( 150390 ) 2024/03/18 14:25:07 0 00 一気に業績が悪化したスノーピーク
スノーピークの2023年度売上高は、約257億円と前年比で16.4%の落ち込みを見せた。営業利益は74.3%減の約9億円、最終利益に至っては99.9%以上も減少し、わずか100万円となった。
【画像】スノーピークのおしゃれなテント(全2枚)
コロナ禍ではアウトドアブームに乗って人気を博していたスノーピークだが、急に客が離れてしまったようだ。一方でアウトドア市場自体は堅調に推移しており、他アウトドア関連企業の業績も著しく悪化はしていない。アフターコロナでスノーピークが“敗者”となってしまった理由を探っていく。
スノーピークは1958年に創業した金物問屋をルーツとする。創業者は登山を趣味としていたが、当時の登山用品に不満を持ち、翌59年に登山用品の製造販売を開始した。63年には「スノーピーク」を商標登録。88年には当時一部でブームとなっていたオートキャンプ用品の販売を開始した。
スノーピークの存在が一般にも知られるようになったのは、2000年代に入ってからだ。それまでは卸売をメインとしていたが、03年に初の直営店を出店。13年には東京・丸の内や横浜に出店し、高価格帯のアウトドアブランドとして認識されるようになった。
ちなみに、スノーピークは一部を除くほぼ全ての商品を他社で生産し、自社では製品開発と直販、卸売を担っている。テントは数万~十数万円台が基本で、コート類も5万~6万円台が多く強気な価格設定だが、ユーザー目線で開発した商品は確かに品質が高く、価格と品質でブランド力を築き上げてきた。
“アウトドア版無印良品”ともいえるシンプルなデザインも、消費者に受けた一因であろう。14年12月期、19年12月期における売上高はそれぞれ約55億円、約142億円と、コロナ禍前の5年間で売り上げは2倍以上に拡大していた。
コロナ禍では、アウトドアブームに乗る形でさらに売り上げが増えた。感染拡大が始まった直後こそキャンプ場の閉鎖が相次いだが、“密”を避けられるレジャーとしてアウトドアに注目が集まり、ライト層の参入が相次いだ。19年12月期から23年12月期におけるスノーピークの業績は次の通りである。
売上高(全社):約142億円→約167億円→約257億円→約307億円→約257億円
売上高(ディーラー卸):約49億円→約51億円→約86億円→約98億円→約52億円
※21年度以前のディーラー卸は「EC卸」との合計
スノーピークの販売形態には(1)直営店、(2)自社EC、(3)インストア、(4)ディーラー卸の4種類がある。直販形態である(1)と(2)はそれぞれ直営店および自社ECでの販売だが、(3)と(4)は卸売だ。(3)はアルペンなど他社スポーツ店に設けたコーナーに自社スタッフを派遣して販売する形態であり、(4)は他社店舗およびECへの販売となっている。コロナ禍では(4)のディーラー卸が著しく伸びた。
しかし、23年度はディーラー卸が前年比でおよそ半減となり、全社売上高も影響を受けた。ファン層が多いと思われる直営店・自社ECの売り上げは横ばいだが、一般向けが落ち込んだ形だ。22~23年度で営業利益は約36億円から約9億円に、最終利益は約19億円から100万円と、いずれも激減している。
スノーピークの業績から、アフターコロナでアウトドア市場自体が縮小したように見えるが、そうではない。矢野経済研究所によると、23年度の「国内アウトドア用品・施設・レンタル市場規模」は約4758億円であり、22年度の約4536億円よりも増えている。24年度は5000億円を超える見込みで、同社によるとアウトドアが身近なレジャーとして定着したことが背景にあるという。
他社の業績も堅調に推移している。スノーピークの卸売先でもあるアルペンの業績を見ると22年6月期および23年6月期の「アウトドア」売上高はそれぞれ約294億円→約305億円である。直近で発表があった24年6月期第2四半期を前年同期と比較すると、今期は約155億円に対して前年同期は約166億円。6%強の減少だが、スノーピークほどではない。
同様に、スポーツ用品店をチェーン展開するヒマラヤの業績を見ても、22年8月期、23年8月期におけるアウトドア商品の売上高は約107億円→約102億円と推移しており、微減に過ぎない。
アウトドアメーカーも、自社ブランド「GOLDWIN」の他に「THE NORTH FACE」など他社ブランドの製造販売を担うゴールドウインは好調だ。アウトドア関連を含む「パフォーマンス」「ライフスタイル」の両事業区分の売上高を見ると、24年3月期第3四半期はそれぞれ約313億円、約560億円であり、いずれも前年同期を上回っている。
こうした競合のデータを見ると、スノーピークの業績悪化は突出していることが分かるだろう。
スノーピークの苦境が目立つ理由は「低いアパレル依存度」にある。アウトドア企業の好調は、ウエア類の売り上げに支えられているからだ。同ジャンルは、季節ごとに買い替え需要が見込まれるほか、アウトドアブランドの人気も高まっている。街中でもよく見かけ、キャンプや登山以外のシチュエーションで着る人も多い。
スノーピークの事業別売上高を見ると、23年度はアウトドアが約231億円に対して、アパレルは約37億円しかない。近年はアパレルにも力を入れているが、同社の人気商品はやはりテントやマグカップ、調理器具といった頻繁に買い替えないものがメインだ。そのため、需要の一巡が減収につながったと考えられる。
メルカリなどで中古品が出回っていることが話題となったが、ライト層離れも要因の一つだろう。前述の通り、コア層が多いとみられる直営店はむしろ伸びており、自社ECもそこまで落ち込んではいない。
売り上げが減少し、コストも増加したため利益は激減した。23年度の販管費は約142億円で、前年(約131億円)から10億円以上も増えている。人件費の増加に加え、当初は23年度も成長を見込んでいたため、出店による地代の増加が販管費増につながったようだ。そこに海外店などの減損損失も加わり、最終利益がわずか100万円という結果に至った。
スノーピークはファンを獲得すべく、自治体と協力しながら各地にキャンプ場を整備してきた。こうした取り組みはコア層に響いた一方、ライト層の定着にはつながらなかったのだろう。ライト層をつかむには、アパレルなど身近な商品で勝負する必要がある。なお、今後は米投資ファンド・ベインキャピタルと協力し、株式の非公開化を進めるとしている。ベインキャピタルのノウハウを生かしながら、米中で攻勢をかけるようだ。競合も多い中、海外でファンを獲得できるかどうかがカギになるだろう。
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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