( 150078 )  2024/03/17 14:17:19  
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イトーヨーカ堂が北海道、東北、信越の17店舗を閉店することが決定され、これはセブン&アイ・ホールディングスの中期経営計画に沿ったものである。

イトーヨーカ堂は従来から業績が悪化しており、売り上げや収益が右肩下がりに推移していた。

非食品の売れ行きが悪化し、総合スーパーの需要が減少してきたことが主な要因とされる。

セブン&アイはヨーカ堂の再建策として、首都圏特化や食品強化、アパレルの撤退などを柱に据えている。

また、新型店舗「SIPストア」の成功がヨーカ堂の運命を左右するとされており、それによって成長戦略が描かれることが期待されている。

(要約)

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イトーヨーカ堂(撮影:今井康一) 

 

 イトーヨーカ堂が北海道、東北、信越の17店舗を閉店すると2月に明らかになったことが、地域のマスコミなどを中心に、大きな話題となった。親会社であるセブン&アイ・ホールディングスの中期経営計画で公表されていた既定路線だったが、実際に具体的な店名が明らかになったことで、ネットニュースなどでも「イトーヨーカ堂の衰退」といったキャッチーなネタとして散発的に記事が出た。 

 

【ランキングを見る】1994年の小売業ランキングではイトーヨーカ堂は2位 

 

 営業終了するうちの7店舗はロピアを擁するOICグループが一気に譲り受けるという。イトーヨーカ堂から今売り出し中のディスカウントスーパー、ロピアへの店舗譲渡という新旧交代は、小売業界の栄枯盛衰として象徴的な出来事だ。 

 

 セブン&アイが公表しているヨーカ堂再建策の骨子は、①首都圏特化、②食品特化、③アパレル撤退、④センター投資とその活用、の4つが柱になっている。これは、裏を返せば、①地方が不採算、②非食品売り場が不振、③特にアパレルがよくない、④生産性が低い、といった問題点があることを示している。 

 

 これまでの経緯を振り返りながら、なぜイトーヨーカ堂が苦戦しているのかみていくことにしよう。 

 

■右肩下がりが続いているヨーカ堂 

 

 イトーヨーカ堂の業績停滞は今に始まったことではない。次の図で明らかなとおり、かなり前から売り上げ、収益ともに右肩下がりが続いており、少しずつ店舗閉鎖を行いながら戦線縮小してきていた。 

 

 1998年度には1兆5000億円以上だった売上高は、2022年度で1兆円(総額売上高ベース)ちょっとと3分の2に減っているし、営業利益率は4%以上からおおむね右肩下がりで低下して、直近ではほとんど利益が出ない状態にまで落ち込んでいる。 

 

 その主要因は、粗利率が高い非食品(衣料品、日用雑貨等)が売れなくなって、いわゆる「2階以上の売り場」が儲からなくなった、ということになるだろう。次の表はヨーカ堂の2008年度と2022年度の粗利構成を比べたものだが、非食品の粗利額の減り方が大きいことは一目瞭然だろう。 

 

■イトーヨーカ堂が失った収益源 

 

 次ページの売り上げ構成の推移をみるとわかるが、非食品の売り上げが大きく減っていて、テナントに移行している。総合スーパーが流行っていたころは、購買頻度の高い食品で来店してもらい、粗利の高い衣料品を併せて買ってもらうことで利益を稼いでいた。イトーヨーカ堂もこの収益源を失ったことで業績が低迷するようになっていった。 

 

 

 このデータは、食品に関しては、そこまで売り上げが減っていないということも示している。イトーヨーカ堂のみならず、総合スーパーに行くと、1階の食品売り場には大勢の来店客がいる一方で、2階から上は閑散としている、という光景を目にする機会は少なくない。 

 

 ご自分の買い物する店選びを思い出してもらえばわかると思うが、衣料品や日用雑貨類に関しては、ユニクロ、GU、しまむら、無印良品、ニトリ、100円ショップ、ホームセンター、ドラッグストア、等々、といった専門店チェーンやその集積する商業施設があるので、総合スーパーなど不要という人も多いのではないか。 

 

■徐々にその役割を終えていった非食品売り場 

 

 専門店チェーンが本格的に全国区になったのは、2000年代以降であり、その成長に代替された総合スーパーの非食品売り場は、徐々にその役割を終えていった。結果、全盛期の1990年代、小売業ランキングの上位を占めていた総合スーパー企業は、イオンとセブン&アイを除いて、すべて再編された(屋号は残っているがM&Aされた側にまわった)。 

 

 イトーヨーカ堂が、食品特化、アパレル撤退を今、実施しているというのは、総合スーパーとして最後まで頑張って健闘したが、時代の流れには勝てなかった、と解釈すべきなのである。 

 

 なぜ、食品の売り上げが、あまり減らなかったのかと言えば、それは食品購入が生活ルーティーンの一部であり、店を選ぶときの選択基準は、近いこと、または、1カ所で揃う品揃えがあることで、「タイパ重視」となっていることによる。地域の動線の中心にある場所、つまり食品購入においては、立地が良くて十分な品揃えがあれば、それなりにお客さんに来てもらえる、ということである。 

 

■首都圏でアドバンテージを持つヨーカ堂 

 

 この点で、東京発祥の老舗スーパーであるイトーヨーカ堂は大きなアドバンテージを持っていた。世界有数の公共交通網を誇る首都圏中心部において先行者利益を持ち、乗降客数が多い駅前をはじめとする動線の要所を押さえている。そんな優良立地に広い売り場を展開しているイトーヨーカ堂の食品売り場は、首都圏の顧客にとっても十分便利な存在であり続けたのである。 

 

 

 クルマ社会化した地方や郊外においては、こうはいかない。クルマが主要な移動手段となっている地域では、機動力を持っている消費者の行動範囲は首都圏の何十倍も広く、その中にあるスーパーはすべて競合になるという厳しい競争環境だ。 

 

 しかし、首都圏の勤労者世帯にとって、平日は駅(もしくは最寄りのバス停)から家への動線上に立地していることが、圧倒的に有利に働く。イオンの「まいばすけっと」という最低限の品揃えしかないミニスーパーが、東京区部から京浜間のみに展開して、2000億円企業にまで成長できたのも、こうした事情が背景にある。 

 

 イトーヨーカ堂が首都圏特化を戦略としたのも、自社の立地の強みを最大限生かそう、ということだ。さらに言えば、首都圏中心部には空き地などほとんどなく、競合が出店するにしても何らかの再開発がなければ、場所の確保は難しい。また、あたり前だが、首都圏は人口密集度も高いうえに、人口減少度も低い。ホームともいえる首都圏で再起を図る、という選択肢には議論の余地がないのである。 

 

■今後の成長戦略のカギとなる新型店 

 

 こうした背景を鑑みると、首都圏特化、食品強化、アパレル撤退を、計画通りに実行できるならば、ほぼ確実にヨーカ堂の収益はV字回復するだろう。天下のセブン&アイが、勝算なしに中期経営計画を公表するはずがないのである。 

 

 ただ、ここまでは、実行すれば成果が見込めるものの、縮小均衡策であり、その後の成長戦略については、前述した④センター投資による生産性向上、の成否によって結果が大きく変わってくる。生鮮、惣菜の加工工程を、プロセスセンターやセントラルキッチンにスムーズに移行し、その品質が消費者に受け入れられる必要があるからだ。 

 

 このインフラが成果を出せなければ、セブン‐イレブンがイトーヨーカ堂との連携で作った新型店「SIPストア」という取り組みも成功しない。 

 

 この新しい店は、コンビニをベースとしながらも食品スーパーの機能を果たすために開発された新業態であり、店舗における生鮮や惣菜の加工機能を持たない。最新鋭のセンターから品質の高い生鮮、惣菜を供給することになるのだが、店内バックヤードで生鮮、惣菜の最終加工を行うのが一般的なこの国においては、これまでにあまり成功例がない。数少ない成功例といえば、前述の「まばすけっと」だ。 

 

 しかし、セブン&アイはこの挑戦に十分な成算があるのだろう。その背景は、全国屈指の有力食品スーパー、ヨークベニマルがグループに存在している、ということだ。ベニマルはかつてイトーヨーカ堂が三顧の礼をもってグループに迎えた、東北の優良スーパーで、品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる。 

 

 

 また、この会社の大高善興会長は、セブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」の生みの親としても知られており、ベニマルの食品に関する知見はグループの宝なのである。 

 

 惣菜工場、プロセスセンターについても、かなり昔から戦力化に成功しているため、イトーヨーカ堂のプロセスセンター、セントラルキッチンに関しても、ベニマルからのノウハウ移転が実施されている。ヨーカ堂が食品で生きていく、と明言できるのは、この優秀なグループ企業がいるからなのだろう。 

 

■イトーヨーカ堂の運命を決める「SIPストア」 

 

 2月終わりに新型ミニスーパー「SIPストア」が千葉県松戸市内にオープンし、ニュースなどでも取り上げられていた。セブン‐イレブンが開発、運営しているため、生鮮の充実した大きいコンビニという紹介をされていたがが、これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ。 

 

 セブン‐イレブンの永松文彦社長は、「SIPストアで店舗数を拡大していくつもりはなく、得られた知見やノウハウを平準店舗に共有していく」という趣旨の発言をしていた。 

 

 つまり、難易度の高い生鮮管理を伴うこの店を、フランチャイズ制を根幹とするコンビニの店舗として拡大していくのは、加盟店の意向を無視して進めることはできない、ということだと解釈する。セブン‐イレブンでもなく、ヨーカ堂でもない、セブン&アイの新たな食品スーパー業態が、始動しつつあると考えたほうがいいのかもしれない。 

 

 食品スーパーは小売業の中でも最も人件費がかかる業態であり、人手不足、人件費高騰という昨今の環境変化に大きな影響を受けている。生鮮パック詰めや惣菜製造などを店舗ごとのバックヤードで行っていることが要因だ。こうした店舗オペレーションを標準としてきたやり方はこれから維持できなくなる。 

 

 そんな時代の要請に対して、セブン&アイはヨーカ堂の危機を契機として、プロセスセンター、セントラルキッチンを活用した生産性の高い業態開発に舵を切った。いわば、なんとか時代の要請に間に合った、という段階なのだろう。 

 

 リストラによって収益を改善したヨーカ堂に、新たな時代にあわせた新型スーパーが加わるのなら、セブン&アイのスーパーストア事業としての成長戦略を描くことはできる。ヨーカ堂、という名前が残っていくかどうかは別にしても、グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある、ということだ。この世にまだ1店舗しか存在してないSIPストア業態の成否が、今後のイトーヨーカ堂の運命を決めるといっても過言ではない。 

 

中井 彰人 :流通アナリスト 

 

 

 
 

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