( 147406 ) 2024/03/09 14:43:04 1 00 日経平均株価が一時4万円を突破したが、ある筆者は「株価はどうでもいい」と述べている。 |
( 147408 ) 2024/03/09 14:43:04 0 00 日経平均はついに一時4万円を突破した。だが筆者によれば「株価など、どうでもよい」という。一見、乱暴な話に聞こえるが、どういうことなのだろうか(撮影:梅谷秀司)
日経平均株価が平成バブル時の最高値3万8915円を約34年ぶりに超え、あっという間に一時4万円を突破した。次はどこまで行くか。経済誌だけでなく、新聞、テレビ、ラジオ、一般の週刊誌、ワイドショーまで、株価、バブル、株価、バブル、株価、と同じことばかり聞かれて、本当にうんざりだ。
株価なんてどうでもいいのだ。バブルかどうかなんてどっちでもいいのだ。
いや、本当はどうでもよくないが、バブルであることは全員知っていて、はっきり言うか、言えない立場か、どっちかにすぎないだけなのだが、しかし、それもどうでもいい。
大事なことは何か。われわれは、バブルで何を失ったのか、これから何かを失うのか。そこだ。
■そもそもバブルはなぜ悪いのか
そもそも、なぜバブルは悪いのか。バブルに関係なかった人々、関心なかった人々、そして賢明に踊らなかった人々、すべてに迷惑をかけるからだ。社会に迷惑をかけるからだ。そして、社会を壊し、社会が長年正常に戻れなくなるからだ。だから、バブルは相当悪者だ。
バブルが社会を壊すメカニズムはどのようなものか。順を追って説明しよう。
まず第1に、学問の世界でもコンセンサスが確立しているバブルが経済を壊すルートは、銀行システムを毀損し、場合によっては破壊することだ。
株式バブルが、株式市場を壊すことはどうでもよい。それはいわば自業自得というだけでなく、株式市場を再建すれば済むことだからだ。株式市場の話として完結する。余波はない。
一方、銀行システムはそうはいかない。もともと、銀行という仕組みは、脆弱である。取り付け騒ぎが起きうる構造になっているし、1つの銀行の破綻が多数の銀行の破綻を呼び、システムが崩壊する。
銀行は、金融市場内部ではなく、金融のインフラであり、経済のインフラである。したがって、金融市場だけでなく、実体経済をも破綻させる。だから、銀行を巻き込むバブル崩壊は罪深く、重大犯罪なのだ。
例えば、バブル研究家としても有名なプリンストン大学教授のマーカス・ブルネルマイヤー教授によるバブルの分類でも、銀行システムが巻き込まれているかどうかで、金融バブルの性格は大きく異なるとされている。
■重要なのは「警察」なのか「消防署」なのか
また、歴史的に、経済学者の間では金融バブルへの対処法として、アメリカの中央銀行であるFEDの見解と、スイスに本部があるBIS(国際決済銀行)の見解が対立していた。
つまり、前者は、バブルは事前には判定が難しく、また事後に(バブル崩壊後に)適切な金融政策を行えば(要は大胆な緩和を続ければ)、被害は広がらずに済む、という考え方をとる。
後者はまったく正反対で、バブルはバブル膨張の最中にある程度判断が可能であり、膨張をさせないか、最小限に食い止めることが、金融バブルによる被害を実体経済に広げないために重要であり、事前の監視と抑止が重要だ、という考え方をとる。
前者が“消防署”で後者が“警察署”という比喩もある。火事を消すのが重要か、火事を起こさないのが重要か、ということである。
前者では、経済学者のミルトン・フリードマン氏が「1929年の大恐慌の被害があれほど大きくなったのは、金融バブル崩壊自体ではなく、中央銀行が金融緩和のあと、引き締めに転じたのが早すぎたからだ」と主張した。また、FRB(連邦準備制度理事会)元議長のベン・バーナンキ氏が行った大恐慌の研究においても、その系統の議論が強調された。
この見方が21世紀初頭に支持を増やしたのは、テックバブル(ITバブル)が2000年に崩壊したあとだ。このときはバブルが崩壊しても、事後の実体経済への影響が小さかったことから(アマゾンなどの「ドットコムバブル」による株価上昇はすさまじかったにもかかわらず)、「バブルが崩壊したあとの適切な処理さえ行えばよい」という主張が力を得た。
後者は、伝統的には見識のある主流派である。チャールズ・キンドルバーガー氏を始め、多くの歴史家や経済史家によって支持され、ジョン・ケネス・ガルブレイズ氏もこの考え方だった。
以前「やっぱり今は金融危機への『黄信号』が灯っている」(2023年8月19日配信)でも言及した、ハーバード大学の行動ファイナンスプロジェクトのリーダーであるロビン・グルーンウッド教授の研究でも、この対比がなされている。
一般的な常識からすれば、後者のBISの見解がどう考えても自然であり、妥当(当たり前)に思える。だが、金融業界ではバブルで儲けたい人々が圧倒的多数派だ。そのため、現実の政策マーケットでもFEDの見解が2008年にリーマンショックが起きる前までは主流だったことの背景にあったと思われる。
■「銀行システムへの影響」がカギを握る
実際、2007年7月、アメリカのシティグループの最高経営責任者(CEO)だったチャック・プリンス氏は、金融業界の常識として、「音楽が鳴っているうちは、踊り続けなければならない」と述べた。リーマンショックを経て、現在では、かつてのFEDの見解をあからさまに主張する人はいなくなったが、金融業界の本音は今も変わっていない。
しかし、ここで重要なのは、BISの見解が正しいということよりも、「どちらの見解をとるにせよ、実体経済への悪影響が、バブルの罪として最大のものだと誰もが認めている」ということだ。
その意味で、実体経済への被害が少ないバブルであれば、バブルの中では「まし」なほうだ、ということである。そして、それは銀行システムへの影響がカギとなる、ということである。
これは、現在もリーマンショック時も、FEDが巨額の「国債などの資産の直接買い入れ」を行ったのは、銀行システムおよび金融市場を含む金融システムを守るためであり、株式市場そのものではなく、ましてや株価の下支えということではまったくない。
それにもかかわらず、欲望にまみれた市場関係者たちは「グリーンスパンプット」「バーナンキプット」などという言葉を臆面もなく使い、相場が下落したときに効果を発揮するプットプションのように、中央銀行が金融緩和策で助けてくれると期待した。
また最も鈍感な人々は、何の疑問も持たずに、中央銀行の金融政策は株価対策のためにあると思い込んでいたし、今もそう思っている人は少なくない。だが、FEDは株価の暴落など気にしない。
確かに、下落が景気に与える影響については考慮に入れる。ただし、あくまでインフレファイターがメインの役割だと思っているし、その基準で行動している。
さて、銀行システムへのダメージというのがバブルの最大の悪影響であることは学会のコンセンサスであるが、日本の1980年代のバブルが1990年代の日本経済を破壊した例を思い出せば、一目瞭然である。
不動産バブル崩壊で銀行の資本が毀損し、銀行はバランスシートの修復を迫られた。そこで彼らは、貸しはがし、貸し渋りを行った。つまり、新規の不動産関連融資などはもちろん全面停止だが、それだけでなく、不動産とも、さらにはいかなるバブル的な活動とも無関係の融資先や地道に仕事をしていた町工場、中小企業にも行った。バブル崩壊のダメージは健全な業種へも幅広く波及した。
さらに皮肉なことに、バブル的な活動を行っていた企業には追い貸しを行った。つまり、バブル的活動により損失が膨らんだ企業から融資を引き上げることをせず、むしろ追加的に融資したのである。
典型的なのがゼネコンだった。融資を引き上げてしまうと、大企業であるゼネコンが倒産してしまい、すべての融資が損失になってしまう。そして、もっと手前の不良債権も、不良債権であることが明確になってしまうと、全額を引き当てなければならない。そうすると今度は、銀行自身が債務超過になり破綻してしまうリスクがあるから、不良融資先の不良債権を不良化させないために、追加融資を行ったのである。
バブルにまみれた企業は追加で救済融資に恵まれ、バブルとまったく無関係な健全な町工場は貸しはがされて、倒産あるいは廃業を迫られたのである。これが、あまりに理不尽なバブルの悪影響である。
■バブルは30年をかけて日本経済をとことん破壊した
しかし、今回のコラムのメインの主張はその先にある。
日本経済は、1990年代が「失われた10年」といわれ、その後も経済の停滞が続いたとされ、2000年代も2010年代もだめで、「失われた30年」と呼ぶ人も多い。
だが実際にはこれは誤りで、2000年以降、景気はよくなったり、悪くなったりし、つまり普通に景気循環があり、欧米よりもインフレ率が低かった以外は普通だった。人口減少、とりわけ労働力人口の減少が大きかったことをかんがみれば、経済成長率はアメリカ以外の先進国の中では普通、生産年齢人口1人当たりで見れば最優秀の部類だった。
しかし、確かに、日本経済は30年間という時間を失った。30年かけて、すばらしかった日本経済と日本社会を破壊し続けてきたのである。そして、それはすべてバブルのせいなのである。
どういうことか。まず、そもそも「本当の」失われた30年(正確に言えば、日本経済をだめにした30年)とは、1980年代半ばに始まる。つまり、バブル絶頂期である。これが日本経済をとことん破壊した。
日本は世界最強の経済を謳歌していた。欧米諸国が2度のオイルショックに苦しみ、インフレーション、スタグフレーションに苦しみ、高い失業率、永遠に停滞するかに見えた株式市場で、陰鬱な経済社会となっていたのに対し、日本経済は世界一の品質の製品を誇り、省エネでエネルギー危機を乗り切り、インフレのコントロールにも成功し、労使関係は良好、世界一の経済であり、将来性も世界一に見えた。完璧だったのである。
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