( 147641 )  2024/03/10 13:07:24  
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EVの需要は踊り場にあり、HVやPHVに注目が集まっているが、2030年代にはEVが主流になると見られている。

日本ではEVが普及し、消費者の意識も変化している。

一方、EVの普及には金利や販売価格の上昇などの課題もあり、次の購入車での希望を見るとHVに関心が高いことがわかる。

さらに、EVの普及により新車ディーラーのビジネスモデルも変化し、家庭用電力機器やV2H(クルマから家への電力転送)の需要が増えている。

また、EV普及に向けて政策も後押ししており、将来はEV設備が標準化されることが期待されている。

(要約)

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EVのイメージ(画像:写真AC) 

 

 現在、電気自動車(EV)の需要は伸び悩み、踊り場を迎えている。その代わり、日本企業が得意とするハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に注目が集まっていることはいうまでもない。 

 

【画像】えっ…! これが60年前の「海老名SA」です(計16枚) 

 

 しかし、EVがこのままフェードアウトする――というわけではない。2030年代には、ガソリン車に代わって自動車の主流になるのはほぼ確実だろう。2023年4月の先進7か国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合で採択された共同声明は、 

 

「2035年までにG7保有シュア量からのCO2排出を少なくとも2000年比で共同で50%削減する」 

 

としている。EVは今後10年間でさらに普及すると予想されている。 

 

 筆者(川名美知太郎、EVライター)は昨年、当サイトに「EVの未来は明るい! 自動車ユーザー2万人調査でわかった、ネット“フルボッコ状態”とは異なる意外な結果とは」(2023年12月28日配信)を寄稿した。 

 

 そこでは経営コンサルティング業務を行うリブコンサルティング(東京都千代田区)が自動車ユーザーを対象に実施したウェブアンケートの結果から、日本でEVが日常生活を便利にする“道具”として受け入れられつつあることを論じた。消費者の意識の変化も、EVの普及を後押ししているのだ。再確認のためにも、アンケートの結果(八つの箇条書き)を再度貼る。 

 

・EVへの興味関心度は、興味あり・普通・興味なしでほぼ3分割 

・EVへの乗り換え意向度は、約半数はそもそも考えたこともないが、3割は乗り換え検討を考えている 

・EV関連の情報・知識は、走行音が静かや維持費が安いといった基礎情報以外は8割以上知られていない 

・EVについての印象は、ポジティブがネガティブを2倍近く上回っているものの、どちらでもないが約半数を占めている 

・EVについての情報を得られていないor今得る必要がないので判断がつかない人が多いと思われる 

・EVのメリットやEVを所有している人の声などの発信がまだまだ必要 

・エリア別では、大都市部の方がEVへの興味度合いが高く、EVへの印象もよい 

・年代別では、20代が興味度合いが高く、EVへの印象もよいが、50代が全般的に低い結果 

 

 アンケートは、全国47都道府県在住の20~60歳以下の男女の自動車所有者を対象に、インターネットを通じて実施された(2万2166人。バッテリー式電気自動車〈BEV〉ユーザーはうち303人)。EVに関する調査は過去にも数多く実施されているが、サンプル数の多さを考慮すると、動向把握に役立つだろう。 

 

 

次の購入車で希望するパワートレイン。「2024年グローバル自動車消費者調査」より(画像:デロイトトーマツ) 

 

 HVやPHVに再び注目が集まっていることからもわかるように、EVの普及率がこのまま順調に伸びていくとは思えない。金利や販売価格の上昇、成長を支えてきた補助金の終了など、複数の要因がEVシフトの淘汰(とうた)を引き起こしているからだ。 

 

 2月29日に発表された、デロイトトーマツの「2024年グローバル自動車消費者調査」によると、「次の購入車で希望するパワートレイン」は国別に次のようになっている。 

 

・米国:ガソリン/ディーゼル67%、HV16%、PHV5%、BEV6% 

・日本:ガソリン/ディーゼル34%、HV32%、PHV9%、BEV6% 

・中国:ガソリン/ディーゼル33%、HV18%、PHV13%、BEV33% 

・ドイツ:ガソリン/ディーゼル49%、HV10%、PHV11%、BEV13% 

 

 ガソリン車に対する需要は依然として強い。また、次世代車のなかでは、BEVよりも安価なHVへの関心が高まっているようだ。 

 

V2H(画像:パナソニック) 

 

 EVの普及によって最も大きく変わるのは、新車ディーラーのビジネスモデルだ。 

 

 日本自動車販売協会連合会の調査(1006社対象)によると、新車ディーラーの収入内訳は 

 

・販売:79%(新車66%、中古車13%) 

・サービス:19% 

・その他:1% 

 

だった。一方、粗利内訳は 

 

・販売:49%(新車35%、中古車14%) 

・サービス:50% 

・その他:1% 

 

であった。 

 

 収入の中心は販売であり、セットのサービスは限られていた。しかし、EVの普及によって、家庭用電力機器や太陽光発電など、EVとセットで販売できる商品の幅は大きく広がる。さらに、V2Hの販売も期待される。 

 

 V2Hとは「クルマ(Vehicle)から家(Home)へ」の略で、EVやPHVのバッテリーに蓄えた電力を家庭で使えるようにする装置だ。通常、EV充電設備は家庭用電力をEVに給電する装置であり、EVの電力を家庭に給電することはできないが、V2HによってEVの電力を家庭に給電することが可能になり、災害対策などが可能になる。 

 

 

ウェブドラマ『未来にまかせる君』(画像:日産自動車、積水ハウス) 

 

 ガソリン車からEVに乗り換える場合、ガレージに充電用の電源を設置しなければならない。しかし、太陽光発電やV2Hまで欲しがる消費者が本当にいるのかと疑問に思う人も多いだろう。 

 

 この需要は、カーボンニュートラルを目指す政策によって後押しされている。国内の自治体では、新築の建物に太陽光発電設備の設置を義務付けるところが増えている。 

 

 例えば、東京都は2025年4月以降、住宅を含む新築建物に太陽光発電設備の設置を義務付けることを決定した。つまり、これから建設される一戸建て住宅やマンションには、太陽光発電設備が設置されているのが当たり前になるのだ。 

 

 さらに、太陽光発電設備やV2Hの需要は新築物件に限らない。2024年1月には積水ハウスと日産自動車が協力し、ウェブドラマ『未来にまかせる君』をユーチューブなどで公開した。16分強の短い作品なので、ぜひご覧いただきたいが、ドラマ内では 

 

・人口減少によりガソリンスタンドが減少し、ガソリン車への給油が困難になる。 

・少子化による需要減で、物件の資産価値が下がる。 

 

など、さまざまな観点からEVの普及と既存建物にEV対応設備が不可欠になることを解説している。特に目を引くのは、劇中の次のような会話だ。 

 

「うちのマンション、なんて呼ばれているか知ってる?」 

「充電器なしマンションよ」 

 

 つまり、今後建設される物件はすべてEV設備が標準化される。その結果、EV設備のないマンションはかつての風呂なしアパートと同じ扱いになる。そのため、既存物件へのEV設備の増設は必須となる。自動車の買い替えを契機に、こうした設備が設置されることが大いに期待されるのだ。 

 

「YAMADA スマートハウス」のウェブサイト(画像:ヤマダホームズ) 

 

 こうした将来像を踏まえ、業界各社の動向はどうなっているのだろうか。いくつかの事例を紹介しよう。 

 

 三菱自動車は2024年1月、三菱自動車ファイナンスと共同で、EVやPHVに充電器やV2H機器などをワンパッケージ化したリースプランの提供を開始した。このワンストップ契約により、ユーザーの負担軽減と需要拡大が期待される。 

 

 ヤマダデンキを運営するヤマダホールディングスは、家電・住宅・自動車販売の融合を進めており、2023年10月から住宅とEVや太陽光発電設備などを組み合わせた「スマートハウス」を販売してる。子会社のヤマダホームズが販売する住宅には、日産自動車のEVや充電設備、太陽光発電設備などが標準装備されている。 

 

 価格帯は住宅のグレードに応じて約3000万円から4000万円までの価格帯で3タイプを用意する。ヤマダデンキも各社のEVを店頭で扱い始めた。 

 

 設備市場にも多くの企業が参入している。住宅設備を販売するリクシルは、住宅の外観に溶け込むデザインのEV充電器やEVコンセントポールの販売を開始した。また、シャープは2月、業界最軽量のEVコンバーターでV2H市場への参入を発表した。 

 

 こうした変化のなかで、自動車販売に注力してきた自動車ディーラーは、ライフスタイルそのものを提案するビジネスモデルにシフトしていくだろう。家電量販店など異業種との提携も進むかもしれない。自動車購入時の付帯商品として、車両保険以外に、火災保険などの保険商品や金融商品・サービスを販売することも可能になるはずだ。 

 

 需要が伸び悩み、HVやPHVが脚光を浴びているにもかかわらず、EVへの注目がなくならないのは、単に最新技術を採用しているからではなく、これまで想像もできなかったような産業間のコラボレーションの機会を提供するからだ。 

 

 EVが普及する時代には、社会はどのようになっているのだろうか。 

 

川名美知太郎(EVライター) 

 

 

 
 

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