万5184にも及ぶ。営業係数とは「営業費用÷運輸収入×100」で計算される数字だ。100円を稼ぐために必要になる費用の額を表しているので、計算結果が100よりも小さければ黒字で、大きければ赤字である。この線区の場合は、100円の運輸収入を得るために、1万5184円を投じる必要があるということだ。 

 

 その営業係数が最大だった線区は、千葉県の久留里駅から上総亀山駅までを結ぶ久留里線の、久留里~上総亀山間の9.6kmだ。運輸収入100万円に対して営業費用は2億4600万円で2億4500万円の赤字、営業係数は1万6821となっている。平均通過人員も少なく、1日あたり54人である。 

 

鶴岡駅(画像:写真AC) 

 

 すでに2023年5月には、JR東日本の申し入れにより、千葉県、君津市とこの区間の交通体系について協議・検討する会議が設置されている。 

 

 会議は廃線を前提としたものではないものの、この区間は他の鉄道路線と接続しない行き止まりの区間であり、鉄道網において果たす役割は限られる。平均通過人員も、バスで十分旅客を運びきれると認められる水準である。だからこそJR東日本は検討会議の設置を申し入れたのだと考えられ、 

 

「鉄道のまま残す」 

 

という結論を導き出すことは、相当難しいと予想される。こういった線区は平均通過人員が極めて少ないことから、大量輸送を得意とする鉄道が、その特長を生かせていない線区であり、廃止が検討されるのはやむを得ないところである。しかし、本記事の主題としたいのは、62の線区の中で 

 

「最も巨額の赤字となった線区」 

 

だ。それは新潟県の新津駅から秋田県の秋田駅までを結ぶ羽越本線の、村上~鶴岡間の80.0kmの区間である。運輸収入4億5300万円に対して営業費用は54億円で、49億4600万円の赤字である。 

 

 羽越本線には途中、これといった大都市が存在しないことに加えて、この区間は新潟県と山形県の県境をまたぐので、移動の需要は限られる。とはいうものの、普通列車に加えて、新潟駅から酒田駅または秋田駅を結ぶ1日7往復の特急「いなほ」が運行されていて、1日あたりの平均通過人員は1171人に達している。 

 

 陸羽東線や久留里線と比べれば相当に多い。営業係数は1191であり、もちろん悪い数字ではあるが、やはり陸羽東線などと比べれば桁がひとつ下がる。 

 

 

特急「いなほ」(画像:写真AC) 

 

 それにもかかわらず最も巨額の赤字となったのは、もちろん維持費などの 

 

「営業費用」 

 

がかかるからである。1kmあたりの営業費用はおよそ6800万円に及び、これは陸羽東線や久留里線の 

 

「2~3倍程度」 

 

の水準である。この要因のひとつとして、羽越本線では昔から日本海から吹き付ける強風に悩まされており、風速計や防風柵などの設置や維持に、費用がかかっていることが指摘されている。 

 

 また、羽越本線には特急列車や貨物列車が走行していて、これらの列車のために重厚長大な設備を維持する必要がある。なお、貨物列車は臨時も含めると1日9.5往復が設定されていて、特急「いなほ」の本数を上回っている。 

 

 陸羽東線や久留里線のようないわゆるローカル線では、軽油を燃料にして走るディーゼルカーが使用されている。その一方で、羽越本線を走行する貨物列車や特急列車は電気を使用して走るので、羽越本線は全線が電化されている。この電化設備には当然維持費等がかかる。 

 

 また貨物列車は、旅客列車に使われる電車やディーゼルカーよりも重量があり、特に貨物列車を先頭でけん引する機関車の重量は、電車の数倍となる100t前後だ。これが走行すればレールが傷むのは早くなるし、車両の重量に耐えるために線路の規格を高く保つ必要もある。こういった要因が営業費用を押し上げて、巨額の赤字に至っていると考えられる。 

 

酒田駅(画像:写真AC) 

 

 日本海側の線区では、羽越本線の酒田~羽後本荘間も29億4100万円の赤字となっている。奥羽本線の東能代~大館間で32億9600万円、大館~弘前間で24億2500万円、津軽線の青森~中小国(なかおぐに)間で17億7600万円の赤字となっていて、やはりいずれの線区も赤字の額が大きい。 

 

 これらの線区は、貨物列車が走行していたり、津軽線を除けば県庁所在地同士を結ぶ特急列車が走行していたりする。したがって、社会的役割を考えれば廃止することはできないと考えられるし、おそらくJR東日本も廃止することは考えていない。 

 

 しかし、このように巨額の赤字を計上しているにもかかわらず廃止もできないといった線区こそが経営上の大きな問題であると考えられるようになり、是正に向けて動き出すといったことがあっても、まったく不思議ではないといえる。 

 

 なお、貨物列車を運行するJR貨物は、JR東日本などの会社(旅客会社)の線路を無料で使用しているわけでは当然なく、旅客各社に対して線路使用料を支払っている。ところが、この線路使用料のルールがJR貨物にとって有利なものとなっている。「アボイダブルコストルール」と呼ばれるものだ。 

 

 JR貨物の列車が走行しなければ回避できる経費、例えば 

 

「貨物列車の走行によって摩耗したレールの交換費用」 

 

などのみをJR貨物が負担するというルールである。貨物列車が走らないならば不要になるはずの設備を維持管理するための費用は旅客会社が負担しているという構図で、JR貨物の負担は本来の30%から10%程度にも低減されているといわれている。事実上、旅客会社からJR貨物への補助となっている一面がある。 

 

 

 アボイダブルコストルールはそもそも、国鉄がJR各社に分割民営化される際に、経営がぜい弱になるであろうJR貨物を支援するために導入されたルールだ。 

 

 しかしJRの内4社が株式上場・完全民営化したり、ローカル線の不採算性が問題視されたりするようになった今となっては、アボイダブルコストルールに関する議論が遅かれ早かれ噴出して、見直される可能性はあるだろう。特にJR貨物が旅客各社と結んでいる20年間の線路使用協定の更新期限を迎える2027年が、節目の年となると考えられる。 

 

 つけ足しておくと、アボイダブルコストルールによって、JR貨物が得をして旅客会社が損をしている、つまり、旅客が払った運賃・料金の一部が貨物列車の運行のために使われているということにもなるが、これは事実ではあるものの一部分を見ているにすぎないともいえる。このルールのおかげで 

 

「貨物列車による物流のコストが低減」 

 

されて、そのことが日本全体の物流を支え、最終的には運ばれたものを消費する国民に恩恵を与えているのも、また事実なのである。 

 

 線路使用料に関するルールが今後どうなるかは現時点では不透明だが、旅客会社とJR貨物の双方が事業を継続できることが望ましいことは論をまたない。 

 

小野雄人(鉄道ライター) 

 

 

 
 

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