( 144608 ) 2024/03/01 14:19:24 0 00 (ブルームバーグ): 中国共産党の習近平総書記(国家主席)が強大な権力を握るに至ったことで、債務主導の成長サイクルを転換し、国内経済をより持続可能な軌道に乗せる道が開けた。しかし、大きな問題がある。習氏は国民からそれが良い考えだとの理解を得ていない。
世界2位の経済大国が長期的な景気減速に陥る中、習氏は広範な景気刺激策を打ち出すという旧来のやり方を避けようとしており、これが国民の不満に拍車をかけている。
米人権団体フリーダムハウスの「中国反体制モニター」プロジェクトによると、経済絡みの抗議デモ件数は昨年8月以降、高水準が続き、その多くは家計資産を目減りさせている不動産危機や労働争議や集中している。
先月にはソーシャルメディアの微博(ウェイボ)で、米国大使館のページに怒れる個人投資家の投稿が殺到し、7兆ドル(約1050兆円)規模の株価急落のさなか、中国政府の経済運営を批判。他のプラットフォームでは、最高指導部の交代だけが市場を活性化させるとほのめかすコメントさえあったが、こうした投稿は最終的に削除された。
債務を抱える地方政府が十分な歳入を確保するのが難しいため、ここ数年ボーナスが削減されている公務員の所得が幅広く減少していることも問題を複雑にしている。習氏のビジョンを現場で実行する責任を負う巨大な官僚体制を弱体化させる可能性もある。
南西部の都市に住むある中堅の警察官は「所得がそこそこあるうちは文句も言わなかった」が、「今は景気が悪く、指導部はわれわれに希望を示す必要がある」と話した。
チェック機能
高まる不満は、中国で毛沢東初代国家主席以来最も強い指導者となった習氏に直接的な脅威を与えるものではない。
だが、世界金融危機以来最も速いペースで消費者物価が下落する中で、より広範な不満がすでに低下している信頼感を一段と悪化させる恐れがある。外国人投資家の中国離れが深刻化し、2023年の対中直接投資は30年ぶりの低水準に落ち込んでいる。
同時に習氏の政策決定に対するチェック機能も低下している。習氏は2022年10月の共産党大会で最高指導部を側近で固めた。以後、党の慣例を覆し、中国の経済的台頭を支えたより集団指導体制からの転換を図ってきた。習氏が推し進めた不動産セクターのレバレッジ(借り入れ)解消は、景気減速を招き、より多くの国民に影響を与え始めている。
ジョンズ・ホプキンズ大学で中国の政治経済を研究するユエン・ユエン・アン教授はこのような課題にもかかわらず習指導部は経済の方向転換を図るという計画に大きな自信を持っているように見えるという。
習氏とって危険なのは、「古い成長モデルから離れる影響があまりにも大きく、新たな成長モデルへの移行を阻む可能性がある」ことだと分析。「大きな問題は、そうしたシフトを十分に速いペースで起こせるかどうかだ」と述べた。
不満の一部は、習氏が目標達成のための明確なロードマップを伝えなかったことに起因している。
習氏は「質の高い発展」への言及を重ねているが、そのあいまいな定義は具体性に欠ける。エコノミストらはこのスローガンを、革新的なテクノロジーの強化に重点を置き、拡大ペースの追求より持続可能な成長を優先させることを意味していると受け止めている。
しかし、電気自動車(EV)やバッテリー、再生可能エネルギーといった新たな成長の原動力だけでは、最盛期に中国国内総生産(GDP)の約4分の1をけん引していた不動産が残した空白を埋めることはできないだろう。
戦略的セクターの強化は、米国との対立から中国を守ることにつながり得るが、こうした分野の過剰生産能力はすでに緊張状態にある地政学的関係を悪化させる恐れもある。
「インフォメーションコクーン」
習氏は長期的な政策方針を策定する第20期中央委員会第3回総会(3中総会)の開催を先送りし続けているが、こうした説明のつかない決定は不透明さを一段と高めている。
この状況を前向きに捉えようとする党のレトリックは役に立っていない。共産党の機関紙に先月掲載された「中国全土に楽観的な雰囲気」との見出しの記事は、本土のソーシャルメディアユーザーによって嘲笑された。
アジア・ソサエティー政策研究所の中国分析センターで中国政治を研究するニール・トーマス研究員は「社会そして政府の誰もが問題があることを知っているようだが、問題を解決するための新たなアプローチについては何も決定されていない」と話した。
経済的な不満は、新型コロナウイルスを徹底的に封じ込めるとする「ゼロコロナ」政策が中国に資金を投じる投資家の信頼を損ない、外国人や市民が中国から離れる動きが加速した後に生じた。
ワシントンのシンクタンク、スティムソンセンターの中国プログラムディレクター、ユン・スン氏は、この失策は「インフォメーションコクーン(情報の繭)」に習氏が置かれていることを象徴するものだと説明し、「人々は習氏の好む情報や政策に迎合し、客観的な評価が本当に難しくなっている」と述べた。
ゼロコロナ政策のロックダウン(都市封鎖)に反発した全国的な抗議デモの後、習氏が突然ゼロコロナ政策を撤回したことは、習氏が軸足を移せることを示したが、「突然の政策転換は通常、大きな代償を伴う」ともスン氏は付け加えた。
以後、中国市民は経済政策への抗議をより積極的に行うようになったが、習氏に対する直接的な批判は依然としてまれだ。
フリーダムハウスの中国反体制モニターによって抗議対象が特定された昨年のデモ約1450件は、その4分の1近くが地方の政治リーダーを標的にしていた。米国を拠点とする研究者のグループは最近のリポートで、政府の弾圧を恐れるあまり中国市民の約40%が反体制デモへの参加を控えていると指摘している。
中国反体制モニターのプロジェクトを率いるケビン・スラテン氏は、「市民も、党があらゆるレベルの政府を支配していることを理解している。地方の不満が大きな運動に発展し、新たな意味を持つこともある」とコメントした。
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原題:Xi’s One-Man Rule Over China’s Economy Is Spurring Unrest(抜粋)
--取材協力:Philip Heijmans、Ben Westcott.
(c)2024 Bloomberg L.P.
Rebecca Choong Wilkins, Josh Xiao
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