( 143541 )  2024/02/27 13:40:52  
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北陸新幹線が福井県敦賀市まで延伸され、次の大阪延伸には困難があることが報じられている。

特に、大阪延伸には湖西線の並行在来線問題が立ちはだかっており、地元の反対が高まっている。

さらに、並行在来線の経営分離問題もあり、滋賀県や沿線自治体が激しく反発している。

これらの問題が解決されない限り、北陸新幹線の大阪延伸は未定の状態が続く可能性があり、膠着状態が続きそうだ。

(要約)

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高島市の近江今津駅で停車する特急「サンダーバード」(画像:高田泰) 

 

 3月16日に福井県敦賀市へ延伸する北陸新幹線。次の大阪延伸は京都府内の反対運動でめどが立たないが、仮にこれが片付いてももうひとつの難題がある。湖西線の並行在来線問題だ。 

 

【画像】えっ…! これが北陸新幹線の「ルート全貌」です(計9枚) 

 

 駅舎の最上部は12階建てビルに相当する高さ37m。近くでJR北陸本線の上を通る国道8号バイパスをまたいだためで、整備新幹線の駅舎としては国内最大になる。北陸新幹線が延伸する敦賀市のJR敦賀駅は、巨大な要塞(ようさい)のようなたたずまいで開業を待っている。 

 

 敦賀市は古くからの港町。駅舎内は港町らしいしつらえがあちこちに施された。3階の新幹線ホームは船の甲板をイメージした木彫りタイル仕上げ。待合室は船の操舵室を思わせる外観にしている。市民の多くは新幹線延伸を港町敦賀の新たな船出と考え、期待に胸を膨らませるが、敦賀駅から先の大阪延伸には暗雲が立ち込める。 

 

 大阪延伸は福井県小浜市から京都府へ入り、京都市下京区の京都駅や京田辺市を通って大阪市淀川区の新大阪駅へ至る「小浜・京都ルート」となる。距離は約140km。敦賀駅と新大阪駅間を最短43分で結ぶ計画だ。しかし、 

 

・京都府内はトンネルが多く建設費がかさむこと 

・地下水、景観への悪影響 

 

を心配する市民の反対が高まっている。このため、環境アセスメントが進まず、詳細なルートは未定のまま。与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチームは2023年度着工を目指していたが、開通はおろか着工時期さえ見通せない状況に陥っている。 

 

大阪延伸が見通せない状況に陥っている北陸新幹線の敦賀駅(画像:高田泰) 

 

 仮にこの問題が解決したとしても、もうひとつ大きな問題が立ちはだかる。並行在来線だ。 

 

 与党整備新幹線検討委員会は1996(平成8)年、並行在来線の定義を 

 

「整備新幹線の建設に伴い、同区間を走行する在来線の優等列車が新幹線に移る線」 

 

とした。この定義に当てはめると、並行在来線は関西と北陸を結ぶ特急「サンダーバード」が走る湖西線になる。 

 

 国土交通省は整備新幹線の推進に際し、JRが並行在来線を経営分離することを認めている。JRが並行在来線維持で過度の負担を抱えないようにするためだが、経営分離には沿線地方自治体の同意を義務づけた。 

 

 京都府を通る新幹線の並行在来線として、大半が滋賀県を走る湖西線を経営分離することに、滋賀県や沿線自治体がすんなり同意するはずがない。 

 

 

近江塩津駅の位置(画像:OpenStreetMap) 

 

 湖西線は滋賀県長浜市の近江塩津駅から琵琶湖西岸の高島市を走り、大津市から京都市山科区の山科駅に至る延長74.1km。21駅が設けられているが、山科駅以外は滋賀県内に位置する。湖西線の普通列車のほか、サンダーバード、関西を縦断する新快速が運行し、全列車が琵琶湖線経由で京都駅に乗り入れている。 

 

 JR西日本によると、1km当たりの1日平均旅客人員を表す輸送密度は、湖西線を通過するサンダーバードの乗客を含めて2022年度全線平均で 

 

「2万9155人」 

 

富山県のあいの風とやま鉄道など過去に並行在来線として経営分離された路線と比べると高い数字だ。 

 

 駅間移動者など詳細なデータは公表されていないが、国交省が2015年度に実施した第12回大都市交通センサスで滋賀県内の駅間移動者を見ると、沿線北部の長浜市は極めて少ない駅間移動者しかいない。しかし、中部の高島市は南へ向かうほど駅間移動者が増える。南部の大津市は政令指定都市並みになる。 

 

 湖西線が並行在来線の検討対象になることは2016年、JR西日本から三日月大造滋賀県知事へ伝えられた。その後、京都府内の反対運動もあり、並行在来線の協議は始まっていないが、滋賀県や沿線自治体は強く反発している。 

 

 滋賀県交通戦略課は 

 

「大阪延伸に並行在来線は存在しないというのが県としての主張。この主張を今後も続ける」 

 

高島市都市政策課は 

 

「JR西日本からアクションはないが、県と歩調を合わせ、湖西線が並行在来線となることに反対していく」 

 

と述べた。 

 

 大津市の大津京駅で列車待ちのサラリーマン(29歳)に話を聞いた。 

 

「滋賀がどうして京都の犠牲にならないといけないの。まるで滋賀が京都の“植民地”みたいな扱いやね」 

 

と不満を口にした。 

 

JR西日本のウェブサイト(画像:JR西日本) 

 

 全国にある並行在来線のうち、経営分離されたJRの路線を受け継ぐ沿線自治体出資の第三セクター会社は、石川県のIRいしかわ鉄道、青森県の青い森鉄道など8社。北陸新幹線の敦賀延伸で福井県のハピラインふくいが加わり、3月16日以降は9社に増える。 

 

 だが、すべての路線が第三セクター会社に移管されたわけではない。北陸新幹線で信越本線の一部、九州新幹線で鹿児島本線の肥薩おれんじ鉄道移管部分以外、西九州新幹線で長崎本線のうち佐賀県江北町の江北駅と長崎県諫早市の諫早駅間が従来通り、JRの運行だ。 

 

 長崎本線は沿線自治体の同意を得られなかったためだが、その他の区間は乗客が多いなどJRの判断が大きく影響した。並行在来線が経営分離されるかどうかはJRのさじ加減に委ねられている一面もある。 

 

 湖西線の場合、JR西日本としては 

 

「赤字区間を切り離したい」 

 

のが本音だろう。だが、滋賀県や沿線自治体、関西広域連合が早くから反対の声を上げている以上、強行突破を図りにくい。今後、難しい決断を迫られることになる。 

 

 北陸新幹線の大阪延伸にとって、湖西線の並行在来線問題が大きな障壁になる可能性を秘めている。大津市内が大都市圏の通勤路線として機能していることを考慮し、JR西日本が譲歩の姿勢を示さない限り、膠着(こうちゃく)状態が当分続きそうだ。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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