( 144926 )  2024/03/02 14:18:47  
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洛西ニュータウンは高齢化と人口減少に直面しており、若い世代の呼び込みが課題となっている。

施設の老朽化や大学の移転が地域の変化を象徴している。

京都市は人口減少への対策として新たな施策を打ち出しており、商業施設の建設や交通アクセスの改善を計画しているが、一方で市からの提案に市民や企業が反応しない課題も存在する。

全国的にニュータウンの高齢化と人口減少が課題となっており、洛西ニュータウンの今後に期待と課題が共存している。

(要約)

( 144928 )  2024/03/02 14:18:47  
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老朽化した施設が少なくない洛西ニュータウン(画像:高田泰) 

 

 京都市西京区の洛西ニュータウンで若い世代を呼び込む地域再生の取り組みが始まった。全国的にニュータウン再生の成功例は多くないが、果たして成功するのだろうか。 

 

【画像】えっ…! これが60年前の「洛西ニュータウン」です(計13枚) 

 

「地下鉄が来るというから引っ越してきたのに、京都市にだまされた」 

「大学がなくなって若い人の姿がさらに減った。今では街自体が老人ホームや」 

 

洛西ニュータウンの中心部に位置するバスターミナル。2月下旬の週末、バスを待つ高齢の女性ふたりに話を聞くと、こんな不満が返ってきた。 

 

 このうち、70代の女性は入居が始まって間もない1970年代末、夫とともに引っ越してきた。専業主婦をしながら子どもふたりを育てたが、子どもたちは就職や進学時に洛西ニュータウンを離れている。 

 

「洛西は暮らしやすい場所だけど、子どもたちは街中がいいみたい」 

 

と残念がっていた。 

 

 洛西ニュータウンは高度経済成長期の1970年代、西京区南西部の大原野地区と大枝地区にまたがる丘陵部約260haに市が整備した。計画戸数1万900戸、計画人口4万900人で、入居が始まったのが1976(昭和51)年。公営住宅、都市再生機構(UR)の分譲・賃貸住宅、戸建てなどさまざまな住宅が整備され、ほぼ計画戸数並みの数になる。 

 

 しかし、人口は2020年の国勢調査で約2万2000人。1990(平成2)年の約3万6000人をピークに減少を続け、計画人口のほぼ半数まで落ち込んだ。最も多い年齢層は全体の13%を占める70~74歳。65歳以上が全人口に占める割合を示す高齢化率は、市全体の28%を大きく上回る43%に達する。 

 

 建設当時、市は市営地下鉄の東西線が延伸すると宣伝していたが、延伸は2008年に開業した右京区の太秦天神川駅でストップした。建設費用が当初予定の2倍以上に当たる約5500億円に膨らみ、市営地下鉄の経営が悪化したためだ。 

 

 洛西ニュータウンのすぐ近くに1980年、京都市立芸術大学が移転し、地域のシンボルになっていた。しかし、芸大は2023年10月、下京区の京都駅近くに全面移転した。施設の老朽化と開発の手が及んでいなかった京都駅東側再開発の目玉にすることが理由だ。洛西ニュータウンは芸大生が消え、高齢者の姿がこれまで以上に目立つようになった。 

 

 

2003年に開設された阪急洛西口駅(画像:高田泰) 

 

 京都市はこれまで、JR京都線の桂川駅や阪急京都本線の桂駅を結ぶバス路線を充実させるなど、てこ入れを続けてきた。その結果、洛西ニュータウンを走るバスの数は京都市営バス、京阪京都交通など4社で 

 

「1日400本以上」 

 

に上る。阪急電鉄も洛西バスターミナルから3kmほどの京都本線に2003(平成15)年、最寄り駅となる洛西口駅を新設した。 

 

 しかし、地下鉄延伸断念後の代替策として、門川大作前市長が2020年の選挙公約で打ち上げた新たな環状ネットワークはまだ形になっていない。結局、てこ入れは決め手を欠き、人口減少と高齢化に歯止めを掛けられずにいる。 

 

 市は人口に占める大学生の割合が全国一の学生の街。2022年度で10.4%に達し、5.8%で2位の東京23区を大きく引き離している。だが、市の人口は減少傾向が続く。市総合政策室は 

 

「就職時、子育て期の流出に加え、西京区など周辺部の減少拡大が影響した」 

 

と分析する。 

 

門が固く閉じられた京都市立芸術大跡地(画像:高田泰) 

 

 そんな状況を抜本的に解決しようとする意欲的な施策が2023年11月、市から打ち出された。人口減少対策をまとめた「人口戦略アクション」で、洛西ニュータウンはモデル地域に位置づけられている。 

 

 これまで高さ31mを超す建物の建設が規制されてきたが、都市計画を見直して中心部限定で商業施設を含む場合に認めることにした。今後、洛西ニュータウンに店舗を持つ高島屋と連携し、高層マンションと店舗の複合施設を検討するという。 

 

 さらに、近くの鉄道駅までを現在の半分に当たる約10分で結ぶ直行バスを開設する方針。具体化できたものから実施に移し、今後も追加の施策を次々に進めることにしている。 

 

 だが、市の思惑に冷水を浴びせる出来事が起きた。市が芸大跡地約6万9000平方メートルの活用策を公募したところ、唯一応募した1社が2月に入って辞退してきたことだ。跡地利用が宙に浮く形となったわけで、市資産イノベーション推進室は 

 

「民間の力で再開発する方針は変わらないが、結果を分析し、再公募も含めて対応を検討したい」 

 

と頭を痛めている。 

 

 

洛西ニュータウンまで延伸しなかった地下鉄東西線(画像:高田泰) 

 

 ニュータウンで住民の高齢化が進み、「オールドタウン」とやゆされる事例は全国で後を絶たない。人口減少で商店やスーパーが消え、高齢の住民が移動販売で命をつなぐ過疎地さながらの光景も珍しくなくなった。人口減少時代の行き着く先が今のニュータウンなのかもしれない。 

 

 関西でも大半のニュータウンが住民の減少に頭を痛めているが、例外もある。大阪府吹田市と豊中市にまたがる千里ニュータウンだ。国内で最初に着手された大規模ニュータウンで、千里丘陵約1160haに計画人口15万人を目指して1962(昭和37)年に街開きした。 

 

 1975年に約13万人いた人口は、2000(平成12)年に10万人、2005年に9万人を割った。そこで2010年代にファミリー向けの分譲マンションを7000戸以上建設し、2020年に10万人台を回復した。治安がよいといわれてきた北摂のイメージと、大阪市北区の梅田地区に直通する鉄道の存在が子育て層を後押ししたと考えられている。 

 

 京都市の不動産会社は 

 

「洛西ニュータウンの目指す方向は千里ニュータウンと同じだろうが、今の若者は職住近接(職場と住居を近接させるライフスタイル)を好み、駅近の物件に集まる。地下鉄が来なかったことがハンディになる」 

 

とみている。洛西ニュータウン内の南福西公園では2月上旬、洛西高校の生徒たちが遊具のペンキ塗り替え作業に汗を流していた。西京区洛西支所は 

 

「地域を挙げてニュータウンを盛り上げ、再生したい」 

 

と意気込んでいる。ピンチの洛西ニュータウンを救う妙案は浮かぶのだろうか。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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