( 142886 )  2024/02/25 14:32:20  
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2024年2月5日から6日にかけて降った雪による東京都心、飯田橋駅周辺の状況が報告された。

関東地方では雪に警戒を呼びかける一方、雪質や気候条件が異なる地域と比べて交通への影響が大きいことが指摘されている。

関東地方の雪は非常に湿った状態になりやすく、路面の凍結リスクが高い。

このため北海道や北陸などの雪に慣れている地域と比べて、関東地方の交通インフラやドライバーの対応が不十分であると述べられている。

このような事情から、関東地方での積雪時には、スタッドレスタイヤだけでなくタイヤチェーンの使用や、車の運転を控えるなど、個人レベルでの対策が重要であると強調されている。

(要約)

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降雪時の東京都心、飯田橋駅付近の様子(画像:写真AC)。 

 

 2024年2月5日から翌6日にかけて関東地方を中心に降った雪。このとき、高速道路各社は本格的な積雪前から「予防的通行規制」を実施するなどしました。 

 

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 それでも、各地でスリップや積雪が原因の交通事故が続発し、交通網が乱れるなどしています。山間部や郊外はともかくとして、東京23区を中心とした関東南部ではわずか数cmの積雪でした。なぜ、その程度でも交通に多大な影響が出てしまうのでしょうか。 

 

 東京管区気象台が発表する資料によると、東京23区、多摩北部・南部で大雪注意報を出す基準は12時間の積雪が5cmとのこと。なお大雪警報の場合は、12時間の積雪が10cm とのことです。 

 

 一方、札幌管区気象台が大雪警報を出す基準は、平地の場合で6時間に30cm、または12時間に40cmの積雪。仙台管区気象台では平地で12時間に35cmの積雪、これで大雪警報を発するとしています。 

 

 こうして比べてみると、雪に対する警戒レベルは地域によってバラバラです。ただ、関東地方における積雪は年に数回程度しかないというのがポイントのようです。 

 

 雪が路面に残る日数も2日から長くて4日ほどで、数か月も雪が残る北日本や日本海側の豪雪地帯とは大きく異なります。ゆえに、関東は行政による除雪能力が雪国と比較にならないほど低く、ドライバーにも雪に不慣れな人が多いといえるでしょう。 

 

 ただ、それだけが少しの降雪でも交通がマヒする大きな理由ではなさそうです。実は雪国と北陸や関東では、降る雪そのものに違いがあります。 

 

高速道路の除雪状況(画像:国土交通省)。 

 

 北海道や東北に降る雪は、シベリアから流れ込んでくる寒気がもたらしていますが、その周辺の海水温は低いままのため、寒気が加熱されることはありません。そのため、非常に乾燥したパラパラの雪が降ります。また、気温もマイナスであることが多く、積もった雪は溶けることなく地面に残ります。 

 

 一方、北陸に降る雪を見てみると、そのエリアは対馬海峡を通って東シナ海の温かい海水が日本海を北上して来ているため、水温は高くなりやすく、かつ海水の蒸発量も多いです。そのため、降る雪は非常に湿ったベチャベチャなものになりやすいといえるでしょう。 

 

 関東で降る雪も北陸の雪質と似ているのですが、関東に大雪をもたらすのは、大陸からの寒気ではなく、南の海上を進む「南岸低気圧」によるものです。 

 

 太平洋側の海水温は日本海側以上に高い傾向にあります。また、南岸低気圧が進むコースが北にそれれば雨になり、八丈島あたりを通過すると関東に雪が降ります。そのため、非常に湿った雪で、特に都心などは気温がマイナスになることも少ないため、降った雪はすぐに溶けだします。 

 

 この北海道や北陸との雪質の違いが雪面走行に大きく影響するといわれています。スタッドレスタイヤは、低温時でも安定した走行ができる冬用タイヤで、北海道や東北のような気温が低い場所では良くグリップします。 

 

 一方で関東の場合は、雪がシャーベット状になります。これが、スリップする大きな要因といえるでしょう。シャーベット状ということは氷と水が入り混じっている状態です。すなわち、氷の間に薄い水の膜が作られるのですが、この薄い水膜がタイヤと雪のグリップを奪ってしまうのです。 

 

 そのため、関東の雪質はスタッドレスタイヤでもスリップしやすいものだといえます。 

 

 

高速道路の除雪状況(画像:国土交通省)。 

 

 もちろん、タイヤメーカー各社は、この水膜を取り除く技術を開発し続けています。しかし、それでも完璧とはいえず、JAFが行ったユーザーテストでは、坂道の途中から発進した場合、スタッドレスタイヤでも滑ってしまうという結果が出ています。 

 

 そこで必要になるのが、タイヤチェーンです。 

 

 タイヤチェーンとは、昔ながらの金属製のものや、ウレタンやゴムを使ったもの、近年では合成繊維を使った布製チェーンも開発されています。 

 

 一般的に、チェーンはスタッドレスタイヤよりも雪深い、豪雪地帯で使うといったイメージが強いかもしれません。ゆえに雪が少なければ、まずはスタッドレスタイヤ、そしてそれでも無理な場所ではタイヤチェーンと思われがちです。 

 

 しかし、タイヤチェーンの使用を判断する基準に雪の量はあまり関係ないといえるでしょう。雪が少なくても滑りやすい状況なら、迷わずタイヤチェーンを使った方が良いのです。 

 

 実際、一度スリップしても、チェーンさえあれば脱出できることが多いのも事実です。前述したように関東の雪はスリップしやすいもの。北海道や東北でスタッドレスタイヤが多用されているからといって、関東でもスタッドレス履いておけば大丈夫、と過信せず、状況に応じてタイヤチェーンを使った方が適切だといえるでしょう。 

 

降雪により閉鎖された首都高の入り口(画像:写真AC)。 

 

 加えて、首都圏特有の事情もあります。普段は乾いた路面であることが多い関東地方では、自動車自体も4WD(4輪駆動)よりも燃費が良く車両本体価格も安い2WD(2輪駆動)の方が一般的です。 

 

 また、都内は意外と道路の起伏が大きいという特徴もあります。首都高含め、高速道路も一般道も、立体交差を始めとしてカーブやアップダウンが多く、降雪時に走りやすい環境とは決していえないでしょう。 

 

 それでいて関東の除雪インフラは最低限の機能しかありません。行政は予算の都合上、あまり降らない雪に備えるよりも、他の道路の維持補修や改修などに予算を回したいのです。 

 

 しかも首都圏の交通量は絶対的に多いので、1台でも路上で動けなくなってしまうと、瞬時に周りに影響が波及しやすいという課題も抱えています。 

 

 こうして見てみると、北海道や北陸と異なる雪質となる関東の雪。わずかな積雪でも大事になるのには、しっかりと理由があったのです。 

 

 よって、関東で積雪があった場合は、楽観視せずに状況によってはスタッドレスタイヤよりもむしろタイヤチェーン、場合によっては両方を併用し、また早いうちに極力クルマを使わない判断を下すなどで、個人レベルで対策を取る必要があるといえるでしょう。 

 

武若雅哉(軍事フォトライター) 

 

 

 
 

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