( 148037 )  2024/03/11 14:55:53  
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日経平均株価が4万円を突破したが、これは喜ばしいことではないと指摘されている。

なぜなら、日本企業の多くが海外市場に依存しており、円安の恩恵を受けているため、国内経済の活性化に直結していないからだ。

また、株価の形成や投資にも海外依存があり、日本経済の規模が過去に比べて縮小していることが指摘されている。

株価が過去最高値であることに喜ぶのではなく、今後の展望について慎重に考える必要があるとしている。

(要約)

( 148039 )  2024/03/11 14:55:53  
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日経平均株価の4万円突破は、それ自体を喜ぶことではない(森田直樹/アフロ) 

 

 3月4日の東京株式市場で、日経平均株価は史上初の4万円台を乗せた。その後は、米国市場の下げに引きずられて4万円を割り込んだが、6日になると、再び終値では4万90円と4万円台に戻した。とにかく、34年にわたって回復できていなかった1989年12月29日の20世紀の最高値(3万8915円87銭)を更新し、当時は届きそうで届かなった4万円台が実現したのである。 

 

 このニュース、久々の明るい話題として報じられており、岸田文雄首相などは「日本経済に勢いが出てきた」などと〝はしゃいで〟いるが、冗談ではないと思う。この話題自体、現時点で喜んではいけない。何が問題なのか、今回は、3点にわたって議論してみようと思う。 

 

 1つ目は、今回の株高は日本国内の経済が好調であることを反映したものではないということだ。まず、自動車産業に代表される日本発の多国籍企業の多くは、極端なまでの空洞化を進めている。 

 

 空洞化とは、まず売上の海外比率が8割とか9割という海外市場への依存があり、また徹底した現地生産化のために最終組立もほとんどが海外となっている。自動車の場合は、その結果としてデザインも国外で開発するし、自動運転車(AV)、電気自動車(EV)などの開発もテック人材の豊富な海外で行う場合がある。 

 

 いわゆる総合商社にも似た構図がある。かつては輸出入のノウハウを一手に引き受けて、国内企業と国際市場を仲介して日本の国内総生産(GDP)に貢献していた商社だが、現在は違う。世界に広がるさまざまな投資案件を管理する、いわば業界別に深く関与するタイプの投資ファンドの集合体となっているのだ。したがって、その業績は海外の景気動向に依存している。 

 

 このように極端に海外依存体質を持つ日本発の多国籍企業は、現在の円安の利益を享受している。それは、円安が国内のコストを下げて、外貨建ての売上を大きくするといった、かつての「世界の工場」であった日本経済の構造とは異なる。 

 

 海外で発生した売上利益が「円安のために膨張して見えるだけ」ということだ。多くの企業が「史上空前の好決算」だとしている一方で、国内の賃金は上がらず、非正規労働が減らないのにはこのためだ。 

 

 

 また、そもそも日本国内での旺盛な設備投資需要がない中では、海外で得た利益は海外に再投資されるのであり、国内への還流は限られる。昔はそれでも、日本で採用された人材が、世界各国に駐在して現地法人の経営を行っていたが、現在は「現地人材に任せる」のが主流となっており、荒稼ぎをする海外駐在員というのもいなくなった。 

 

 つまり、日本株を構成している中で大きな割合を占める日本発の多国籍企業の場合は、市場も、製造元も、そして利益の再投資も、人件費もすべて海外に落ちる。その業績は国内経済、つまり日本のGDPとはダイレクトにはリンクしていないのである。史上最高の好業績、とか株価の新記録といっても、国内経済が一気に明るくならないのはこのためだ。 

 

 2点目は、株価の形成も海外に依存しているということだ。まず、現在旺盛に日本株へ投資している欧州の投資家、そして米国の投資家の場合は、どうして日本株に投資しているのかというと、これは純粋に投資目的である。もっと具体的には、日本株の場合は「株価と為替レートの掛け算」になるので、ボラタリティ(上下の変動)が大きく取れるということがある。 

 

 そのような外国人投資家は、どうして強気で日本株に投資しているのかというと、現在は円安が進行しているからだ。円安のうちに日本株を仕込んでおいて、円高になったら売る、そうすれば利益を確定できる。もちろん、円高になればすべてが反転するので日本株は下がるが、その前に売り抜ければ稼げるという思惑は確実にある。 

 

 一方で、植田和男総裁率いる日本銀行は、「異次元緩和」の出口を模索している。ただ、年度内に実施してしまうと、企業業績も株価も年度内に大きく下がってしまう危険がある。そうなれば、せっかく広がった賃上げの動きに水をさしてしまう。また、岸田政権の支持率も更に動揺し、例えば4月の補選にも影響が出るかもしれない。 

 

 反対に、4月に入って賃上げが確定し、補選の大勢が固まれば、多くの条件が揃い、いよいよ「緩和の出口」へと向かうかもしれない。植田総裁は、円高を覚悟しつつ、その範囲を穏やかなものとするように最新の注意を払うであろう。だが、一旦緩和の出口へ向かうサインが出れば、為替は円高へ向かい、外国人投資家は逃げ足早く株を売り浴びせるかもしれない。 

 

 この全体構造は、現在の日本株を取り巻く構図としては、どうにも仕方のないものだ。つまり、株価が史上最高値だとか、4万円突破ということで、ニュースとしては明るいものの、今後については特に4月以降はトレンドが変わるという覚悟はする必要がある。明るいニュースといっても期間限定である可能性は高い。 

 

 

 3点目は規模の経済という問題だ。35年前、東証ダウが4万円に迫った時期の日本経済は、GDPベースで世界経済のおよそ17%を占めていた。だが、現在の日本は4%に過ぎない。 

 

 株価の話に戻すと、今回の高値により東証の時価総額は、約1000兆円になったと言われる。かなりの規模に思われるかもしれないが、例えばニューヨーク証券取引所の時価総額は23兆ドル、更にナスダックはもっと大きくて33兆ドル、合わせて56兆ドル(8400兆円)とはるかに大きい。 

 

 1980年代には、東証が世界一の時価総額を誇っていたのだが、今は見る影もない。これは単に勝ち負けの問題にとどまらない。現在の先端技術分野は、一見すると「脱モノ化」が進み、重厚長大型産業に依存していた20世紀とは異なって見える。けれども、先端分野における資金需要ということでは、当時を上回るものがある。 

 

 例えば、ビッグデータを格納するクラウド、言語情報や地理情報、気象情報、イメージ情報などといったビッグデータを収集する作業などには、膨大な資金が必要だ。モノづくりにおいても、最先端の「3ナノ」とか更に「2ナノ」といった微細技術を使った半導体の生産も、多額の資金が必要だ。最先端の航空機やロケット開発なども同様である。 

 

 かつて製造業世界一を自負していた日本だが、現在大きく遅れを取っている背景には、この資金の問題がある。国内の個人金融資産は高齢層の老後資金となっており、リスク選好度は極めて低い。従って、ハイリスク・ハイリターンの資金は限られている。 

 

 東証の時価総額にもそれは反映しており、外国人の投資を差し引いた真水の国内からの投資は少ない。また、空洞化した国外で回っている多国籍企業の海外投資を差し引いた国内投資という意味では、こちらも小さすぎて話にならない。 

 

 現在の東証が抱える問題は極めて根が深いと言える。円安に依存した株高、外国人に依存した投資によって形成された株価ということがまずあり、仮に国内に最先端を目指せるだけの人材の厚みがあったとしても、それを活かして産業を復活させるだけの資金調達力は東証にはない。 

 

 そんな中での4万円乗せということである以上、これを手放しに喜べることを筆者は理解できない。もちろん、80年代までの成功を知らない世代に対して、そんなことを言うのはやや酷なのかもしれない。けれども、1957年生まれの岸田首相が本気で喜んでいるとしたら、これは誠に困ったこととしか言いようがない。 

 

冷泉彰彦 

 

 

 
 

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