( 149447 )  2024/03/15 14:24:20  
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原田泰氏は、日本銀行の総裁としても金融緩和政策の継続を主張しており、金融緩和を早く終了させないほうがよいと述べている。

彼は、日本の金融政策が失敗しデフレを招いていたため、金融緩和の終了は再びデフレを招く恐れがあり、金融政策の効果を低める可能性があると主張している。

彼は日本は金融緩和を終了させるべきではないと考えている。

(要約)

( 149449 )  2024/03/15 14:24:20  
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photo by gettyimages 

 

 私は、植田和男氏が日本銀行の総裁になってからも一貫して「金融緩和政策の継続」を主張してきたが、それはいまも変わらない。 

 

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 前編『日銀は「金融緩和を継続」したほうがいい! 経済学者が緊急提言…市場関係者やメディアが目を背ける、物価と経済成長の「不都合な真実」』でも述べたとおり、少なからぬ市場関係者やマスコミは、一刻も早い緩和の終了を期待しているようだが、私の意見は真逆である。 

 

 私は、緩和の終了は焦らない方が良いと思う。なぜなら、過去に大胆な金融緩和政策をして来なかったことが、金融政策の効果を低め、金融政策を難しくしてきたからだ。 

 

 3月18日-19日に行われる「金融政策決定会合」を前に、経済学者として改めて金融政策についての意見を述べておきたい。 

 

(出所)日本銀行のマネタリーベース 

 

 下の図は、中央銀行が直接コントロールできるお金の量、マネタリーベース(MB)と名目GDPの関係を、横軸にMB縦軸に名目GDPをとって示したものである。 

 

 図:日本のマネタリーベースと名目GDPの関係 

 

 日本は、1997年から2012年まで、MBを伸ばしているにもかかわらず、名目GDPは伸びないどころか低下していることが分かる。しかし、2013年以降を見ると、MBを伸ばすと名目GDPも伸びるという関係が見て取れる。ただし、MBをかなり大きく伸ばしても名目GDPの伸びは小さいこともわかる。 

 

 ところが、下の図を見れば、日本以外の国ではどの期間でもMBの伸びとともに名目GDPが伸びていることがわかる。その伸びはイギリスと韓国で特に明らかで、MBを伸ばすと名目GDPも伸びたことがはっきりと見て取れる。 

 

 図:日本と各国のマネタリーベースと名目GDPの関係 

 

 一方で、アメリカとユーロ圏、スイスは読者によっては「MBを伸ばしても名目GDPが伸びたかどうかは明らかではない」と思われるかもしれないが、そんなことはない。やはりMB伸ばせば、名目GDPも伸びるという関係が見て取れるのである。 

 

 このことをもっと詳しく解説することで、なぜ日本ではMBを伸ばしても、名目GDPがあまり伸びなかったのかを理解していただけると思う。そして、それを理解していただければ、日本では、まだ「金融緩和」を継続させるべきかおわかりいただけるだろう。 

 

 では、アメリカとユーロ圏、スイスの状況について説明していこう。 

 

 

 アメリカの場合、2008年9月のリーマンショックに反応して、2009年にMBを大きく伸ばしたことが分かる。それによって名目GDPも拡大し、MBと名目GDPの関係が明らかとなった。 

 

 ユーロ圏では、2009年にはMBを伸ばさず、名目GDPも大きく落ち込んだ。トリシェ・ヨーロッパ中央銀行総裁の時代である。 

 

 ところが、2011年にドラギ総裁の時代になると2012年にMBを急拡大させた。2019年のラガルド総裁の時代でも、2020年のコロナショックに対応してMBを大きく伸ばし、名目GDPを拡大させ、トリシェ時代にあったような名目GDPの急激な落ち込みはなくなった。 

 

 このことから、トリシェ総裁から代わったドラギ総裁の時代に、外部的な負のショックに対して、MBを拡大することでショックを和らげるという考えが確立したことが分かる。 

 

 しかし、スイスは日本と同じく伸びが小さい。 

 

 スイスは、2008年のリーマンショックに対しても2020年のコロナショックに対してもMBを拡大させたことが分かる。ただし、MBを伸ばした割に名目GDPは伸びていない。 

 

 スイスは日本と似ているのである。 

 

写真:現代ビジネス 

 

 これらの国と比較して日本はどうか。いま一度、図を示しておこう。 

 

 図:日本と各国のマネタリーベースと名目GDPの関係 

 

 日本は、リーマンショックに対してMBをほとんど増加させていない。名目GDPは落込み、それが続いた。2013年の大規模緩和によってMBが伸びた結果、名目GDPは伸びるようになった。2020年のコロナッショックでもMBを伸ばしているが、名目GDPの伸び方は低い。 

 

 図の傾向線の式から、2009年以降の自国通貨単位でMBが1億増加すると名目GDPがどれだけ伸びるかという関係を見ると、イギリスが0.6億、アメリカが2.3億、韓国が5.1億、ユーロ圏が0.7億伸びたが、スイスは0.2億、日本は0.1億しか伸びなかったのである。 

 

 日本で特にMBを増やしても名目GDPの伸びが低かったのは、なぜか。その原因は、物価が下がってしまう「デフレにあった」と考えるべきだ。 

 

 

日本は顕著なデフレだった…Photo/gettyimages 

 

 マネーを増加して物価が上がれば、多くの人は手持ちの現金や預金が目減りするので何とか別の資産を保有しようとする。例えば株式、土地、外国債券、外国株式である。しかし、デフレであれば、キャッシュや預金で持っていても構わないと考える。 

 

 これらの国の2000年以降の年平均の消費者物価上昇率を見ると、イギリスは2.6%、アメリカ2.5%、韓国2.5%、ユーロ圏2.1%だったのに対して、スイスは0.6%、日本にいたっては0.4%に過ぎなかった。 

 

 つまり、物価上昇率の低い日本とスイスでMBを増やしても、名目GDPは期待していたほど伸びなかったのである。 

 

 逆に考えれば、日本も物価上昇率が2%程度になるようにしていれば、MBを増やしても名目GDPがなかなか上がらないという状況は防げたはずである。 

 

 よって、日本においてMBを伸ばしても名目GDPが伸びないという図は、MBと名目GDPの関係を否定しているのではなく、日本の金融政策が失敗しデフレを招いていたことを示している。 

 

 とすれば、早すぎる異次元緩和の終了は日本を再びデフレに戻らせ、金融政策の効果を低めてしまう。そうなれば、再び金融政策によって名目GDPを増大させることを困難にする。すなわち、景気刺激策を難しくする可能性が高いと言えるだろう。 

 

 日本はまだ、金融緩和を終了させるべきではないと私は考える。 

 

 さらに連載記事『岸田内閣「不支持率8割」でよみがえる、小池百合子「大敗北」の記憶』では、いまの日本政治の腐敗の真相についても解説しているので、ぜひ、参考としてほしい。 

 

原田 泰(名古屋商科大学ビジネススクール教授 元日本銀行政策委員会審議委員) 

 

 

 
 

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