( 142196 )  2024/02/23 14:33:55  
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電気自動車(EV)市場の成長が踊り場に来ているとの指摘があり、理由として、アーリーアダプターの終了、ESG投資ブームの終了、そして地産地消などの大規模な構造転換が必要とされる現実が挙げられている。

世界中でEV市場が踊り場に差し掛かっており、中国や欧州、アメリカなどでも深刻な影響が見受けられる。

ESG投資の影響や、EVの理想と現実の食い違いも踊り場の理由とされている。

EV市場の将来については不透明であり、大規模な構造転換が必要となるが、現状ではその方向性が見えていない状況が続いている。

(要約)

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EV市場の成長が踊り場に?(写真:ZUMA Press/アフロ) 

 

 電気自動車(EV)市場の伸びに減速感が漂い、業界関係者の多くが「踊り場に差し掛かった」と指摘する。 

 EV市場を盛り上げていたアーリーアダプターが一巡したほか、ESG投資ブームも過ぎ去った。 

 EVを普及させるにはエネルギーの地産地消など大規模な構造転換が必要といった「現実」が見えてきており、踊り場から脱する道筋が見えない。(JBpress) 

 (桃田 健史:自動車ジャーナリスト) 

 

【写真】中国BYDは日本国内で販売網を増やしEVをアピールしている 

 

 世界の電気自動車(EV)市場の成長が「踊り場」に差し掛かっているとの見方が、自動車産業界やメディアの間で広まっている。 

  

 例えばホンダ。2040年時点でグローバルで製造する全ての四輪車をEV化する事業方針を発表しており、1月上旬には米ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES」で、次世代電気自動車(EV)の「ゼロシリーズ」を初公開した。 

 

 だが、それに先立つ昨年12月、ホンダが都内で実施したゼロシリーズに関する事前説明会の席上、EV事業統括責任者は「EVは今、踊り場にある。だが、長期的な視点では、EVシフトは今後も着実に進む」との見解を示した。 

 

 ホンダ以外の日系自動車メーカーも似たような認識だ。各社の幹部らとEV市場の現状について意見交換していると、「踊り場」という表現が最近よく出てくるようになった。 

 

 なぜ「踊り場」に差し掛かったのか?  

 

 その原因を検証する前に、まずは直近でのグローバルでのEV市場の現状を振り返ってみよう。 

 

■ 世界中でEVが「踊り場」に 

 

 世界で最もEV普及が進む中国では、政府が第12次五カ年計画(2011~15年)の頃からEVを含む新エネルギー車の普及を推進する姿勢を示してきた。だが、直近では中国経済の減速が表面化しており、EVに限らず国内自動車市場全体の伸びが鈍化するのではないかという懸念がある。中国からタイなど東南アジア向けにEV輸出を強化する動きが出てきているのも、国内市場の減速感と無関係ではない。 

 

 また、2010年代後半からEVシフトに大きく舵を切った欧州でも、EV販売に陰りが見え始めている。背景には、欧州連合の環境施策である欧州グリーンディール政策における政策パッケージ「Fit for 55」の見直しの影響がある。 

 

 「2035年に欧州域内での乗用車と小型商用車の新車100%をゼロエミッション車(EVまたは燃料電池車)に限定する」との当初の方針の一部を改めた。「合成燃料も含める」としたことで、内燃機関を使った自動車の延命を認めたかたちとなった。これとあわせて、欧州各国のEV補助金の見直しなどもあり、消費者のEV購買意欲が弱まり始めている状況だ。 

 

 世界第2位の自動車消費国であるアメリカでは、対中政策であるインフレ抑制法(IRA)を制定したことで、海外メーカー各社はアメリカ国内でのEV関連部品調達に苦労している。他方、地元のフォードやゼネラルモーターズ(GM)が鳴り物入りで市場導入した各種EV販売も伸び悩んでいる。 

 

 さらに、これまでEV市場を牽引してきたテスラに対しても、アーリーアダプターの需要が一巡し、成長が今後鈍化するのではないかという見方も出てきている状況だ。 

 

 このように、グローバルでのEV市場の現状を見ると、自動車メーカー各社が「EV市場は踊り場」と表現するのも理解できる。 

 

 

■ EVが踊り場に陥った2つの理由 

 

 では、EV市場が踊り場に陥った本質的な理由を考えてみたい。  

 

 これまでグローバルでEVについて定常的に取材してきた筆者の見立てとしては、その理由は大きく2つある。  

 

 1つめは「ESG投資バブルが一段落し、EVがニーズ連動型の市場に戻り始めたため」だ。 

 

 ESG投資とは、従来の財務情報だけではなく、環境・社会・企業統治を考慮した投資のこと。SDGs (持続可能な開発目標)との関係性も強い。 

 

 ここで時計の針を15年ほど戻すと、大手自動車メーカーが新車売り切り型事業としてEVを大量生産したのは、2000年代末から2010年代初頭の三菱自動車「i-MiEV」と日産自動車「リーフ」が初めての出来事だった。また当時のテスラは、創業者が計画した初期事業が軌道に乗らず倒産の危機を乗り越えたばかりで、自社でゼロから開発した新規モデルの量産に向けて思案していた時期である。 

 

 その後、2010年代前半から中盤にかけて、日産が大手自動車メーカーとしては他社に先んじてEV市場の開拓に注力するも、日産が夢見た市場規模には到達しなかった。テスラも「モデルS」「モデルY」の安定した生産体制を構築することに苦慮しており、将来の事業計画に不透明さが残っていた時期がしばらく続いた。 

 

 こうした状況を踏まえて、大手自動車メーカーの多くが、EV普及に対して保守的な事業計画を立てるようになった。 

 

 なかでも、ハイブリッド車でシェアが高いトヨタ自動車が2017年時点で描いた将来予想図では、当面はハイブリッド車の母数が増え、そこからプラグインハイブリッド車へ徐々にシフトするが、EVの普及はかなり先と予測した。 

 

 こうした段階的な電動化の進化は、ハイブリッド車の基本技術を持つトヨタとしては、研究開発やコスト管理の観点から当然の流れだと考えていた。 

 

 ところが、2018年から2019年にかけて、グローバルEV市場で異変が起こる。 

 

 

■ 過ぎ去ったESG投資バブル 

 

 ESG投資の急激な台頭と、それに伴う国や地域での環境施策の見直しだ。 

 

 これはオイルショックやリーマンショックに相当するような、自動車産業界が予期していなかった大きな時代変化であったと言えるだろう。 

 

 それが2023年に入ってから、一時期のESG投資バブルのような状況は過ぎ去り、市場のニーズに対するEVのあり方を、自動車産業界や経済界が冷静に見られるようになったのだと思う。 

 

 こうした市場の状態を、「踊り場」と呼ぶ人が多いのではないだろうか。 

 

 その上で、自動車産業関係者と意見交換して気になるのは、ESG投資の影響についての理解の差が業界内で大きいことだ。 

 

 大手自動車メーカーの経営層は当然、ESG投資と直近のEVシフトの関係性を理解しているものの、開発担当者や他の部門関係者、また部品メーカーや販売店関係者の多くが、そうした認識がほとんどない。 

 

 いずれにしても、ESG投資は、国や地域の政治的な判断に関係するため、政権交代やロシアとウクライナなどの戦争の動向などの影響も受けやすい。そうしたことから、大手自動車メーカーの経営層では最近、主に電動化について「自動車産業の将来は不確定要素が多く、先読みできない」と表現することが増えている。 

 

■ 明らかになりつつあるEVの理想と現実 

 

 EV市場が踊り場に陥ったもう1つの理由は、EVに対する「理想と現実」を、自動車産業界の人たちが徐々に認識し始めていることが挙げられる。 

 

 筆者がイメージするEVの理想とは、再生可能エネルギーの地産地消と、交通量の最適化を指す。 

 

 まず、既存のエネルギー網から再生可能エネルギー由来の電力に大きくシフトするためには、エネルギー全体の需給の仕組みを大きく見直す必要がある。だが、既存事業にメスを入れるのは極めて難しいと実感している事業者や行政関係者は少なくない。 

 

 そうした中で、日本の場合、政府主導でやっと本格的な議論の仕組みができつつある。 

 

 資源エネルギー庁が2022年3月から「次世代の分散型電源に関する検討会」を開催し、EVと既存の電力網との系統連携のあり方について議論を始めたのだ。さらにここからスピンアウトするかたちで、2023年5月から「EVグリッドワーキンググループ」が実施されているところだ。 

 

 そもそも、EV普及を考える上で、こうした電力などエネルギーの需給に関する全体論の検討が先に行われるべきであり、国の判断は遅かったと言わざるを得ない。 

 

 次に、交通量の最適化とは、社会全体におけるエネルギー需給と人々の活動を両立させるバランスを取ることを意味する。 

 

 現在の自動車産業は、新車市場の環境から各メーカーがざっくりとした販売計画を立て、販売店へ卸売販売する手法をとっている。 

 

 そうしたこれまでの考え方を180度転換し、社会において最も効率的な交通量とEVの使い方を先に設定し、そこからバックキャストした販売および生産計画を立てることが、環境政策の観点からはベターであると考えられる。 

 

 エネルギーの地産地消や、電力網との系統連系が技術的には可能であるEVにとって、こうした仕組みは世の中にとって理想的だと思える。 

 

 

■ 踊り場から脱する道筋が見えない 

 

 だがそうなると、既存の自動車産業構造を抜本的に見直す必要があるため、そこまで大きく踏み込んだ議論は現在、自働車産業界では行われていない。事業者も消費者も、自動車との関わり方に対する行動を変容するには至っていない。 

 

 結果的に、現時点でのEVは、ガソリン車やハイブリッド車の代替車という位置付けで、まだメインの選択肢になることができていない。 

 

 以上のようなEVを取り巻く状況を鑑みると、現在の「踊り場」から本格的なEV本格普及期に向けたキッカケが何になるのか予想することは現時点では難しい。 

 

 国や地域が規制を強化すればEVが一気に普及するという単純なシナリオでは、事は前に進まないように思う。 

 

 最も重要なことは、それぞれの国や地域において、一人ひとりがこれからの社会のあり方を常日頃から考えるような社会環境を整えることではないだろうか。そうした社会を俯瞰して見る姿勢の中で、理想的なEVのあり方も自ずと見えてくるように思う。 

 

 桃田 健史(ももた・けんじ) 

日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。 

◎Wikipedia 

 

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桃田 健史 

 

 

 
 

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