( 149357 )  2024/03/15 12:43:22  
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テレビ番組『情報ライブ ミヤネ屋』が、松本人志さんの偏向報道への被害を訴え、報道に疑問を持っている。

特に、霜月るなさんの証言などが取り上げられないことに不満を感じている。

このような問題は以前から指摘されており、「人民裁判システム」と呼ばれるメディア・リンチの問題がある。

マスコミが一度疑惑を報道すると、その否定側が黙殺され、「罪人イメージ」が社会的に定着してしまう。

 

 

マスコミの「人民裁判システム」は個人だけでなく、組織までをも「私刑」にできる点が問題だ。

特定の情報源に依存し過ぎる「アクセスジャーナリズム」の構造もあり、偏向報道が発生しやすい。

旧統一教会の報道も同様で、少数の情報源に依存していることが指摘されている。

 

 

報道においては、「被害者」側だけでなく、「否定側」の証言も取り上げることが重要である。

しかし、特定の情報源に依存した報道が続く限り、客観的な情報収集が難しくなる。

旧統一教会の報道では、元信者と現信者の双方の声を取り入れるべきとの主張もある。

これらの問題を踏まえて、オンラインイベントで旧統一教会やスパイ防止法に関する事実を伝えようとする動きがある。

(要約)

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Photo:Chung Sung-Jun/gettyimages 

 

● テレビが「文春依存」、偏向報道にならないのか 

 

 松本人志さんが「偏向報道」の被害を訴えているという。 

 

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 芸能ジャーナリスト・本多圭氏によると、『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)を、松本さんがBPO(放送倫理・番組向上機構)に人権侵害で申し立てることを検討しているとのことだ。同番組が性加害疑惑報道で連日大騒ぎをしていた一方で、「週刊文春」の記事の誤りを指摘しているセクシー女優の霜月るなさんの証言などを取り上げないことに不満を感じているらしい。(参照:『松本人志がBPOに人権侵害を申し立て? 霜月るな告発に一切触れない関西の情報番組を懸念』日刊ゲンダイ、3月13日) 

 

 実はこのような問題はかねて指摘されていた。例えば、お笑い芸人の田村淳さんも自身のSNSでこのような苦言を呈している。 

 

 《ずっと同じ内容のポストして恐縮ですが…週刊誌に被害を訴えてる人たちの証言と同じくらい、クロスバー直撃の渡邊センスの証言と霜月るなさんの証言もマスメディアで扱われるべきたと思う…裁判前とはいえとても理不尽だと感じる》(原文ママ・3月6日) 

 

 ここに登場する「クロスバー直撃の渡邊センス」というのは、「週刊文春」が「SEX上納システム」と名付けている性的行為強要疑惑に関与した、松本さんの後輩お笑い芸人だ。渡邊センスさんは文春記事を強く否定しているが、ご存じのない方がたくさんいらっしゃることからもわかるように、ワイドショーなどはほとんど取り上げていない。 

 

 ただ、朝日新聞の慰安婦報道問題など、マスコミ不祥事の歴史を振り返ってみれば、このような「偏向報道」はちっとも珍しい話ではなく、むしろ「平常運転」だ。 

 

 「~によりますと」と他人の話に乗っかって無責任に「疑惑報道」をあおるだけあおって、いざそれを否定するような声が出ても「黙殺」する。その結果、疑惑を指摘された人は「罪人イメージ」が定着して社会的に抹殺されていく――。そんな「人民裁判システム」と呼んでも差し支えないメディア・リンチがこれまでも定期的に繰り返されてきた、という動かし難い事実があるのだ。 

 

 

● マスコミの「黙殺」は個人のみならず組織も「私刑」に 

 

 この「人民裁判システム」の恐ろしいところは、松本さんのような個人だけではなく、国や行政、企業などあらゆる組織まで「私刑」を下すことができるところだ。 

  

「組織の被害を訴える人」の主張にマスコミが乗っかってくれれば、「疑惑を否定する人」は霜月るなさんのように黙殺されていく。そうなると、疑惑の組織に対して、「反社会的」「犯罪者集団」というイメージが社会に広がり、大衆の憎悪が膨らんで迫害や排斥は始まる。 

 

 そうなると、あとは何を反論しようとも「犯罪者の言い訳など信じられるか」の一言で耳を傾けてもらえない。警察に何かの罪で逮捕されたわけでもないのに、マスコミがあおった反社会的イメージだけで社会的に抹殺されてしまうのだ。 

 

 非常にわかりやすい「成功事例」が、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)である。 

 

 安倍晋三元首相の銃撃事件以降、この宗教団体には「反社会的なカルト」という社会的評価が定着している。しかし、オウム真理教のように組織的にテロを計画したとか、教団トップらが信者らに違法行為をするように指示して逮捕されたというような事実はない。 

 

 では、「反社会的カルト」の根拠は何かというと、マスコミ報道だ。教団との間で献金などをめぐる民事訴訟をしている元信者など「被害者」の主張に基づく報道である。松本さんのケースとよく似た構造で当然、「これは偏向報道だ」と指摘する人もいる。 

 

 例えば、教会の改革に携わっている中山達樹弁護士は「弁護士ドットコム」のインタビューで、教団に黒いところはないのかと問われて、このように述べている。 

 

「黒いところはないと思います。ざっくり言えば。2009年以前のことは、私は昨年に依頼を受けたばかりなのでわかっていない部分があるかもしれませんが、下っ端がやりすぎちゃうとか、ちょっとしたいざこざは、いつでもどの組織にもある。 

 

 ただ、少なくとも、2009年以後はトップの意思で黒いことをしてはいません。内部規定はクリーンで、人事評価は下からの評判を元にしているくらいです。 

 

 実際、2009年以降に行われた献金について、ほとんど新たな訴訟は起きていません。ただ、15年以上前の判決を見れば個々人の行き過ぎもあったようにも読み取れるし、過去の活動には改善の余地もあったと思います。それは反省すべきところだし、今も現在進行形で反省しています。悪いところがあったらご指摘くださいということです」(『統一教会に「黒いところはない」「解散命令あり得ない」依頼を受けた中山弁護士が断言』) 

 中山弁護士は、コンプライアンス(法令遵守)やインテグリティ(高潔さ)の専門家として、海外などでも豊富な実務経験を持つ一流の国際弁護士だ。旧統一教会の信者でもない。この組織が抱える課題や、改革の進捗などを語ってもらうには、これほどの適任はいないだろう。 

 

 しかし、中山弁護士の見解が「ミヤネ屋」などのマスコミで取り上げられることはない。いわゆる「旧統一教会報道」で「旧統一教会に詳しい弁護士」として登場する弁護士といえば、紀藤正樹弁護士をはじめ「被害者」の支援をしている全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の弁護士と相場が決まっており、中山弁護士の主張だけではなく、その存在まで大手メディアには「黙殺」されている。 

 

 

● マスコミがネタ元に過度に依存してしまう問題 

 

 なぜ「旧統一教会報道」が、ここまで露骨な「偏向報道」に流れるのかというと、松本人志さんのケースとまったく同じで、「人民裁判システム」が作動しているからだ。 

 

 そもそも、なぜマスコミが疑惑報道を否定する人たちを「黙殺」するのかというと、アクセスジャーナリズムという問題がある。これはメディアがネタ元(情報源)に過度に依存してしまうという問題だ。日本の場合、国連特別報告者から「記者クラブ制度」がアクセスジャーナリズムの温床になると指摘されている。 

 

 このように「ネタ元依存」が異常に強い日本のマスコミは、勇気を出して被害を訴えてくれた人や、自分たちが取材できないようなインサイダー情報をくれる専門家を過度に持ち上げて、何の裏取りもしていないくせに「絶対に正しい」と思い込む。そのため、それを否定する人があらわれると「黙殺」してしまう。 

 

 そんなアクセスジャーナリズムという構造的な問題をこれ以上ないほどわかりやすく体現しているのが、前述した「旧統一教会報道」だった。 

 

 テレビでも新聞でも週刊誌でもネットニュースでもいいので、これまでの旧統一教会に関するニュースを読み返してみると、ある奇妙な事実に気づくはずだ。それは「情報源が異様に少ない」ということだ。 

 

 まず、「専門家」は先ほども述べたように全国弁連に関連する方々と、ジャーナリストの鈴木エイト氏。そして、「被害」を訴えている元信者に関しても、報道の中に登場するのは「小川さゆり」と名乗っている女性など数人だ。 

 

 つまり、「旧統一教会報道」というのは、「限られた数の情報源」によってのみつくられたものだ。 

 

 これを裏返せば、この「限られた数の情報源」にそっぽを向かれてしまったら、マスコミの「旧統一教会報道」は成立しないということでもある。 

 

 自分たちで取材をすればいいじゃないかと思うかもしれないが、安倍元首相が凶弾に倒れるまでこの教団を取材していたマスコミ記者など皆無だ。それに引き換え、紀藤弁護士や鈴木エイト氏はもう何年も教団を追い続けている。今あわてて取材をしたところで、知見も人脈も足元にも及ばない。となると、マスコミがとるべき手段は、紀藤弁護士や鈴木エイト氏への完全依存しかあるまい。 

 

 ネタ元が指摘した「問題」は、ワイドショーのスタジオでも「問題」だと取り上げる。彼らが「旧統一教会は反社会的団体だ」と言えば、それをそのままコピぺしたような議論が行われる。そして、前出の中山弁護士のように、紀藤弁護士や鈴木エイト氏の主張と真逆のようなことを言う人は「黙殺」される。 

 

 このあたりの構造は、松本人志さんの性加害疑惑報道をめぐる「文春」とマスコミの関係とまるっきり同じだ。 

 

 

● 「性加害疑惑」と「旧統一教会」報道の共通点 

 

 松本さんの「性加害疑惑」の被害女性たちはすべて「文春」が握っている。今さらマスコミ各社がこの件を追いかけたところで、彼女たちのような被害者を見つけることは難しい。となると、マスコミがこの報道をするにあたって、進むべきは「文春」への完全依存しかない。 

 

 「文春」が報じたことを正確に解説をして、「文春」の主張を世に伝えていく。その一方で、「文春」を否定するような反論は「黙殺」する。 

 

 つまり、松本さんに関する疑惑報道と旧統一教会報道は見え方がまったく違うが、根っこは同じなのだ。「文春によりますと」と「鈴木エイト氏によりますと」と依存をしている相手が違っているだけで、どちらも「アクセスジャーナリズム」が引き起こした偏向報道である。 

 

 さて、いろいろ偉そうなことを語らせていただいたが、実は何を隠そう、この私もマスコミから「黙殺」されている当事者だ。 

 

 安倍元首相の殺害以降、旧統一教会の取材を進めてこれまで50人以上の現役信者や教団幹部たちにインタビューをしてきた。ちょっと話を交わした信者も含めたら100人を超えている。教会や自宅にも何度もお邪魔させていただいた。 

 

 また、「ミヤネ屋」や鈴木エイト氏が遠目にしか見ることしかできなかった、韓国・清平にある教団本部の内部にも足を踏み入れたり、「日本政治を陰で操る旧統一教会のフロント組織」とマスコミが散々叩いている国際勝共連合の集会や街宣に密着したりしている。こういう取材を続けてきてたどり着いた結論は、いわゆる「旧統一教会報道」がかなり「被害者」側のバイアスの強い偏向報道だということだ。 

 

 断っておくが、紀藤弁護士や鈴木エイト氏や「小川さゆり」を名乗る女性たちの言っていることが「間違っている」などと言いたいわけではない。 

 

 ただ、松本さんの「性加害疑惑」を否定する人たちがいるように、マスコミで元信者たちが語っている話を否定する現役信者たちもたくさんいる。国内だけでも数万人も信者がいる宗教団体を俯瞰して理解するには、鈴木エイト氏や元信者の人たちの証言だけで十分ではない。彼らの話と同じくらい、現役信者の言い分もマスコミが取り上げなければフェアではない、と言いたいのだ。 

 

 こういう話を銃撃事件後、繰り返し主張してきた。本にもまとめた。しかし、テレビや新聞に働く友人・知人に話をしてもだいたい相手にされない。マスコミにとっては「反社会的なカルトの肩を持ち、報道を否定するようなこと」を言っている私も「黙殺」すべき存在ということなのだろう。 

 

 そこで、社会から完全に抹殺されてしまう前に、これまでの取材でわかった事実を少しでも多くの人に伝えておこうということで、3月24日にオンラインイベントを企画した。 

 

 これまで述べたような旧統一教会報道の問題点にとどまらず、そもそも旧統一教会という組織が、自民党と距離を縮め、全国弁連と敵対するきっかけになったという「スパイ防止法」などについても、スパイ事情に詳しい国際ジャーナリストの山田敏弘氏とともに語っていく。最後に宣伝のようになって恐縮だが、ご興味のある方はぜひ参加いただきたい。 

 

 (ノンフィクションライター 窪田順生) 

 

窪田順生 

 

 

 
 

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