( 149092 )  2024/03/14 14:37:54  
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2024年3月4日に日経平均株価がバブル期後最高値を更新したが、生活水準の改善は実感されていない。

少子高齢化による人口減少が進み、市場縮小や労働力不足などの課題が急務となっている。

DeNAの南場智子会長とハイセンスジャパンの李文麗社長は、日本企業の競争力や女性登用、ダイバーシティについて語っており、女性リーダーの少なさや日本と中国の違いに触れている。

(要約)

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DeNA南場智子会長と、ハイセンスジャパン李文麗社長(写真:ハイセンスジャパン提供) 

 

2024年3月4日に日経平均がバブル後最高値を更新したが、生活ベースでの景気回復の実感が薄い。少子化に伴う人口減で、市場縮小や労働力不足への対応も差し迫った課題だ。 

経団連副会長も務めるディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長と、販売台数世界2位のテレビメーカー「ハイセンス」の日本法人トップを2011年から務め、東芝のテレビ事業を買収して経営再建も指揮したハイセンスジャパンの李文麗社長が、日本企業の競争力やダイバーシティ、女性登用の取り組みについて、自身の体験を交えながら直言した。(前後編の前編) 

 

【写真】DeNA南場智子会長と、ハイセンスジャパン李文麗社長 

 

■日本は女性のリーダー層が少ない 

 

 ――少子高齢化、人手不足も背景に日本はダイバーシティや女性活躍の取り組みを一生懸命やっています。日本航空(JAL)の次期社長にCA出身の女性が昇格するなど、女性トップも増えています。今の潮流をどう見ていますか。 

 

 南場:職場における女性の比率って日本は統計的に低くはないんですね。リーダー層にはまだ数が少なくて、そこは課題と言えば課題だとは思います。中国のほうがうんと女性の活躍が目立ちますし、当たり前ですよね。 

 

 李:中国でも管理職や経営者は男性のほうが多いです。実際、ハイセンスは海外法人が60以上ありますが、女性トップは私が初めてですし、全体でも2人だけです。ただ、昇進意欲が高い女性は多いし、昇進したければ公平に機会が与えられます。 

 

 私は2011年に来日しました。日本企業とのお付き合いの中で、たしかに職場の男女比はそう違わないけど、電話を取るとか、受け付けとか、女性の仕事の幅が限られている印象を受けました。 

 

 南場:私は(組織において)必ずしも女性が50%でなければとは思っていません。たとえば子どもを産んだ後に夫婦で平等に話し合いをして、お母さんのほうが家で子どもを見たいということが結果として多くなっているということもあるかもしれません。 

 

 ただ社会的なプレッシャーでそうなるっていう要素をゼロにして、個々人の生きたいような生き方を選択するうえで障害がないというのが重要だと思います。個人が自由意志で、何も我慢せずに選べる社会になればいいと思っています。 

 

 

 私自身は女性だということで苦労したことがないので知らなかったんですけど、日本が選びたい生き方を選べる社会になっているわけではないと、最近聞くようになりました。そこに関しては経営者として、性別や国籍で与えられるチャンスが違うと感じる人をなくす。そういう会社を自らつくっていきたい。 

 

■子どもに対する支援を国がもっとすべき 

 

 ――自由意志で選んでくださいというと、管理職を積極的に選ぶ女性は多くない気がします。李社長も、「日本の女性は昇進したくない」という印象をお持ちのようです。 

 

 李:日本は女性が昇進できない時代が長かったので、もはや文化になっているように見えます。中国は数十年前まで貧しかったので、夫婦でお金を稼いで豊かになろうという考えでした。結婚して、子どもを産んで、そこで仕事を辞める「寿退社」という発想は昔からなかった。 

 

 たぶん日本は違いますよね。会社に入って一生懸命頑張ってリーダーを目指すより、いい男性と結婚して、家庭で自分の役割を果たしたいと考える女性が結構多い。質の高い教育を受け、大学にも通っているのになぜ? と最初は感じました。 

 

 中国に比べて母親が子どもを見る時間が長いし、それが女性の昇進に影響しているとも思います。育った環境の影響があって文化として定着しているので、変えるのは時間がかかる。 

 

 保育園や預かり保育の整備、子どもの面倒を見てくれる祖父母への支援、また、ベビーシッター、家政婦利用の補助など国がもっとサポートすべきと思います。 

 

 ――中国は上昇志向で昇進への意欲を主張する女性が多いと感じます。それも文化ですか。 

 

 李:中国は一人っ子政策が長く、一つの家庭にこの子しかいない。そういう状況なので、男女関係なく、一人の子に教育を受けさせて、仕事も思う存分やってほしい。そんな社会なので待遇に男女差が出にくいということはあります。 

 

 私も社長として能力のある女性社員を昇進させたい。社内では「女性だって社長を目指せるんだよ」と話していますし、女性が上を目指しやすい環境はつくるべきです。 

 

 ただ、南場会長と同じく管理職の数値目標設定には賛成できません。数値ありきだと適性のない人を登用し、男性が不公平感を感じるかもしれません。女性自身もやりたくないのにやらされたら居づらいですよね。 

 

■なぜ管理職になりたい女性が少ないのか 

 

 南場:おっしゃっている通りだと思います 。今そんなに管理職になりたくない人になりたいと思いなさいっていうのは違うし、無理がある。男性もそうですよ。やりたくない人に、やりたいと思いなさいっていうのも。 

 

 

 DeNAでの管理職は役割にすぎないので、上下関係がないものですから、マネジメントに関心がある人もいれば、エキスパートとして優秀という人もいる。全員にマネジメントをやりたいと思えというのも無理があります。 

 

 でも、なぜ管理職になりたい女性が少ないかという原因を遡ると、どこかで社会的なバイアスを受けて育っている可能性がありますよね。 

 

 それを取り除いていくことのほうが重要で、やりたくないという状態なのに数を合わせることを優先するとひずみが大きくなります。 

 

 李:教育も関係があると感じます。私の印象ですが、日本の小学校は競争を奨励しませんよね。そうすると社会に出てからマネジメントしたいとか、競争したいとなかなか思わないでしょうね。 

 

 ――南場会長は女性であることで苦労を感じたことがないとおっしゃっていますが、今の40代くらいの女性までは、例えば学校の成績がよかったときに「女にしておくのはもったいない」とか、「女が勉強できても仕方ない」と言われることが多かったです。 

 

 南場:たしかに何をやったらほめられるかっていうのは子どものときは男女でだいぶ違ったかもしれないですね。 

 

 私の場合は(若いときに)抑えつけられていた分、自由に対する欲望が強く残りました。だから、やりたいことをやらせてもらえなかったというのが、逆にばねになったところはあります。 

 

 今は自由に選べる時代だと思っていますが、抑えつけられているうちに、欲望を忘れちゃったり、自分のやりたいことを修正しちゃったり、ハングリーさを失う人は何割かはいたかもしれないですね。 

 

 ――制限がない社会になってほしいのはもちろんですが、男女問わず、長い間働くうえでさまざまな事情で全力疾走できないことは起こりえます。そういう経験はありますか。そのときどう調整したのでしょうか。 

 

 李:私は1995年に新卒でハイセンスに入社しました。ハイセンスはその数年後に海外進出を始め、海外ポストは空きだらけでした。私は世界を見たいという気持ちが強くて、手を挙げてアメリカ、オーストラリア、ベルギーに赴任しました。 

 

 

 その後本社に戻って出産しましたが、娘が2歳のときに日本に法人をつくるから社長にならないかと打診されました。テレビ市場がアナログからデジタルへの移行期で、1000万台の市場をゼロから開拓できるよと言われて、「絶対やりたい」と思いました。 

 

 だから家族会議をしまして、自分は海外でもっと上を目指したい、家族に裕福な暮らしをさせるから家庭のことを手伝ってくれないかと相談しました。 

 

 兄が高齢の親を、姉が私の子どもをみてくれることになりました。姉は自分の子どもが中学生で手が離れつつあり、私の子をみる余裕があったのが大きかった。姉が手伝ってくれるから私は社長ができています。夫も背中を押してくれました。 

 

 夫が賛成しなかったらたぶん日本に来てなかった。そうして最初は日本に単身赴任して、子どもが5歳のときに姉と子どもが日本に来ました。夫も時々日本に来て、こういう環境で子どもを育てられるのは幸せだと喜んでくれた。 

 

 (母親が子どもと離れて働くことについて)中国では家族の理解があれば、ほかの人は何も言いませんよ。家族のサポートがあるかどうかは大きいと思いますが。 

 

■やりたいことが全てできるわけではない 

 

 南場:私は家族の看病で仕事を離れたことがあるんですけど、自分でそうしたいと思いました。私はそんなに我慢をしたことがなくて、仕事を休んだときも、家族の課題に向き合いたいと純粋に思ったんですけど、仮にそうしたくなくても、人としてやらなきゃいけないときもあるかもしれませんね。 

 

 さっき自分で選択ができることが重要だと言ったけれども、必ずしも自分のやりたいことが全部できるわけじゃない。生きているとどうしても対処しないといけない差し迫った課題があって、自分のしたいことに没入できないときもある。そういうときは受け入れてやっていくしかないと思います。 

 

 ――看病で仕事を離れたときはすぱっと決断できましたか。 

 

 南場 :だいぶすぱっとやりましたね。気持ちも切り替わりました。 

 

 ――社業を任せられる人がいたのも大きかったのでは。 

 

 

 
 

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