( 140646 )  2024/02/18 23:21:15  
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国土交通省は、公共交通機関を利用する際の「心のバリアフリー」をスローガンに掲げ、障がい者の社会的バリアーを取り除き、差別をなくし、適切なコミュニケーション力を持つことが重要だと提唱している。

具体的な取り組みとして、知的障がいや発達障がいを持つ人々が公共交通機関を利用する際に必要なサポートや理解を促進する取り組みが行われているが、認知度の向上が課題となっている。

(要約)

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電車内の優先席(画像:写真AC) 

 

 国土交通省は、公共交通機関を利用する際の「心のバリアフリー」をスローガンに、以下の点を提唱している。 

 

・障がい者の社会的バリアー(心を含む)を取り除くのは社会の責任。 

・障がい者やその家族が差別を受けず、合理的配慮が受けられるようにする。 

・国民が障がい者の困難や痛みを理解し、適切なコミュニケーション力を持つ。 

 

上記の背景には、「障害は心身機能との社会的バリアーとの相互作用」という考え方があり、社会全体が障がい者の生きづらさや困難を理解することが重要である。 

 

 具体的に「社会的バリアーとの相互作用」を、「歩くことや心と脳にハンデがある方」の事例で考えてみると 

 

「歩けなくても、車椅子のバリアフリーがあれば好きな温泉にいける!」 

「脳や心にハンデがあっても、周囲の人や公共交通の仕組みに配慮があれば、一人で買物に行ける!」 

 

などが考えられる。 

 

 しかし、現実は厳しい。知的障がい児を育てる親から筆者(伊波幸人、自動車ライター)に寄せられたコメントを紹介しよう。 

 

「我が子は知的障害が有る為、中学校から支援学校に通っていましたが、(中略)叫んだり走り回ったり飛び跳ねたりじっとする事が出来ない。障害はを持った子供やその親に対して、向けられる世間の目は冷たいです。その視線に耐えかねて途中下車する方も多いです」 

 

「心のバリアフリー」に加えて、カーテンなどで周囲を区切ることでリラックスできる「心のバリアフリースペース」も必要ではないだろうか。以下、公共交通機関が抱える「心のバリアフリー」問題について報告する。 

 

「発達障害、知的障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック」(画像:国土交通省) 

 

 2021年3月、国土交通省は「知的・発達障害者等に対する公共交通機関の利用支援に関する検討会」を開催した。そこでは、知的障がい者・発達障がい者などに対する次のような課題が提示された。 

 

・不慣れな環境での当事者の困りごと「できない、わからない、一人では不安」 

・当事者に対する事業所の困りごと「対応の仕方が分からない」 

・周囲の方々の困りごと「知的・発達障がい者の特性に対し、理解が進んでいない」 

 

 当事者の問題としては、切符購入や改札入場、ホームや車内のルールがわからず混乱することがある。次は実際の声である。 

 

「切符、駅の改札というものの理解。連想することが苦手なので、なぜ切符や改札という名前なのか理解が難い。電車を見て追いかけるように走り出さないことが最大の課題」 

 

 つまり、公共交通機関という概念全体を理解するためのサポートが必要なのだ。支援者は常に危険性を認識し、支援対象者の特性を踏まえた社会との関わり方について理解を促す必要がある。そこで、同検討会では「公共交通機関の利用体験実施マニュアル(案)」を作成し、利用者の体験を通して公共交通機関の利用促進を図っている。 

 

 一方で、事業者が障がい者の特性を理解しにくいという問題もある。国土交通省は、事業者や一般向けに「発達障害、知的障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック」を作成し、配布している。 

 

 内容は、障がいの特性、対応の基本、実際のトラブル場面での対応などである。著者がこのハンドブックを発達支援の現場にいる友人に見せたところ、 

 

「実例も載っていて、分かりやすくまとめられている。自分も参考になるよ」 

 

との評価だった。一般の人にもわかりやすいので必読である。 

 

 

ヘルプマーク(画像:写真AC) 

 

「発達障害、知的障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック」では「困っているひとがいることに気づく」ことの重要性が強調されている。具体的な状況としては 

 

・急に奇声を発し、走り回ったりしている人がいる。 

・自分の興味のある他人の物や公共物に触り、トラブルになる。 

・困っていることを説明できず、モジモジしてウロウロとしている。 

・フラフラ、ぼんやりしていて、人にぶつかっている。 

・パニックになっている。 

 

上記のような場面に遭遇したとき、ハンドブックでは「笑顔でゆっくり、短く、具体的に優しい口調で話しかける」よう求めている。 

 

 特にバスや電車が遅れているときなど、状況が理解できないこともあるだろう。臨機応変な対応を求めることが難しい状況もある。特にパニックになっているときに、命の危険を感じる場面では危険の回避を最優先に実行して「落ち着ける環境に誘導する」。具体的には、静かで他人の目を遮る空間がいいだろう。 

 

 声のかけ方については、「声かけ変換表」が非常に参考になる。いくつか抜粋してみよう。 

 

・早くしてください → あと何分かかりますか? 

・静かにしてください → 声を「これくらいの大きさ」にしてもらえますか? 

・走ってはいけません → 歩きましょうか。 

 

 否定的な言葉を使わず、お願いしたい行動を「具体的に示す」ことが重要である。説得や危険回避の場面で興奮するのは理解できるが、「興奮や大声」は「パニック」を助長する。だからこそ、ゆっくり落ち着いて話すことが大切なのだ。そのためには、周囲の理解が極めて重要になる。 

 

 児童発達支援の現場で保育士として働くトミさん(仮名)は、こう語る。 

 

「バスが遅れると、理由が分からずパニックになります。違う時間にバスが来ると、自分が乗るバスと別だと認識し乗れません。その時の関わり方、知らせ方が課題です」 

 

周囲が興味本位で集まったり、目線を向けたりすることを控え、当事者にとって落ち着ける空間、時間、雰囲気づくりに協力してほしい。 

 

 さて、ハンドブックは実際には効果的なようだが、その認知度はどうだろうか。調査した。 

 

 

バス内の優先席(画像:写真AC) 

 

 当事者の支援者36人にハンドブックを知っているか尋ねたところ、ハンドブックを知っている人は36人中5人だった。 

 

 まだまだ認知度が低い可能性がある。ハンドブックにはヘルプマーク(周囲に配慮が必要なことを示すマーク)も紹介されている。しかし、ヘルプマークの認知度にも問題がある。精神障がい者施設を運営するスタッフのコメントを紹介しよう。 

 

「ヘルプマークなどはあるが、周りの人の認識があるのか不明です。つい先日も、ぶつかって転んでしまいました」 

 

 駅やバス停のポスター、心のバリアフリー席などは、公共交通機関が配慮すべき課題である。当事者とその家族の心労に、当たり前のように配慮する社会でありたい。 

 

伊波幸人(自動車ライター) 

 

 

 
 

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