( 142528 ) 2024/02/24 14:00:14 0 00 日経平均株価が2月22日、史上最高値を更新した(写真:長田洋平/アフロ)
「つみたて王子」こと、なかのアセットマネジメント社長・中野晴啓氏による連載「中野晴啓の正しい投資」。日経平均株価は2月22日に終値が3万9098円と史上最高値を更新したが、果たしてこの急騰はいつまで続くのか。さわかみ投信の創業者で日本の長期資産運用のパイオニアである、さわかみホールディングス代表取締役の澤上篤人氏との対談を2回に分けてお届けする。前編は、株価の上昇が続く中、澤上氏が「まもなく大暴落する」と主張する背景を語り合う。
【写真】株価はこれから本当に大暴落するのか?語り合う澤上氏と中野氏
(中野晴啓:なかのアセットマネジメント社長)
■ 新NISAへの浅薄な流入、いずれ社会問題に?
──株価の急騰が続くなか、今年1月から新たなNISAが始まり、多くの投資初心者が資産運用を始めるきっかけとなっています。ともに独立系運用会社を創業したお二人は、出足をどう評価していますか。
中野晴啓・なかのアセットマネジメント社長(以下敬称略):いろいろな場所で講演をする度に「これまで何もやっていなかったのだけど、NISAをどう始めたらいいですか」という質問をたくさん受けます。新NISAで資産運用への関心が一般化したのはすごくいいことだと思います。長い目で見れば、貯蓄から投資へお金の流れを変える第一歩になりえますから。
ただ、今は「よーい、どん」で多くの人が飛びついた状況で、この先、「こんなはずじゃなかった」という戸惑うタイミングが押し寄せると思います。
──どういうことですか?
中野:投資に対する理解が浅薄のまま始めてしまった人が非常に多いのではと懸念しているのです。
例えば、多くの人が「オルカン」に飛びついていますよね。「オールカントリー」、全世界株式のインデックス型の投資信託です。米株式指標の1つである「S&P500」にも大量の資金が流入しています。このタイミングでオルカンやS&Pに投資をした人の中には、過去20年などの実績だけを見て、「確実に儲かる」と思い込んでいる人も少なくないでしょう。
でも、いずれ株価は下落トレンドに必ず転じます。そのとき、パニックになる人が出てくることを心配しています。株価が回復するまで、ぐっと耐えて長期保有できればよいのですが、資産運用に関する理解が浅いと、株価が下落していく怖さに耐えられません。その結果、かつてのバブルが崩壊した時のように様々な社会問題が噴出してくる可能性もあります。
■ 株式市場はもうすぐ大暴落する
澤上篤人・さわかみホールディングス代表取締役(以下敬称略):新しいNISAは、制度はいいがタイミングが悪い。そして、やり方も悪い。
今、マーケットは異常なカネ余りの最終段階で、株価はいつ弾けてもおかしくない。近々、大暴落しますよ。そんなタイミングで新たなNISAが始まり、マーケットの過熱ぶりにさらに火をつけてしまっています。
投資は高値づかみをしてはダメというのが大原則です。NISAでも、利益が出ないと非課税のメリットは得られないのだから、大暴落して儲からなかったら意味がない。
やり方も悪い。政府が「資産所得倍増」だと煽っている中、金融業界は「これは儲かる」と飛びつきました。NISAは彼らにとって、マーケティング上の格好のテーマだからです。これを機に口座をいちはやく、大量に獲得しようと、金融機関は大騒ぎで、それにみんな踊らされてしまっています。
だから、後で社会問題になりますよ。あの大騒ぎはなんだったのかと。
──今、大暴落は間近とおっしゃいましたが、足下では日本株は大きく上昇し、日経平均株価はバブル期の最高値を更新しました。そのような状況で、「こんなタイミングでNISAに踊らされて大丈夫か」という危機感がある?
澤上:大丈夫か? って、ダメに決まっています。確かに、オルカンもS&P500も、長期で持ち続けられればいいですよ。だけど、これから暴落して長期低迷するとしたら、そのときにみなさん、耐えられますか。いま、日経平均は34年ぶりの高値とか言われていますよね? 逆に言えば、元に戻るまでに34年かかったわけです。
中野:政治はマーケットの状況まで考えて新NISAを始めたわけではないですからね。岸田首相にしてみれば、自分が総理の時に始めないと政治的に意味がなくなってしまうから急いだ、という背景もあるのではないでしょうか。
澤上さんは「暴落」と言いますが、私も大きな調整は近い将来必ず来ると思っています。株価が上がることだけを前提に始めた人は、その調整局面を乗り切れずに損失覚悟で資産を売却してしまうでしょう。そうなると、非課税メリットもへったくれもありません。
──澤上さんが「大暴落する」と断言する根拠はなんですか。
■ 過剰流動性はもはや限界
澤上:根拠は、バブルを生み出している3つ要素が、どれも限界にきているということです。
1つは、過剰流動性です。そもそも、過剰流動性は1971年のニクソンショックあたりから始まり、これまでに大きく2回、金融引き締めのタイミングがありましたが、リーマン・ショックやコロナ禍をへて、もはや誰も過剰流動性が危険だということ言わなくなりました。かつて、米連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン議長は「根拠なき熱狂」と言いましたが、ブレーキをかけることはなく、それが今まで続いてきてしまった。
そして2つ目が、相場を押し上げてきた年金マネーの膨張も、そろそろ限界が来ているということです。資産運用会社はこれまで、巨大な年金マネーを獲得しようと、次々とベンチマーク(運用の指標とする基準)やシャープレシオ(投資効率の良さを数値化した指標)など成績判断尺度を開発し、毎年の運用成績をアピールしてきました。
資産運用会社の多くは、年金マネーを獲得するためのマーケティング会社に成り下がってしまった。本来、年金は何十年という長期で運用すべきものなのに、短期の運用成績を重視するようになり、マーケティングで集めた年金マネーで債券や株式を買いまくり相場を押し上げてきたのです。
ただ、少子高齢化により毎年の現役世代が納める保険料を高齢者世代への給付額が上回り、年金マネーは「純流出」の状況になります。もはや、相場を押し上げる年金マネーの力は弱くなり始めているのです。 3つ目が、「金利ゼロ」の世界がいよいよ終わるということです。これまではゼロ金利で個人も企業も安易にカネを借りてきました。その結果、世界の債務残高はGDP(国内総生産)比で336%。2021年に記録したピーク時の362%を下回っているものの、地球の経済の3倍以上の借金を抱えていることになります。過去10年で100兆ドルも積み上がっています。
それに対し、世界的なインフレ圧力で金利は上昇してきています。となると、ゼロ金利時代に積み上げた借金(金融契約)は、いずれも大きな負担となっていくわけです。
こんな異常な金融緩和バブルは長続きするわけがありません。実際、インフレが起きているのは、経済合理性が働き始めたと見るべきです。すでに金利が上がり始めており、ゼロ金利で積み上げた借金は返せなくなります。資産バブルがはじけたら、どうやって膨大な借金を返したらいいのか。金利上昇ですでに尻に火がつき始めていると考えたほうがいい。
──バブルはいつ弾けるのでしょうか?
■ 暴落は突然始まる、そして深く沈む
澤上:明日弾けてもおかしくないでしょう。世界の運用マネーの大半を握る機関投資家は、音楽が鳴っている間はダンスを止められないので、マーケット動向から離れようとしない。つまり、自分の判断で独自の投資行動をするリスクを取ろうとしない。彼らがマーケットの動向にべったりだから、これほどマーケットはしぶとく高値に張り付いているんですよ。
中野:過剰流動性で相場がずっと右肩上がりになってきたという成功体験から抜けられないんですよ。これまで投資をしてきた人も、実は本当の意味での「資産運用」ではなくて、上がり続けることを前提に資産を買うこと自体が目的化してしまって場合も少なくないと思います。その典型が、インデックス型投資信託へのマネー流入ではないでしょうか。
しかし、先ほど澤上さんがおっしゃたように、市場全体が右肩上がりになっていくという状況は、もう終わりに近づいています。
澤上:すでに金利が上がってきているので、ゼロ金利を前提に経営してきたゆるい会社は早晩、立ち行かなくなります。そうした会社が倒れ始めたら、マーケットは一気に崩れる。みんなを踊らせてきた音楽は、突然止むんですよ。
我々は炭坑のカナリアみたいに警鐘を鳴らしているけど、マーケットの人たちはみんな無視している。でも、歴史的な大きな流れをみたら、もういつ弾けてもおかしくないわけです。大きな流れを見るのが長期投資の本質ですが、誰もそういうことを語らなくなりました。
私は50年以上、この世界にいるから過剰流動性が始まった時からの状況を全て見ています。ところが、今現役の運用者のほとんどはカネ余りの状況しか知りません。構造的に、かなり根が深い問題ですよ。
一度、暴落が始まったら、リーマン・ショック以上の落ち込みになると見ています。金融当局も、もはや救済する有効な手段を出し尽くしてしまっていますから。
中野:目に見える変化が起きないと、誰も投資行動を変えられないんです。
──どこから崩壊が始まりますか。
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