( 149137 )  2024/03/14 21:54:16  
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小学校の卒業文集が廃止される傾向があり、教員の人手不足や業務負担の増加がその背景にある。

多くの小学校では、卒業文集の制作には膨大な労力が必要であり、テーマの決定から清書に至るまで多くの工程を経ている。

しかし、文部科学省が2020年から導入した『キャリア・パスポート』という記録ツールがあり、これが卒業文集の代替として機能している。

教育現場では、活動を記録する方法も変化しており、新たな取り組みが求められている。

教師の人手不足や業務負担の中で、教育の充実を図る工夫が行われている。

(要約)

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かつては当たり前にあった「卒業文集」はなくなってしまうのか。写真はイメージ(PIXTA) 

 

 3月は、別れの季節。そろそろ小学校の卒業式ラッシュが始まる頃だが、最近、6年間の学校生活の集大成である「卒業文集」を廃止する小学校が出てきている。背景には教員の人手不足や業務負担増があるというが、大人になって当時を懐かしむことができる“思い出の記録” を削らざるを得ない教育現場の実態とは。 

 

【図】「なめているのか」。教員たちを困惑させた、裁判所が仕分けた残業内容 

 

*  *  * 

 

〈本年度より6年生の卒業文集を廃止いたします。文部科学省から示された大幅な授業時間数の見直しによって、卒業文集作成にかかる時数の確保が困難になったためです。卒業アルバムは卒業文集を除いた構成で制作いたします〉 

 

 神戸市立多聞東小学校は昨年11月、学校だよりにこんなお知らせを載せた。 

 

 文部科学省は教員の働き方改革の一環として、全国の小中学校に対し、年間の授業時間数が国の定める標準値を大幅に超えないよう求めている。その要請を受けてカリキュラムを見直した結果、文集制作をやめることで授業時間数を圧縮するという決断に至った。多聞東小以外にも、札幌市立和光小学校や北九州市立大里柳小学校などで、同様の決断がなされている。 

 

 とはいえ、大半の小学校では1~3月の3学期を通して文集の制作が行われているわけだが、教員の負担はどれほどのものなのか。多聞東小を所管する神戸市教育委員会で学校教育課課長を務める坂田仁さんは、元小学校教諭の経験から、その膨大な業務のフローを明かしてくれた。 

 

■文集制作にかかる膨大な業務 

 

 まずは、作文のテーマ決め。6年間で印象に残った思い出を書くのか、はたまた将来の夢か、児童が書きたいものを一緒に掘り起こしていく。中には、アイデアを言葉にできなかったり、もはや何も思い浮かばなかったりする子もいるため、休み時間や放課後を使って個別に対応することもままある。 

 

「テーマが決まったら、原稿の下書きを添削して、構成の不備や誤字脱字がないかを入念にチェックします。文集は卒業後何十年も残るものなので、子ども自身に悔いが残らないよう、必要に応じて何度も書き直しを指示します。一昔前であれば原稿を持ち帰って自宅で添削する教員もいましたが、今は紛失防止のため認められず、学校で作業するしかありません。また、プライバシー保護が叫ばれる時代なので、同級生の個人情報に触れる内容があると保護者からクレームが入ることもあり、基本的には自分のエピソードを中心に書くよう指導します 」(坂田さん) 

 

 その後、下書き原稿が完成したら、次は清書に移る。いまだに昔ながらの“ペン書き”が主流だが、デジタルネーティブ世代がゆえに悪戦苦闘する子も少なくない。間違えた場合、修正ペンや修正テープを使うときれいに上書きできないことがあるので、原稿用紙のマスの形に切った白い紙を貼るという手の込んだ処置を施す教員もいる。 

 

「最後は、ダブルチェック・トリプルチェックの観点から、先生同士で協力して、お互いが受け持っている児童の原稿を確認しあいます。それが終われば、完成した原稿を製本業者に渡すことができますが、ホッと一息つくのもつかの間、製本された文集に不備が見つかって刷り直しが発生するケースもあります」 

 

 文集制作だけでもこれだけの業務が発生するわけだが、教員たちは日ごろから、テストの採点、ノートのチェック、児童間のもめ事の仲裁など、多岐にわたる仕事に追われている。 

 

 

■「デメリットはあまり感じない」 

 

 坂田さんは、数十年前とは明らかに異なる教育現場の“逼迫(ひっぱく)”を感じるという。 

 

「背景の一つには、保護者への説明責任が重くなったことがあると思います。子どもがケガやケンカをした場合、経緯や状況について親御さんから説明を求められる場面が増えました。トラブルを把握していなかった場合は、把握していない理由も説明できないといけない。日頃からクラス内の様子に、目だけでなく心も配っていないと、対処できません」 

 

 加えて、教員の人手不足も年々深刻化している。まさに働き方改革待ったなしの状況の中、多聞東小は今回、文集の廃止という大きな決断に踏み切った。 

 

 だが坂田さんは意外にも、「文集がなくなるデメリットはあまり感じない」と話す。 

 

「文科省は2020年から、小学校から高校までの活動を記録する『キャリア・パスポート』というツールを導入しています。これは子ども一人ひとりが自分の学びを振り返り、シートに記入するもので、“学校生活の記録”という卒業文集の役割を肩代わりできます。学校側も保護者にきちんと説明されているのか、クレームが入ったという話は聞きません」 

 

 普段の授業をより充実させるためにも、時間を捻出しようとする工夫は、他校でも見られる。たとえば、「運動会を丸1日から半日に短縮して、全学年での練習が必要な競技は取りやめる」「音楽会は子どもたちの成長段階に合わせた難しすぎない曲を選ぶ」ことで、行事の準備時間を圧縮するといった事例があるという。 

 

 課題山積みの教育現場で、今、本当になすべきことは何か。子どもたちの思い出作りやその記録の方法も、前例踏襲では立ち行かなくなっている。 

 

(AERA dot.編集部・大谷百合絵) 

 

大谷百合絵 

 

 

 
 

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