( 147381 ) 2024/03/09 14:14:52 1 00 2024年3月16日に行われるJRグループのダイヤ改正では、北陸新幹線の金沢~敦賀間延伸開業が最大のトピックである。 |
( 147383 ) 2024/03/09 14:14:52 0 00 北陸新幹線開業でJR3社の意向は?
JRグループが2024年3月16日にダイヤ改正を実施する。
JRグループのダイヤ改正は、相互直通運転を実施する相手先の鉄道や、JR線と乗り継ぎ可能な大手私鉄やローカル私鉄まで及ぶ。そのため「JRグループのダイヤ改正」は「日本の鉄道のダイヤ改正」ともいえる。
【画像】北陸新幹線、サンダーバード、東海道新幹線を見る
今回の大きなトピックは「北陸新幹線金沢~敦賀間延伸開業」だ。
北陸新幹線は、1997年に東京~長野間が開業した。当時は北陸まで到達していなかったから「長野新幹線」と呼ばれた。15年に長野~金沢間が開業し、ついに福井県敦賀まで到達する。福井県にとって待望の「東京直通新幹線列車」だ。
東京から福井、敦賀へ行く場合の所要時間を現行ダイヤと比較してみよう。そうはいっても、最短所要時間で乗り継げる時間帯が異なるので、最速列車同士の比較は参考程度だ。実際には乗りたい時間、到着したい時間、運賃+特急料金の比較になる。
東京~福井間の北陸新幹線で最速列車「かがやき」は所要時間が2時間51分。従来の北陸新幹線を金沢で乗り継ぎ、在来線特急を利用するルートは最速で3時間27分だから、約36分の短縮になる。東海道新幹線を米原で乗り継ぐルートは最速で3時間20分となっていて、約29分の短縮だ。運賃+特急料金は全区間北陸新幹線の場合は1万6010円。金沢乗り継ぎが1万6340円。米原乗り継ぎが1万5130円。
東京~福井間は、いままで時間帯によっては東海道新幹線経由のほうが早かった。JR東日本対JR東海の構図だ。しかし3月16日からは、北陸新幹線経由のほうが早い。乗り継ぎなしで行けるところも強みだろう。鉄道・運輸機構に「乗り継ぎ1回の精神的負担は30分の所要時間増に相当する」という報告書がある。これからは“精神科的に”1時間も短縮される。
東京~敦賀間の北陸新幹線で最速列車のかがやきは所要時間が3時間8分。従来の北陸新幹線を金沢で乗り継ぎ、在来線特急を利用するルートは最速3時間58分だから、約50分の短縮になる。東海道新幹線を米原で乗り継ぐルートは最速で2時間45分で、約23分の増加となる。運賃+特急料金は全区間北陸新幹線で1万6360円。金沢乗り継ぎが1万7550円。米原乗り継ぎが1万4030円。
東京~敦賀間は、北陸新幹線が延伸開業しても東海道新幹線経由のほうが早い。ただし2時間45分は2回の乗り継ぎがある。東京から「のぞみ」、名古屋で「ひかり」に、米原で「しらさぎ」に乗り継ぐ。しらさぎは名古屋発の便があるが、名古屋でしらさぎに乗り継いだ場合の所要時間は、最速で2時間51分となる。北陸新幹線との所要時間差は9分だ。
東京と福井を結ぶ鉄道ルートは、JR東海が所要時間と運賃で有利だった。これからはJR東日本が所要時間で優位となる。東京~敦賀間は所要時間、運賃ともJR東海に軍配が上がる。JR東日本とJR西日本は「東京~福井・敦賀、乗り継ぎなし」をアピールすることになる。福井県にとっては観光誘客のチャンスだ。
もっともJR東海は東名阪の太い需要を抱えており、東京~福井のルートでJR東日本と真剣勝負するつもりはないだろう。現状のままでも有利だからだ。何か仕掛けるとすれば、名古屋途中下車プランの旅行商品や、得意の「推し旅ツアー」で米原、長浜を取り込むくらいか。
京阪神から見て、北陸方面はどうなるか。新大阪~敦賀は北陸新幹線とは関係ない。新大阪~福井、金沢、富山を比較しよう。
新大阪~福井間は、特急「サンダーバード」に乗り、敦賀で北陸新幹線に乗り継ぐ。所要時間は最短で1時間40分。従来のサンダーバード直行便の最短所要時間は1時間43分。運賃は敦賀乗り継ぎで7290円。サンダーバード直行便は6140円。所要時間は3分しか短縮できず、運賃は1150円も高くなり、エスカレーター2本分の移動が発生する。いささか理不尽である。
新大阪~金沢間もサンダーバードに乗り、敦賀で北陸新幹線に乗り継ぐ。所要時間は最短で2時間5分。これは敦賀駅で8分の乗り換え時間になった場合だ。私が体験乗車で試したときは5分を切る程度だった。ギリギリだ。従来のサンダーバード直行便は2時間27分。運賃は敦賀乗り継ぎで9410円。サンダーバード直行便は7790円。所要時間は22分短縮で、運賃は1620円も高い。敦賀乗り継ぎは2時間20分前後が多く、サンダーバード直行も2時間40分が多い。所要時間の差はだいたい20分程度。運賃+料金の1620円の差は妥当だろうか。割引きっぷがほしいところだ。
沿線自治体からは「サンダーバードの福井乗り入れ、金沢乗り入れ継続を」という要望はあったけれども、聞き入れられなかった。これは、JRとしては新幹線に乗ってもらいたいし、平行在来線を経営分離するという建前もある。平行在来線側としても、JRの特急を受け入れた場合に車両使用料を払う必要があり、それに見合った乗客数が得られるかが未知数。さらにJR貨物の列車が通過する路線では、列車の運行本数の比率で線路維持費を案分するため、余計な列車を走らせたくない。
しかし福井県の平行在来線会社「ハピラインふくい」の時刻表には、快速列車が設定されており、敦賀~福井間で朝は2往復、夕夜間2.5往復だ。運行本数が少ないとはいえ停車駅がサンダーバードとほぼ同じ。通勤通学用と思われるけれども、福井駅18時47分発のハピライン福井快速に乗ると、敦賀でサンダーバード44号に乗り継ぎ可能で、所要時間は2時間9分。運賃+料金は5840円だ。北陸新幹線利用と同じくらいの所要時間で安い。
福井~敦賀間は北陸新幹線で約15分。ハピライン各駅停車で約50分。快速で38分。日中の快速を特急サンダーバードやしらさぎに接続してもっと増やしても良さそうだ。
新幹線は計画通りに全線開通させないと、「新幹線ができたせいで乗り継ぎが発生し運賃が上がる」という現象が起きる。15年の北陸新幹線の長野~金沢間開業で、富山~京阪神間の利用者が影響を受けた。今回は乗り継ぎ駅が金沢から敦賀に変わる。新大阪~富山間は敦賀乗り継ぎで最短2時間32分。運賃+料金1万290円。金沢乗り継ぎは3時間2分。運賃+料金は9590円。30分短縮されて700円高くなる。これは改善効果が高いといえる。金沢乗り換えでは不満もあっただろうけれども、少し気が晴れたかもしれない。
金沢乗り換えが発生して、京阪神と富山県の人々の往来に影響があっただろうか。資料を探したけれども、京阪神~富山県で影響があったというデータを見つけられなかった。そもそも京阪神~富山県の鉄道利用者数の統計データが見当たらない。JR西日本が公開する北陸新幹線の利用者数データは上越妙高~糸魚川間の調査結果だった。これでは富山周辺の変化は分からない。
手がかりとして、JR西日本のダイヤ改正の履歴を探した。
北陸新幹線の金沢延伸開業後となる16年は、サンダーバードを1往復増発していて、北陸方面の手堅い需要を感じさせる。しかし北陸新幹線の乗り換えの受け皿となる特急「つるぎ」の増発はない。逆に減便もないので乗客減はなく、北陸新幹線の列車供給量に余裕がある。
17年のダイヤ改正は、金沢から東京方面の夕刻の運行間隔を見直し、金沢駅のサンダーバードとかがやきの乗り換え時間を短縮した。北陸新幹線によって関西から信州への観光需要が増え始めた頃だ。
18年は京阪神と北陸方面に関する変更はなし。
19年は北陸新幹線に上野発の臨時列車としてかがやきを1本設定し、サンダーバードを1往復増発した。京阪神~北陸間の需要は厚い。
20年は京阪神~北陸新幹線に変化なし。ダイヤ改正日は3月14日で、この前日に新型コロナウイルス対策の特別措置法が成立した。新型コロナウイルス感染拡大の懸念が広がり、いわゆるコロナ禍が始まる。4月7日に東京、大阪などで緊急事態宣言が発出された。
21年のダイヤ改正はかがやきと「はくたか」の所要時間が短縮された。上野~大宮間の最高速度が引き上げられたためだ。しかし、つるぎの一部は臨時列車化した。これは京阪神~富山に限らず、ほかの線区も含めて減便傾向になっている。これ以降のダイヤ改正は新型コロナウイルス感染拡大を懸念した減便が続き、参考にならない。
経済関係のデータをはじめ出生率まで数字を見たけれど、コロナ禍前はおおむね「東京圏と直結したことで観光も経済も上向き。首都圏への人口流出も多かったけれど、経済が活況のため出生率が増えている」という印象だ。金沢延伸前では、メディアも「いままでサンダーバードは乗り換えなしだったのに、富山は不便で高くなる」という論調が多かったけれど、金沢延伸開業後は「京阪神~富山間」が不便になり影響があったという話を聞かない。首都圏直結効果が大きくて、京阪神向けの話題がほとんどない。
つまり京阪神~北陸間は、乗り継ぎが不便でも割高になっても新幹線が選ばれる。仕事で乗る人は経費だし、帰省や旅行で乗る人はめったにない出費である。「バースデーケーキが2割値上がりしてもやっぱり買う」に近い消費者心理ではないか。
各駅停車や高速バスを利用すれば、運賃は安いけど所要時間は数時間増える。むしろJR西日本はもっと値上げしても構わなかったわけで、この金額で抑えてくれて良心的というべきか。いや違う。この状態は、乗客の貴重な時間を人質に取って、割高な料金を払わせるようなものだ。このひねくれた状態を解消するために、なるべく早く北陸新幹線を敦賀から新大阪まで延伸してほしい。
(杉山淳一)
ITmedia ビジネスオンライン
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