( 147638 ) 2024/03/10 13:00:44 0 00 婚活市場で人気の男性を射止めた38歳女性。そこには納得の理由がありました(イラスト:堀江篤史)
「35歳ぐらいからずっと婚活をしていたけれどなかなかうまくいかず、大宮さんの連載を読んで『こういう成婚ケースもあるんだな』と励まされていたんです。勇気を出して(連載の取材先として)応募することにしました。私みたいな者でもようやく結婚できたので、独身で婚活中の方の勇気づけになれば幸いです」
謙虚な応募理由を話してくれるのは銀行員の田島涼子さん(仮名、45歳)。首都圏で夫の達也さん(仮名、48歳)と2歳の息子と3人で暮らしている。子どもが生まれてから1年間ほどは体調が優れずにイライラしていたが、ようやく穏やかに過ごせているという。苦労の多かった婚活と不妊治療について、今なら明るく振り返られると感じての応募だ。
人付き合いが苦手だと自覚している涼子さん。国立大学の理系学部に在籍していた頃は周囲の男性から「ちやほやされた」記憶もあるが、ずっと一緒にいたいとは思えなかった。恋人がいた経験はないが、「そのうち結婚するのだろう」と思い続けていた。
「20代後半のときに銀行に転職しました。働きやすい職場でとてもラッキーだったと思っていますが、同年代の男性は既婚者ばかり。好きな人すらできずに30歳を過ぎてしまいました」
瞬発力が求められる合コンや婚活パーティーではまったく成果が出ず、焦燥感に駆られて大手の結婚相談所に登録したのが38歳のとき。倹約家の涼子さんは「一番安いプラン」を選択した。
入会金は3万円で月会費は1万円。お見合い料や成婚料はゼロ。担当カウンセラーはプロフィールを作成してくれるだけでフォローやアドバイスはほとんどしない。危険度の低いマッチングアプリのようなものだ。男性経験のない涼子さんに向いている婚活手段とは言えない。案の定と言うべきか、涼子さんは「成婚退会をした相手から突然フラれる」という手痛い経験をしている。
相手は1歳年上の物静かな公務員だった。お見合いから3回目で真剣交際を申し込まれ、条件的には問題ないので受諾すると、すぐに「親に話した。会わせたい」と言われた。とにかく結婚を急いでいる様子で、涼子さんは気持ちがまったく追いつかなかった。
「私は自己開示も下手なので、こういう家庭を築きたいといった会話もしないまま結婚話が進んでしまいました。不妊治療をがんばってでも子どもを授かりたいと思っていたのに、相手からは『子どもは欲しくない』と後になってから言われて……。結婚へのテンポも価値観も合わない、と私以上に相手が感じていたのだと思います。理由を告げられないまま急にフラれてしまいました」
そのショックで半年ほどは婚活を休んだ涼子さん。元気を取り戻してから、同じ結婚相談所に復帰した。前回の反省を踏まえて、攻める姿勢を身に付けていたようだ。相談所に新しく入った男性に狙いを定め、達也さんを見つけてお見合いを申し込んだ。
涼子さんが結婚相手に求める条件は、「年収は自分と同じく500万円程度。身長は170センチ以上で太っていない人。自分が今の会社で働き続けられる範囲で一緒に住めること」。身長175センチのITエンジニアで、ボクシングで体を鍛えている年収600万円の達也さんはど真ん中の男性だったのだ。
「会ってみたら、話し方もゆったりしていてとても居心地が良かったです。友だちと会っていても2時間ぐらいで切り上げたくなる私が、いつまでも一緒にいられると思いました。私は常にセカセカしているので、自分にないものを彼が持っていると感じたのかもしれません」
有頂天になった涼子さんは、お見合いから3回目のデートで結婚を見据えた真剣交際に入ることを達也さんに迫った。前の相手に自分が急かされて戸惑ったのを忘れたのだろうか。同世代女性からのアプローチが殺到していた達也さんは「まだ判断できないので交際中止にします」との答え。2人の縁が切れかかってしまった。
ここで涼子さんは粘り腰を見せる。達也さんとはすでにLINEでもつながっていたので、しばらく時間を置いてから結婚相談所のシステムは使わずに再び連絡。もう一度会う約束をとりつけ、ちゃんと付き合いたいと思っている理由を伝えた。
「相談所のルール違反なので、担当のカウンセラーさんからは叱られました」
さきほどから少しぼんやりとした雰囲気で涼子さんの隣に座っている達也さんはどのように感じていたのだろうか。聞けば、大事な物事は時間をかけてよく考えてから決めたいタイプのようだ。
「涼子さんには最初から好印象を持っていました。でも、たくさんの女性とお見合いしなければならず、ボクシングの練習や試合もあって、平日の夜や毎週末の予定がパンパンに。とにかく時間が欲しかったです。他の女性とも会い、涼子さんは時間をかけても嫌なところが見えてこなかったことに気づきました。僕は、レスポンスが遅すぎたりするのが嫌です。年収は400万円以上の女性だとそういう感覚が似ていて、ちゃんと会話ができると感じました」
大学を出てから転職を2回経験し、現在はIT企業に勤続18年の達也さん。「誰かと一緒に穏やかに暮らしたい」と思いながらも、ボクシングに打ち込んでいたこともあり、恋愛や結婚は後回しになっていた。しっかり者の涼子さんに見つけてもらって正解だったのかもしれない。
結婚して9カ月後には不妊治療を開始して、4つめのクリニックで妊娠に成功。かかった費用は合計300万円以上。涼子さんが長年貯めてきたお金で賄った。現在の住居も涼子さんがキャッシュで買った分譲マンションである。
「都心は無理なので私は職場まで片道1時間ほど通勤にかかります。夫は2時間弱です。もっと都会に住みたいと言われていますけど」
ただし、コロナ禍のおかげで在宅ワークが定着し、今は2人とも出勤は週1回程度。家族3人水入らずで過ごす時間が長い。
「家事の9割は私です。でも、夫も買い物などはやってくれます。以前は私がイライラしてよくケンカしていましたが、今はほとんどしません。夫が息子を可愛がってくれているのを見るとすごく幸せな気持ちになります」
それぞれの銀行口座も「マネーフォワードで見える化」しているという涼子さん。外食好きの達也さんのお金の動きもチェックして、「あれ~、2000円のお寿司ランチに行ったんだ。いいな~」などと指摘。達也さんも自然とお金を使わなくなったという。
「何でも話せる夫がいてすごく楽しい生活です。といっても、私が勝手に話しているだけで夫は聞いているのかどうかよくわかりませんけど(笑)。子どもが生まれてからは幸せがさらに100倍になりました。子どもとずっと一緒にいたいので、親に預けて遊びに行きたいとも思いません。独身時代に合コンをしていた友だちとも会いたくないし、同窓会も遠慮したいぐらいです」
内向きの幸せを満喫している涼子さん。達也さんのほうは、「理想と現実は違います。妻がイライラしてきつい言葉を発したりするので。幸せの総量は独身時代と同じぐらいです」とクールな態度を崩さない。このへんも涼子さん好みなのかもしれない。
人付き合いが苦手だと自覚している涼子さん。やや自己中心的なところが垣間見えることもある。しかし、涼子さんのように遅めの結婚を見事に成就する人は多くない。自分が望むパートナーと生活を求めて、なりふり構わずに行動し続ける強さを彼女は持っているのだ。
大宮 冬洋 :ライター
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