( 149052 )  2024/03/14 13:57:36  
00

アマゾンの即日配送サービスは驚異的であるが、最後の1マイル配送を担う労働者たちが声を上げている。

アマゾンは労働組合との団体交渉に応じておらず、配達ドライバーは個人事業主という立場なので、労働者としての権利が不十分であると主張している。

即日配送を可能にするアマゾンの物流システムはアマゾン自身によって構築されており、労働者が不満を持つ中、労組結成や団体交渉が求められている。

(要約)

( 149054 )  2024/03/14 13:57:36  
00

photo by gettyimages 

 

 ネット通販の巨人「アマゾン」を利用したことがある人は、即日配送が可能な物量体制に驚くが、やがてすぐに着くのが普通のこととなって便利さを忘れる。 

 

【写真】「秀和幡ヶ谷レジデンス」に学ぶ、ヤバすぎる「管理組合」との戦い方 

 

 考えてみれば、幾つかの物流倉庫を経て「ラストワンマイル」と呼ばれる最後の物流拠点からエンドユーザーに渡るまでのサービスが、即日で行われるのは驚異的だ。最後の配送業者に負荷がかかっているのは、容易に想像がつく。 

 

 そのラストワンマイルの「労働者」たちが声をあげ始めた。カッコ書きにしたのは運営会社のアマゾンジャパンが、労働組合との団体交渉に応じていないからだ。「アマゾンの労働者」とは認めていない。 

 

 双方の主張を書く前に、アマゾンの物流体制について記しておきたい。 

 

 アマゾンの日本上陸以降、物流を担っていたのは佐川急便やヤマト運輸などの大手配送業者だった。だが現在は利益率の薄さから、まず佐川、ついでヤマトが即日配送業務から撤退するなど縮小している。代わって煩雑な個人宅への配送を引き受けているのが、アマゾン自前の配送システムである。 

 

 2つのルートがあり、ひとつは「デリバリープロバイダ(デリプロ)」と呼ばれる地域限定の配送業者で、SBS即配サポート、丸和運輸機関、若葉ネットワーク、ギオンデリバリーサービス、遠州トラックなど10社近くあり、アマゾンのパートナー企業としてラストワンマイルを担う。 

 

 デリプロは個人事業者である配送ドライバーと業務委託契約を個別に結び、ドライバーはアマゾンの配送センターに出勤して荷物をピックアップして配送する。さらにデリプロが二次配送業者と契約を交わし、そこのドライバーが配送するケースもあり、数量的には二次配送業者分が多い。 

 

 もうひとつのルートがアマゾンの配送パートナーとして、個人が直接アマゾンと契約を結び、自前の営業ナンバー(黒ナンバー)を取得した配達車両で配送センターに出勤して配送するもの。「アマゾンフレックス」と呼ばれる。2018年11月からサービスを展開し、急速に扱い量を増やしている。 

 

 アマゾン自前物流の配送ドライバーが、労働組合を結成するなどの動きは一昨年から始まっていたが、今年に入って行政や裁判所を巻き込み、拡がりを見せている。 

 

 1月16日、働く時間を自由に選べるアマゾンフレックスのもとで個別配送を請け負うドライバーが、労働組合を結成してアマゾンジャパンに団体交渉を申し入れた。組合名は「Amazon Flex ユニオン」で、個人加盟制の労組「総合サポートユニオン」内に発足した。最低報酬の引き上げ、荷量の上限設定、労災保険の適用などを求めている。 

 

 1月26日、神奈川県横須賀市や長崎県で働く約20人が加盟する労組(東京ユニオン・アマゾン配達員横須賀支部とアマゾン配達員長崎支部)が、アマゾンジャパンが労組との団体交渉に応じなかったとして、東京都労働委員会に救済を申し立てた。 

 

 2月27日、デリプロの若葉ネットワーク(神奈川県横浜市)が、二次配送業者のトランプ(埼玉県川口市)に行った配送業務委託契約の打ち切りの通告に対し、トランプが横浜地裁に地位保全仮処分を申し立てた。 

 

 

 3月8日、東京ユニオン・アマゾン配達員組合長崎支部の配達ドライバーら約20人が、ストライキを実施した。ドライバーは個人事業主として二次下請け業者のトランプと業務委託契約を結んでいる。 

 

 だが、若葉ネットワークがトランプに契約打ち切りを通告。就業確保のために若葉ネットワークに団体交渉を申し入れるも拒否されたため、ストライキを決行した。都内ではアマゾンジャパンに就業継続の指導を求めて要請活動を行った。 

 

 労働組合の結成、東京都労働委員会への救済申し立て、地位保全仮処分の申し立て、ストライキの決行……。 

 

 配達ドライバーの抱える事情や戦いの場は異なるが、置かれた状況と紛争原因は同じである。デリプロルート、フレックスルートとも、配送業務は苛酷化する一方なのに、アマゾンが配達ドライバーへの配慮を欠いていること。それは配達ドライバーが個人事業主であり、アマゾンには雇用者責任がないという建て付けになっているためだ。 

 

 しかし労組を結成したドライバーは、「実態はアマゾンの労働者です」(アマゾン配達員長崎支部の組合員)と訴える。 

 

 「配送現場では、アマゾンの配達用アプリ『ラビット』の使用を義務付けられ、アルゴリズム(計算方法)によって決定された配達先を回っています。労働時間は管理され、業務指示も実質的にアマゾンから下されており、事実上の雇用者はアマゾンです」 

 

 労働環境は、日を追うごとに悪くなっているという。当初は1個配送当たり160円といった「個建」から1日1万8000円前後(配送地区によって違う)の「日当」に切り替えられた。また21年6月にアマゾンがAIの導入で配送を決める方式に変えて以降、1日に120個前後だった荷量は増え、200個を超えることもあるという。 

 

 1月26日の東京都労働委員会への救済申し立て後に開いた労組の記者会見で、50代の女性ドライバーはこう訴えた。 

 

 「アプリの指示で業務を進めていますが、休憩時間が組み込まれておらず大問題。1日に13時間も配達する日があり、アマゾンは配達員のことを考えて欲しい」 

 

 「AIによる人間支配」がアマゾンの配送現場では現実になっている。だがアマゾンジャパンは、時間選択のアマゾンフレックスはもちろん、デリプロと契約を結んだ配達ドライバーも、「アマゾンの従業員ではない」という立場だ。 

 

 しかしトータルで即日配送を可能にする物流システムを構築しているのはアマゾンであり、巨大組織に個人が立ち向かうには労組を結成して団体交渉を求めるしかない。 

 

 安く効率的なアプリを作成するのはAIだが、車を操り手足を使う配送は、素朴で人間的な労働である。他の地区に労組設立の動きもあり、アマゾンに「雇用責任」を求める訴えは、今後も止むことがない。 

 

伊藤 博敏(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

IMAGE