( 149084 ) 2024/03/14 14:27:11 0 00 photo by gettyimages
3月18日-19日に行われる「金融政策決定会合」を前に、経済学者として、改めて現状の金融政策についての意見を述べておきたい。
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私は、植田和男氏が日本銀行の総裁になってからも一貫して「金融緩和政策の継続」を主張してきたが、それはいまも変わらない。
今年1月22日-23日に行われた決定会合では、現在の緩和政策を継続することを決めた。少なからぬ市場関係者やマスコミは、これに不満で一刻も早い緩和の終了を期待しているようだ。
たとえば、朝日新聞は、植田和男総裁の記者会見での「物価安定の目標が実現する確度が少しずつ高まっている」という発言を引用し、出口戦略、異次元緩和の終了に乗り出す時期が近づいていると解釈している(「日銀がこだわる絶対目標の罪とまやかし」朝日新聞2024年1月23日)。
しかし、私は緩和の終了は焦らない方が良いと思う。なぜなら、過去に大胆な金融緩和政策をして来なかったことが、金融政策の効果を低め金融政策を難しくしてきたからだ。
(出所)日本銀行のマネタリーベース
下の図は、中央銀行が直接コントロールできるお金の量、マネタリーベース(MB)と名目GDPの関係を、横軸にMB縦軸に名目GDPをとって示したものである。
図:日本のマネタリーベースと名目GDPの関係
この図を見ると、1997年から2012年まで、MBを伸ばしているにもかかわらず、名目GDPは伸びないどころか低下していることが分かる。
このことから、MBをいくら増大させても名目GDPは増大しないのだから金融政策には効果がない証拠だと解釈する議論があった(小野善康『成熟社会の経済学』110頁、図3-2、岩波書店、2012年)。
しかし、2013年以降を見ると、MBを伸ばすと名目GDPも伸びるという関係が見て取れる。ただし、ここからは、MBをかなり大きく伸ばしても名目GDPの伸びは小さいことも見て取れる。
名目GDPとは実質GDPとGDPデフレータ(物価指数)を掛け合わせたのものだから、この結果は、確かにMBを伸ばしても物価も実質GDPもあまり伸びなかったということを表していると見ることもできる。
しかし、日本以外の国では、この結果は異なっている。
写真:現代ビジネス
他の国で、MBと名目GDPの関係はどうなっているのかを見てみよう。
下の図は日本だけでなく、イギリス、アメリカ、韓国、ユーロ圏、スイスのMBと名目GDPの関係も示している。
図:日本と各国のマネタリーベースと名目GDPの関係
日本以外の国では、どの期間でもMBの伸びとともに名目GDPが伸びていることが分かるだろう。その伸びは、特にイギリスと韓国で特に明らかで、MBを伸ばすと名目GDPが伸びたことがはっきりと見ることができる。
一方で、アメリカとユーロ圏、スイスについては、読者によっては「MBを伸ばしても名目GDPが伸びたかどうかは明らかではない」と思われるかもしれない。確かに、スイスではその傾向が小さいのは事実である。
しかし、これらの国々でも、やはりMBを伸ばせば、名目GDPが伸びたという説明は可能であり、詳しく解説することができれば、日本でなぜMBを伸ばしても名目GDPがあまり伸びなかったのかを理解していただけると思う。
それさえ理解していただければ、なぜ日本で今後も「金融緩和」を継続させる必要があるのか、お分かりいただけることだろう。
それについては、後編『いま金融緩和をやめたら日本は再びデフレに戻る…! 経済学者が「植田日銀は金融緩和を継続をしたほうがいい」と主張するワケ』で詳しく述べていくことにしよう。
原田 泰(名古屋商科大学ビジネススクール教授 元日本銀行政策委員会審議委員)
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