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2月22日、加藤鮎子こども政策担当大臣は、少子化対策の支援金の徴収額について月1000円を超える可能性があると国会で答弁した。当初500円弱とされた一人あたりの負担が半月あまりで倍増していることになる。追加負担の有無程度も見通せない制度に、国民は協力できないが……経済誌プレジデントの編集長だった小倉健一氏がこの話題に切り込む。
お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太氏が、3月12日の日本テレビ「DayDay.」で、政府の少子化対策について「支援とかばっかりでいつも思うんですけど、本当にもう(お金を)取るところを減らすという選択肢をそろそろやってくれないと」「配るってのも配り方、いつもあんまり上手じゃない配り方ばっかり目立つんで、だったら一回取るのをやめて頂ければなと」「お金が問題だってこれだけのみんなが言ってて分かってて、それでとってる対策がひとつも上手くハマってない」「なら一回取るのをやめてみようってならないもんかなって思っちゃう」と発言した。
筆者もこの山里氏の意見に完全に同意する。
政府の「異次元の少子化対策」は、莫大な予算を注ぎ込んでいるが、一向に少子化が止まる気配はない。むしろ悪化の一途を辿ったうえで、今度はその少子化対策の財源を確保するための増税「支援金制度」をつくろうとしている。
増税額をめぐっては、国民民主党の玉木雄一郎代表が2月15日に《加藤大臣が1兆円の「支援金」の負担について、「初年度は月300円弱の負担」と答弁したが、これもあまり意味のない数字。事業主負担分を約35%として、初年度2026年度6000億円のうち残りの負担額3900億円(65%分)を1億2千万人の全人口で割り、それをさらに12ヶ月で割って、「国民一人当たりの月額の負担額」約270円を算出しているに過ぎない。組合健保の被保険者一人当たりだと初年度は月額900円弱の負担になると思われる。政府は、保険者ごとに、実際に健康保険料を負担する「被保険者一人当たり」の正確な負担額を出すべきだ。》と大変わかりやすい解説をしている。
政府は2026年4月から支援金の徴収を始め、初年度は6000億円、2027年度は8000億円、2028年度は1兆円を集める計画であり、つまりはじめは1000円弱からはじまって、年を経るごとにどんどん雪だるま式に負担が増えていく公算だ。岸田文雄首相は、給料アップ分から負担してもらうので実質負担は生じないと嘘をついているが、実質賃金ずっと下がりっぱなしである。名目賃金が上がっても、可処分所得は一向に増えておらず、そこから増税するから大丈夫と言うのは、完全なる嘘であり、誤魔化しの作法にすぎない。
こんな無意味な負担をするぐらいなら、子育て支援そのものをやめたほうがいいというのは誰の目にも明らかだ。増税計画の所管大臣である加藤氏は、国会でしどろもどろの答弁を繰り返し不評を買っている。筆者は、今回、どうして、加藤氏が「しどろもどろ答弁」になってしまうのか、過去の国会での質疑から考えてみようと思う。
加藤鮎子氏が初質問に立ったのは、国会会議録検索システムによれば、2015年(平成27年)3月10日の衆議院予算委員会第八分科会だ。<まず初めに、高規格幹線道路についてお伺いをいたします>として、地元・山形県の道路と港湾の整備を求め、また除雪費用を国からの手厚い援助をお願いしている。
翌年、2016年2月25日の衆議院予算委員会第八分科会でも、安倍政権が一昨年の総選挙で地方創生をうたい選挙を戦ったことを根拠として、地元山形の酒田港を機能強化せよ。そして、被災地以外の東北地方(つまり山形)にも十分な道路予算が回ってきていない懸念を表明し、予算を配分せよと迫っている。
2017年に入ると、<政府・与党、各関係省庁の御努力によりまして、森林環境税という形で実を結ぼうとしております。今まさに議論が、細かいところが詰められているところかと思いますが、これは必ず実現すべき重要な税制であります>(2017年11月27日・衆議院予算委員会)として、悪名高い<森林環境税>の導入を主張すると同時に、<非常に農家の皆さんは今不安を抱えております>として、積極的な交付金支援を訴えた。2018年は、相変わらず公共事業費を増やせという主張を続けている。空港整備、港整備、道路整備というインフラ整備が、加藤氏が基本的な政策的立場のようだ。
加藤氏の主張のよくわからないところが、公共事業費が過去と比較して少ないことや「地元が不安がっている」とか危惧の声が上がっているという根拠しかないのだが、本当にそんなことを理由に予算措置を認めてしまっていいのだろうか。山形県が県民の税金で道路を整備したり、公共事業費をかけたりするのは県で決めれば良いと思うが、加藤氏の言うとおりに国の予算がつくのであれば、それがどれだけ国益に資すのか、根拠にしなくてはならない。
そんな議論を一切せずに、わがままを言えばいい。なのに、地元(というよりも一部業者)がやって欲しがっているから整備しろと、なんの経済合理性もない主張しかしないのである。他方、森林環境税の増税など、国民負担が増えることには積極的に賛成をしてきたわけである。
また、加藤氏は「保育士不足の解消」をたびたび国会質疑で訴えている。しかし、加藤氏の主張において特徴的なのはその方法である。それは<保育士の待遇改善を図るための国としての支援>を積極的に求めている点だ。
加藤氏ができていないとすれば、驚きだが、人手不足は保育士だけの問題ではない。運送業、建設現場は特に顕著で、日本全体のあらゆる業種において人手不足が起きている。保育士だけなぜ国によって支援されなければならないのか、ひょっとして、日本全国の組織に人手不足の補助金を出すつもりなのだろうか。それらの補助金をばら撒いた時に、いったい、何が解決するのか。全業種において補助金をばら撒いてまったく意味がないことぐらいわからないのだろうか。
単純に、保育士の資格をより規制緩和して、子育てを経験したことのある人などが手軽に自宅で児童を預かる仕組みをつくろうとはなぜ思えないのだろうか。とにかく問題の解決を、国の補助金・支援金に求める思考が、加藤氏の初心である「公共事業費のぶんどり合戦」によって定着していることがよくわかる事例だ。
加藤氏は、現在の内閣府特命担当大臣(こども政策・少子化対策・若者活躍・男女共同参画)に就任する前から、<結婚支援という施策が今の政府の取組の中では余りに小規模ではないかなと私は感じております。もちろん、個人のライフスタイルに政府や政治が口を挟んでいくものではないというのは私もそう考えますが、しかし、できれば結婚したいなという人たちの希望をかなえるという点でありますので、中長期的にも大変必要なことでもありますので、タブー視せずに、もっともっと手を差し伸べるべきではないか、このように考えます>(2019年3月22日衆議院・内閣委員会)として、結婚に対する国の支援を訴えている。それら政策が「異次元の少子化対策」で莫大な予算投入がなされたにもかかわらず、少子化は進む一方である。
政治家・加藤鮎子氏の頭は単純なつくりでできている。
1.とにかく自分の地元への利益誘導を続けること。 2.問題には、補助金・支援金で対処すること。 3.財源は増税で賄うこと。
この3つである。港湾施設、道路整備をつづけると、地元や日本が豊かになると信じて疑わないようだが、まず経済合理性を欠いた施設に税金を投入しても日本が経済発展しないとこは自明だ。次に地元経済だが、大型施設や道路整備をすると、メンテナンスや修繕費が同じ金額ぐらいかかってしまうのを加藤氏はよくわかっていない。無意味にインフラを整えたところで、結局、維持管理をさせられるのは地元自治体の予算なのだ。経済的に発展していない地域に、いくら立派なものを建てても、それがかえって地元の経済発展を阻害してしまうのだ。
次に補助金、支援金の問題だ。問題が起きればすぐに補助金で物事を解決できると信じるのが、自民党だ。対策をすることと、物事が進展することは別の問題であることがわかっていない。「対策を立てましたー!」で、終わりではないのである。
クマが人を襲うことに頭を悩ませているのに、クマ注意の看板を立てて喜んでいるようなものだ。それで根本的な問題解決になどならない。今般の少子化対策も、高校生の親にいくらお金を渡したところで妊娠的適齢期の問題で、子どもをもう1人産むというのはあまり考えにくい。しかし、それをも少子化対策などというのだから、最悪だ。
最後が増税だ。国民負担率が高まると経済発展を阻害し、お金のせいで若者は結婚できていない事実がある。この事実が理解できれば、何故に、子育て支援金なる増税をするのか、意味不明である。
ファクトがあるのに、世襲政治家の癖で、無意味とわかっているばら撒き行政がやめられない。国会質疑をみても、経済合理性に一切言及せずに、山形県の公共事業を増やせ増やせといい続けているだけの政治家である。そこに、いまツッコミが入り、しどろもどろになってしまったというわけだ。
国会巣食う、こうしたポンコツ政治家が、世襲政治のせいで再生産されていく。そろそろどうにかしないといけないのではないのだろうか。
小倉健一
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