( 142626 )  2024/02/24 15:55:22  
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夫が認知症になった後、行方不明になった70代の男性と、その妻の物語が福島県で起きている。

妻は夫の行方を捜してみるも見つからず、後に遺体で発見される。

夫の認知症は家族や近所には気づかれず、妻は夫を支え続けてきたが、つい目を離した隙にこの事態が起きた。

全国的に高齢者の認知症による行方不明が増加していることも指摘され、この問題に対処するための取り組みが進められている。

(要約)

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夫が生前、服用していた処方薬に手を置く女性。「守れたかもしれない」と後悔を抱えて過ごしている 

 

 高齢社会の進行に伴い認知症の患者や、その疑いのある人が行方不明者となるケースが全国で増えている。福島県内に住む70代女性は、長く連れ添った70代後半の夫が昨年末に姿を消し、ひと月半ほど後に遺体で対面した。「守れたはずの命だったかもしれない」。女性は悔いを胸に日々を過ごす。夫の発症からおよそ3年間、自宅で献身的に支えてきたが、目を離した隙の、つかの間の出来事だった。 

 

 昨年末のある日。女性が家の玄関先で友人と立ち話をしていたわずかな間に、直前までそばにいたはずの夫の姿が見えなくなった。 

 

 「どこに行ったんだろう」と慌てて周辺を捜し、すぐに警察に通報した。警察と消防に近隣住民も加わっての捜索が行われたが、手掛かりがないまま年が明けた。失踪からひと月半ほどたち、自宅から数キロ離れた川向かいのやぶで、倒れている夫が見つかった。 

 

 服装などから夫とみられる高齢男性が、家の住所を尋ね歩く姿が目撃されていたという。発見時の状況に不審な点はなく、事件性は確認されなかった。「道に迷ってしまったのかな。見つけてもらえただけでもよかったね」。遺影に語りかける女性の表情にはやりきれなさが浮かぶ。 

 

(写真:福島民報) 

 

 夫の異変に気付いたのは3年ほど前だ。寝る前に時折、「ここはどこだ」とつぶやくようになった。親しい近所の人の名前を出しても「だんじゃ、それ(誰だ、その人は)」と聞き返された。認知症と診断されたが、散歩が日課で足腰も丈夫だった。要介護の認定は受けなかった。 

 

 「自分が認知症とは受け入れられないだろう」。女性は極力、夫から目を離さぬよう寄り添った。散歩に付き添うのを嫌がるため、数百メートル後方から見守った。服薬にも気を配り、症状の進行を遅らせる処方薬を「サプリメントだよ」と伝えて飲んでもらっていた。 

 

 夫がいなくなる数カ月前には着用型の衛星利用測位システム(GPS)の利用を友人に勧められた。認知症患者向けの福祉施設の利用も考えた。ただ、夫が気を悪くすると思うと、切り出せなかった。 

 

 夫は70歳近くまで会社に勤めた。仕事熱心で家族を支えてくれた。女性は介護が苦ではなかった。 

 

 「自分と同じ思いをする人がいなくなるように」との思いから取材に応じた。「お父さんと、もっと一緒にいたかった」。愛する人が飲み残した薬にそっと手を置いた。 

 

 

■認知症が絡む高齢者の不明 全国で延べ1万8709人 

 

 高齢者らの認知症が絡む行方不明は深刻な状況だ。警察庁のまとめでは認知症やその疑いがある人が行方不明となり、全国の警察に届けられた件数は【グラフ】の通り。2022(令和4)年は延べ1万8709人と、認知症に限った統計を始めた2012(平成24)年以降最多を更新し、10年前から倍増した。 

 

 県警によると、県内でも2018~2022年の5年間は年130人台~180人台で推移。2022年は過年分の届け出を含めて6人の死亡が確認された。 

 

 国も認知症対策を喫緊の課題と捉えている。1月1日には認知症に特化した初の法律となる認知症基本法を施行。都道府県や市区町村に努力義務として推進計画の策定を求めている。 

 

 高齢者福祉に詳しい福島学院大福祉学部の遠藤寿海教授は新法に基づき、各自治体が地域の事情を計画に反映させ、実効性ある対策を講じる必要性を訴える。 

 

 夫を亡くした女性が暮らす自治体には公的な相談窓口や小学校学区ごとの地域包括支援センター、当事者家族が集う認知症カフェがある。この自治体の福祉部門の担当者は「家庭内で切羽詰まった状況になった段階で相談に来る方も少なくない」と実情を明かす。 

 

 女性の場合も既存のセーフティーネットを十分には生かせなかった。遠藤教授は「住民が認知症問題を人ごとと考えず理解を深め、自然と見守りや相談が生まれる社会が望ましい」と述べる。 

 

※認知症基本法 患者が尊厳や希望を持って暮らせる共生社会の実現を目的とし、認知症に特化した初の法律。国や自治体に対策を講じる責務があり、国民も認知症の知識と理解を深めるなどと基本理念に明記した。政府は患者や家族、医療・福祉関係者らの意見を踏まえて「基本計画」を作り、都道府県や市区町村にも「推進計画」の策定を努力義務として促す。社会の理解増進や当事者の社会参加推進、適切な保健医療・福祉サービスの提供、相談体制の充実などが期待される。 

 

 

 
 

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