( 142873 ) 2024/02/25 14:17:10 0 00 「オルカン」や「S&P」への資金流入が続いているが…(写真:Pavel Ignatov/Shutterstock.com)
「つみたて王子」こと、なかのアセットマネジメント社長・中野晴啓氏による連載「中野晴啓の正しい投資」。日経平均株価は2月22日に終値が3万9098円と史上最高値を更新したが、果たしてこの急騰はいつまで続くのか。さわかみ投信の創業者で日本の長期資産運用のパイオニアである、さわかみホールディングス代表取締役の澤上篤人氏との対談を2回に分けてお届けする。後編では、2人がともに独立系の資産運用会社を立ち上げた意義を語り合う。(JBpress)
【写真】これから「大暴落する」という根拠は?
(中野晴啓:なかのアセットマネジメント社長)
■ 当たり前の「受託者責任」すらないがしろ
──前編では、日経平均株価が史上最高値を更新し絶好調に見える株式市場が「まもなく大暴落する」、控えめに言っても大きな調整は免れないと予測する理由についてお話しいただきました。こうした状況と中野さんが資産運用会社を立ち上げたタイミングはくしくも重なったわけですが、独立系資産運用会社の存在意義をどのように考えていますか。
中野晴啓・なかのアセットマネジメント社長(以下敬称略):先ほど、澤上さんは「炭坑のカナリア」とおっしゃいましたが、新NISAが始まって浮き足立っている個人投資家の皆さんに対して、本当の意味での資産運用、つまり長期・積立・分散の必要性をしっかりとお伝えしていく役割を担っていきたいと思います。
相場が大きく荒れたとしても、しっかりと長期視点に立った資産運用をしてもらえるよう、運用する側の理念やフィロソフィーをしっかり伝え、それによって信任を得ていくことが私たちの社会的使命だと考えています。
澤上篤人・さわかみホールディングス代表取締役(以下敬称略):最近になって、金融庁は「受託者責任」ということをしつこく金融機関に求めるようになりましたが、当たり前ですよね。当たり前のことですら口を酸っぱくして言わなければならないような状況なんです、今の金融業界は。
中野:「カネをたくさん集めるのがビジネスの根幹だろう」などという金融機関の経営者すらいます。もっと資産運用の本質を勉強してほしいですよ。
澤上:まともな資産運用会社がないんですよ。だから、作らなきゃいけないんです。
私はもう、最初から中野さんにはあそこ(クレディセゾン)の下で資産運用ビジネスをやるのはやめた方がいいと言っていたんです。でも頑張ると言うから見守ってきました。やはり、最後まで金融ビジネスと資産運用ビジネスは違うということを理解してもらえなかったね。結果的にいいタイミングで踏ん切りがついてよかったのでは。
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そもそも、資産運用ビジネスというのは、契約をいただいた瞬間から20年、30年、100年という長期を見据えて責任を果たすことになるので、時間軸が長い。一方、金融はその場主義だから、考え方が全く違う。
中野:そういう長期の信頼関係を資産運用会社と結ぶことになることを、お金を預ける側の方々にもしっかりと理解してもらいたいんです。長い間、一緒に歩んでいくんですよと。
とにかく対話をして、資産運用に対する理念やフィロソフィーのメッセージを出して、共感を得ていく。それはカネ集めだけの営業とは違うんです。
しかし、そういう考え方を理解できない大手金融機関が資産運用会社の親会社にいると、哲学を守り続けることが難しい現実があります。そのことを今回、セゾン投信を辞めなければならなくなった時に学びました。
■ 「岸田首相は分かっていない」
──澤上さんがさわかみ投信を立ち上げたのは30年近く前ですが、当時は今以上に独立系の資産運用会社を作る理由を周囲から理解されなかったのではないですか。
澤上:それはもう、金融業界全体が国の政策遂行手段としか見られていなかったから。本来、資産運用ビジネスというのは受益者のためのものだと主張しても、大蔵省などは全く理解してくれなかったし、資産運用会社を立ち上げる際には、ものすごくいろいろな横やりが入りました。
中野:澤上さんが切り開いてくれたから、私が前の会社(セゾン投信)を立ち上げた際にはかなり改善されていたと思いますが、それでも大変でした。今回は、その時よりはやりやすくなっていて、金融庁もしっかり理解してくれています。それでも、年明けには事業をスタートできるかと思っていたところが、4月に始められるかという状況にずれ込んでいます。
澤上:岸田首相も資産運用立国を目指すというのであれば、プレーヤーを増やす必要があるわけで、そのためにはもっと認可のスピードを上げなければいけない。口だけで全然わかっていないね。
中野:入り口の閉鎖性はまだ解消されていません。一度、資産運用会社を立ち上げたことがある私がやっても、これだけ時間がかかるわけですから。
澤上:私は怒っているんですよ。とっとと作ってなぜ、もっと早く始められないのかと。
■ 大暴落で独立系資産運用会社の真価が見直される?
──この先、株式市場は大暴落するというお話をされていますが、そうした状況で規模が小さい独立系資産運用会社は生き残れるのでしょうか。
澤上:むしろチャンスです。米国の大手ファンドには買収を繰り返して1000兆円を超える規模の資産を持っているところもありますが、カネ余り相場全体に張っているので、いざマーケットが大崩れを始めると、落ち方はかなりきついと思います。先ほど、カネ余りの状況でインデックス型のファンドに巨額の資金が流れ込んできたと話しましたが、相場全体が落ちるのと同じようにインデックス型のファンドも損失を被ります。
しかも、最近の運用担当者は、こういう極端な相場の下落を経験していません。乗り切れないところも出てきますよ。
中野:潰れる資産運用会社も出てくるでしょうね。
澤上:だけど、私たちのファンドはそうした世界の金融マーケットの暴落といった状況の中で、浮いているといった状況に持っていく自信はあります。その時はもう、「炭坑のカナリア」ではなく、目に見えて存在価値がわかってもらえると思いますよ。
──さわかみ投信も、なかのアセットマネジメントも、インデックス型のファンドではなく、個別銘柄を吟味して投資先を決めるアクティブ型のファンドです。しかし、過去の実績を見ると、アクティブ型よりインデックス型の方が確実にパフォーマンスがいい、というのが定説です。
澤上:大暴落がくれば、私たちも若干、下げを食らうでしょうが、他と比べては浮いているはずです。なぜなら、投資先であるまともな会社の経営は、一時的にいったん影響を受けても必ず復活しますから。
過剰流動性で膨れ上がっているのは、ある意味で虚構の部分。狂ったマーケットで安易にカネを借りてビジネスを膨らませている会社は倒れるでしょうが、そうでない、実体経済をベースにしっかり経営をしている会社は見直されるでしょう。
■ 「本物のアクティブ型」は絶滅危惧種
中野:しっかりと世の中に価値を提供できている会社は生き残りますし、そういう会社を選別して投資しているアクティブ型の資産運用会社もまた、浮上していくはずです。私たちは、それを目指しています。
アクティブ型というと、単純にインデックス型の反対用語となっていますが、その内実はピンキリです。マーケットのタイミングだけを見て、「これから上がるのはこのジャンルだ」とか、トレンドだけを見て「大型だ、中小型だ」とかフラフラしているのだってアクティブ型です。
そうではなくて、会社の本質的な価値を見定めて、一生懸命いい会社をできるだけ安く買って、一度買ったら長期的に保有し続けるというのがアクティブ型の王道です。アクティブ型の成績が悪いと言われるのは、パフォーマンスが悪いファンドにアクティブ型全体の平均値が引っ張られてしまっているからです。
アクティブ型の王道をしっかりやっているファンドは本当に少なくなっています。だから、僕らが始めて、徹底的にやっていくんです。
澤上:もはや絶滅危惧種的な存在だよ。
──とはいえ、アクティブ型のファンドを選ぼうにも、投資する私たち個人は、過去の実績などわかりやすいことでしか、なかなか判断できません。
澤上:先ほど少し話しましたが、残念ながら資産運用会社の多くは、短期的な運用成績をアピールしてはカネ集めに徹するマーケティング会社のような存在になってしまっています。本来は、そうした売り込みに惑わされないように、お客さん自身の人生観や投資哲学、あるいは生き方・価値観にそって、投資するファンドを選ばなければならないんですよ。
そういう軸、ものさしをお客さん自身が持って初めて、「ここなら安心してお任せできる」と付き合う資産運用会社を選べるわけです。
中野:最近本屋に並んでいるNISA本などを見ても、そこをしっかり発信してくれている教科書はありませんよね。「どうやって選んだらいいですか」という質問をよく受けるのですが、その答えは「理念、フィロソフィーを見ることが一番大切」ということに勝るものはありません。
もちろん、私も仕事柄、新NISAでつみたて投資枠をどう使ったらいいかといったアドバイスを求められることも多く、その際は具体的に世界株式への分散投資などをおすすめしたり、分配型はやめた方がいいと忠告したりします。ただ、やはりもっともお伝えしたいことは、理念やフィロソフィーに共感できる資産運用会社のファンドを選んでほしい、ということなんです。問題は、これまでそうした選択肢が、あまりにも少なかった、ということです。
もっと真面目で、誠実で、情熱的な運用会社にもっと出てきてほしいと思います。
■ 大暴落を経てガラリとプレーヤーが変わる
澤上:大暴落で一度、廃墟の山が築かれるかもしれませんが、その中から本物だけが浮かび上がってきますよ。みんな、痛い目にあってようやく、独立系資産運用会社の社会的意義に気がつくんです。
中野:残念ながら、痛い目にもあわないと、本当の意味でクオリティーの高い金融立国、資産運用立国にはなっていきません。右肩上りで能天気に浮かれていては、長続きしないでしょう。
浮き沈みを繰り返しながら、日本は資産運用立国として成熟していくのだと思います。そうしてこそ、個人の金融資産が企業を支える資金に回り、「みんなが資本家」として日本の産業を盛り上げていけるという状況に近づけるのではないでしょうか。
澤上:かなり新陳代謝が起こると思いますよ。今をときめく有名企業が影を潜め、日本を引っ張るプレーヤーが大きく変わるかもしれません。大暴落の先にね。それくらい新しい世界に変わってほしいと期待しています。>>前編:日経平均株価が史上最高値、いよいよ「大暴落」始まる? 新NISAの投資初心者は大火傷か、過剰流動性はもう限界超えた
中野 晴啓
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