( 145808 ) 2024/03/05 12:50:13 0 00 古賀茂明氏
2月18日、アメリカのテレビ局ABCのニュース番組「This Week」で、アンカーのジョナサン・カール氏が、今一番ホットなラディオパーソナリティのシャラメイン(シャルルマーニュ)・ザ・ゴッドことレナード・マッケルビー氏に単独インタビューしたことが話題になった。
【写真】いま手腕が問われている野党の党首はこの人
シャラメイン氏は、自分の番組にポップスター、スポーツ選手、著名な政治家らを呼んでインタビューするカリスマ・パーソナリティだ。彼の率直な質問や歯に衣着せぬ物言いに視聴者は惹きつけられる。一般国民に大きな影響力を持つ彼が米大統領選キャンペーンの状況をどのように見ているかについて、非常に明確に語ったのだから、注目を集めるのは当然だ。
彼は、今回の大統領選を臆病者と詐欺師と無気力な人間のレースに例えた。(英語では、「cowards」「crooks」「couch」という言葉だった。couchというのは「couch potato」のことなのだろう)
彼は、共和党を「詐欺師」だと切って捨て、返す刀で、民主党を何に対しても本気で戦わない「臆病者」だと批判した。さらに危機にあるにもかかわらず何もしない有権者を「無気力」な人々と呼びつつ、今回のレースではその「無気力」な人々が勝利するのではないかと悲観的な見方を示した。絶妙な例えではないか。
彼は、ジョー・バイデン大統領を鋭く批判することで知られている。バイデン氏には主人公としてのエネルギーがなく、カマラ・ハリス副大統領の方が、よりカリスマ性があるとして、バイデン氏は他の候補者に道を譲るべきだとまで述べた。
一方で彼は、バイデン氏がドナルド・トランプ氏に負けるのは恐ろしいことだと述べた。つまり、バイデンも酷いがトランプはもっと酷いという意味だ。
なぜなら、トランプ氏は大統領として、2021年1月6日に「クーデター」を扇動したからだという。トランプ再選なら米国はさらに悪くなるだろうと予言もした。
彼によれば、トランプ氏が勝てば、民主主義が失われることは分かっているが、民主党にはその危機感が足りない。バイデン氏が負けそうなのに、バイデン氏以外の候補に差し替えようとしないことを批判した。
では、他に候補はいるのかということについて、彼は、ハリス副大統領、カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム、ペンシルベニア州知事ジョシュ・シャピロ各氏をバイデン氏よりも人々を駆り立て、バイデン氏よりもカリスマ性があると持ち上げた。(ちなみに、最近、ミシェル・オバマ元大統領夫人を民主党の大統領候補にという話も取り沙汰されるが、今のところ、その可能性は極めて低い)
ハリス副大統領は、民主党支持者の中でも期待外れだったという人が多いのに、彼がそこまで褒めるのは、とにかくバイデン氏で負けることは何とか避けたいと思っているからだ。民主党に候補差し替えをする覚悟、必死さが欲しいということだろう。
さて、この話を聞いて、日本に当てはめて考えた読者も多いのではないか。
裏金問題で屋台骨が揺らぐ自民党は、まさに「詐欺師」であることがはっきりした。その自民党に代わって政権交代を狙うべき立憲民主党はと言えば、裏金問題では戦う姿勢を見せているものの、予算成立が遅れれば能登半島対策が滞るという批判が怖くて、どこまで予算審議を遅らせるか迷っていた。
その結果、政治倫理審査会に岸田文雄首相が出席すると言われて、そこで開催に同意してしまった。立憲は引き続き自民党批判を続けるだろうが、腰砕けのままでは、自民党に足元を見られ、結局、裏金問題追及はのらりくらりとかわされて中途半端なまま終わりということになりそうだ。
本来、立憲は、自民党の萩生田光一前政調会長や二階俊博元幹事長らが政倫審に出席するまで予算審議を止めて戦うべきだった。能登半島予算を組み込むことを暫定予算案審議で提案すれば誰も反対などしないから問題は起きないはずだった。
しかし、立憲の国会対策委員会は自民党の国対との裏取引(おそらく、予算の衆議院通過と引き換えに野党に花を持たせる演出をする約束)で妥協したのだと思われる。
こうした対応を見れば、政治資金規正法改正案で立憲が妥協する可能性も高いと言わざるを得ない。先々週のコラムで述べたとおり、各党の中で最も進んだ改革案を提示しているのが立憲だ。日本維新の会もついて来られないほどの案である。
だが、自民党は、まさにそこを突いてくるだろう。野党の中でもまとまった案がないのでは話にならないなどと牽制球を投げてくるはずだ。そこで維新が立憲を批判する。全く妥協しないのでは民主主義は成り立たないなどという話になるのだ。
そのとき、立憲が、法案成立を止めても最後まで戦うことができるかというと、かなり怪しい。立憲若手の中にも、幹部が妥協するに違いないと予測する議員がいる。
だが、国民の怒りは中途半端な改革案では収まらない。下手な妥協をすれば、野党も共犯ということになり、政権交代を望む声は水をかけられることになるだろう。
結局「臆病者」の立憲ということになってしまう可能性大なのだ。
立憲が「臆病者」という点については、筆者は以前から懸念を有していた。
例えば、台湾有事において、日本は米軍に基地を使わせるべきではないということをはっきり言えない。米軍は、沖縄の基地を使えなければ中国とは戦えないことは米側のシミュレーションでも明らかになっている。従って、日本が基地を使わせないと言えば、自動的に台湾有事は起きない。
そのことを立憲首脳陣の一人に話すと、こんな反応が返ってきた。
「古賀さんの言うことはよくわかります。でも、もしそんなことを言ったら、『台湾を見捨てるのか』とか『沖縄が危ないのに何を考えているのか』などという批判で炎上するのは明らかです。だから、なかなか難しいんですよ」
「正しいと思うことなら、すぐに国民が納得しなくても、なんとか説得しようと試みるのが政治家の責任ではないんですか」と返したが、「そうなんですけどね」と力無く頷くだけだった。
今や、日本の民主主義、平和主義の危機である。経済も株価上昇で浮かれる向きもあるが、その内実をみれば崖っぷちだ。戦えない立憲は、これらの複合危機に対する危機感が全く不足しているとしか思えない。米国の民主党と似ている。
では、我々国民はどうだろうか。今は裏金問題で大騒ぎしているように見えるが、その割に検察や国税庁や官邸に怒った国民が押し寄せるというようなことは全く起きない。小規模なデモなどは行われているが、3.11の後の反原発のデモや集団的自衛権を容認するいわゆる安保法制が成立するときの大規模デモとは比較にならない。岸田政権から見れば、全く怖さを感じないだろう。
デモをしてもどうせ何も起こらないと諦めているか、それ以前に関心がないのか。まさに「無気力」と言われても仕方ない。
では、日本でも、詐欺師と臆病者と無気力な人々の戦いになったとき、誰が勝つのか。
これだけ酷い裏金問題があるのだから、普通に考えれば、野党が勝つのではと思いたくなる。しかし、自民党の支持率がいくら下がっても、立憲や維新の支持率は概ね1桁で、しかも両党は選挙協力できる見通しがない。
このままでは、多くの国民は無気力なままで、投票率は下がる可能性すらある。そうなれば、自民党が議席こそ減らすものの、そこそこの議席を取って事実上の勝利ということになるかもしれない。岸田自民の思う壺だ。
政権交代が起きなければ、どうあがいても、本物の政治改革はできない。自民党の利権政治により失われた30年、というより「悪夢の30年」は、さらに長引き、日本の危機は最終段階を迎えるかもしれない。
経済がまだ好調を保つアメリカよりも状況は悪いのではないだろうか。
では野党第一党の立憲はどうすれば良いのか。シャラメイン氏の言になぞらえれば、臆病者の立憲の泉健太代表にカリスマ性がなく人々を動かす力がないのなら、他の人に交代せよということになりそうだ。
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