( 151411 ) 2024/03/21 14:40:19 0 00 AdobeStock
自民党の派閥をめぐる裏金問題で、国民の怒りを増幅させたのは政治資金の不透明さと非課税である点だ。SNS上では「#確定申告ボイコット」がトレンド入りし、納税者には議員優遇への不満が渦巻く。こんな時は娯楽やギャンブルでスカッといきたいと思う人もいるかもしれないが、経済アナリストの佐藤健太氏は「一般国民は納税を怠ればペナルティーが課せられる。パチンコやパチスロ、競馬、競艇などで『一山当てた人』も注意が必要だ」と警告する。
最近、メディアで連日のように報じられる「政治とカネ」問題。自民党派閥の政治資金パーティー収入をめぐる裏金問題では一部の国会議員と元会計責任者らが立件されたが、派閥からキックバック(還流)を受けていた大半の議員は政治資金収支報告書の訂正を済ませ、お咎めなしの状況だ。
3月1日に開かれた衆院の政治倫理審査会では、自民党最大派閥だった「清和政策研究会」(安倍派)で座長を務めた塩谷立元文部科学相が釈明におわれた。批判が殺到したのは国民が持ち合わせる納税意識と「上級国民」の感覚の違いだ。
立憲民主党の寺田学氏は「国民が怒っている1つは『自分たちが裏金をつくって持っていたなら政治資金ではないだろう。きちんと納税しろ』という話だ」と追及し、納税する意志があるのか質した。だが、これに対して塩谷氏は「私自身はしっかりと政治活動に使用していますので納税するつもりはございません」と返している。
たしかに派閥などの政治団体のパーティー収入は「収益事業」とは扱われず、法人税の対象にならない。国会議員が集める寄付(献金)といった政治資金収入も原則非課税だ。法律をつくる議員側に都合の良い「抜け道」も数多く、今回の裏金問題のように「脱税」や「所得隠し」と判断されるケースはほとんどない。
だが、一般の国民や企業が似たことをすれば当然ペナルティが待っている。人々が物価上昇に苦しむ中、国会議員たち“上級国民”が堂々と「納税するつもりがない」と言えば、国民感情を逆撫ですることくらい理解できないのだろうか。岸田文雄首相の支持率も、自民党の政党支持率も下落するのは当然だろう。
言うまでもなく、納税は「国民の義務」である。国民は何らかの収入を得れば所得を10種類に分けられ、所得税を課せられる。給与や賞与などの「給与所得」、預貯金の利子などの「利子所得」、株式配当などの「配当所得」、土地や建物などを譲渡したことによる「譲渡所得」、事業で得られた「事業所得」などだ。長年勤め上げた際の「退職所得」も対象となる。
よく誤解されやすいのは、「一時所得」の扱いである。国税庁が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得」と位置づける所得だ。イメージしやすいのは、生命保険の保険金や懸賞の賞金、福引きの当選金品などだろう。
この一時所得に「娯楽」や「ギャンブル」の利益も含まれることをどれだけ多くの人が認識しているだろうか。パチンコやパチスロ、競馬、競輪、オートレース、ボートレースで「勝った」場合、1年間に合計50万円を超える場合は一時所得として確定申告が必要になるのだ。
一時所得は特別控除が最高50万円のため、それ以下であれば確定申告の必要がない。ただ、50万円超の「勝ち」があれば該当することになる。一時所得の課税所得額は「(総収入―特別控除額)×1/2」で算出され、仮に「勝ち分」が200万円であれば一時所得の課税対象額は75万円となる。他の所得と合計した総所得金額を求めた後、納める税額を計算することになる。
競馬や競艇といった公営ギャンブルの収入は一時所得とみなされるのだが、パチンコやパチスロの場合は明確な基準がないため「雑所得」に該当することもある。国税庁は雑所得を「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得のいずれにも当たらない所得」と位置づけている。例えば、公的年金や非営業用貸金の利子、副業にかかる所得(原稿料やシェアリングエコノミーなど)が該当する。
公的年金などは例外だが、雑所得は1年間の「総収入―必要経費」で計算され、一時所得にあるような特別控除はない。年末調整を受けているサラリーマンは雑所得を含む給与以外の収入が20万円超ある場合、確定申告が必要になる。一時所得か、雑所得になるかは「偶然性」ではなく、「継続性」というポイントも重視される。パチンコやパチスロで生計を立てたり、それを仕事にしたりしている人は雑所得に該当する場合がある。
先に一時所得で確定申告が必要なケースについて触れたが、一時所得の金額は正確に言えば、総収入から「収入を得るために支出した金額」を差し引き、最高50万円の特別控除額を引いたものとなる。「利益だけでなく、損失も計算されないのはおかしい」と思うのは当然だ。とはいえ、残念ながらパチンコやパチスロの「負け分」を経費として税務署に認められる可能性は、よほどの客観的証拠がなければ低い。
たしかに、競馬では外れ馬券が「経費」として認められたケースもある。国税庁は「当たり馬券」の購入代金のみが経費になると主張していたが、最高裁は2015年に自動的に購入するソフトを用いたケースについて経費に当たると判断。2017年にも経費算入を認めた。「営利目的の継続的行為」による払戻金は、雑所得として経費とするのが妥当との判断だ。
ただ、2017年のケースは6年間に計約72億円の馬券を購入し、約5億7000万円の利益を得ていた。とても一般的とは言えないことは認識しておかなければならないだろう。あくまでも一般国民は、一時所得であれば「50万円超」、雑所得ならば「20万円超」が基準となる。
ちなみに「宝くじ」の当選金には税金がかからない。「当せん金付証票法」で非課税所得として扱うことが定められているためで、確定申告も不要である。理由は、売上金額の多くが発売元である自治体に納められており、当選金に課税することになれば「二重課税」につながるからだ。ただ、当選金の受け取り後に他の人に分配すれば贈与税や相続税が生じるので要注意と言える。
パチンコやパチスロ、競馬、競艇などで勝てば、スカッとした気分になれるだろう。しかし、「勝ち分」は一定基準を超えれば納税が必要になる。バレないと思っていても、日本の税務当局は優秀だ。知人やSNSで自慢したり、急に豪華な生活を送っていたりすればバレる可能性は高まる。SNSに加え、金融機関の口座などを税務署が念入りにチェックしていることを忘れてはならない。本来納付すべき税金を払っていないことがバレれば、追徴課税などの重いペナルティが待っているのだ。
大当たりすれば人生が変わる人もいるが、納税を逃れたためにペナルティによって人生が変わることだけは避けたいものである。もう一度言うが、納税は国民の義務である。政治家の裏金問題で国民の不満は高まっているが、自分は確定申告が必要なのか、どの所得に区分すべきなのかといった点で不安な人は、税理士に相談することをオススメする。
佐藤健太
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