( 152408 ) 2024/03/24 13:47:41 0 00 医師を目指して受験し続けたtotoronさん。現在の彼女は?写真はイメージ(写真:metamorworks / PIXTA)
現在、浪人という選択を取る人が20年前の半分になっている。「浪人してでもこういう大学に行きたい!」という人が激減している中で、浪人はどう人を変えるのか。また、浪人したことで何が起きるのか。 自身も9年間にわたる浪人生活を経て早稲田大学の合格を勝ち取った濱井正吾氏が、さまざまな浪人経験者にインタビューをし、その道を選んでよかったことや頑張ることができた理由などを追求していきます。 今回は医学部医学科を目指して受験し続けるも、不合格に終わり、7浪で奈良女子大学に進学。諦めきれずに受験を続けたものの、医学部医学科への合格はかなわず、私立の歯学部に進学。2024年の2月に中途退学して、新たな道を歩み始めているtotoronさん(仮名)に話を伺いました。
【写真】totoronさんが7浪目のときに合格した大学
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■20回の挑戦を終えて、夢を断念
夢を諦めるというものは、つらいものです。
今回お話を聞いたtotoronさん(仮名)は、医師を目指して7浪したものの、不合格に終わり、奈良女子大学に進学。在学中や卒業した後も、センター試験と共通テストを受け続けますが、20回目の挑戦を終えて、ついに断念します。20年追いかけた夢を断念する無念さは、筆舌に尽くしがたいものがあると思います。
それでも、彼女はいま、前向きに自分の人生と向き合おうとしていました。彼女は言います。「夢を目指して頑張れたことが、自分の人生にとってよかった」と。
人生の半分以上をかけて目指した医者の道を断念した彼女が、「未練はない」と語る理由とは。長きにわたる彼女の浪人生活に迫っていきます。
totoronさんは、大阪府大阪市西淀川区に生まれました。新聞販売所に勤務する父親は中卒、母親は夜間高校中退で、家系に大卒者はいませんでした。幼少期は大人しく、成績も普通だったそうです。
「通っていた公立小学校は1学年が90人ほどで、成績は真ん中でした。そのまま地元の中学に進学し、中学でも1学年百数十人の中で、真ん中よりやや上の程度の成績でした」
将来の夢は特になかったというtotoronさんでしたが、小学校のときにそろばん塾(学習塾を兼ねる)に通っていたことが、現在にも生きているそうです。
「私が通っていた塾は、夕方はそろばん塾で、夜には学習塾に姿を変える場所でした。そろばん塾も、学習塾も、同じ先生が指導してくださり、勉強をサボると手が飛んでくるようなきびしい環境でした。ただ、そこで頑張ることができた結果、第1学区の東豊中高校(現:千里青雲高等学校)に無事進学できました」
同高校に進学できた理由として、彼女自身は「問題を起こさない真面目な生徒としてすごし、それなりの内申点も確保できたため」と振り返ります。
中学生のころから大学に行きたいと思っていたtotoronさんは、1年生から受験対策を始めるようになります。きっかけは「大学入試指導センター」という会社からかかってきた教材の購入の勧誘電話でした。彼女はそこの教材を日々やりこんで、来る受験に備えるようになります。
「高校は1学年9クラス・計270人ほどでした。成績はまたしても真ん中くらいでしたが、大学受験には高校の成績は関係ないと考えていたため、成績のことはあまり気にしませんでした」
■医師の夢を抱くも、勉強方法がわからない
そんな彼女は、高校2年生になると、医師になるという夢を抱くようになります。左目がぶどう膜炎になった際に、その担当医がとても親切だったことがきっかけだったそうです。勉強に身が入るようになった彼女ですが、勉強方法を相談できるような人は身近にはいなかったそうです。
「本当に五里霧中といった感じでした。相談しようにも、どうしていいのかがわからなかったのです。高校の同級生に医者を目指す人は皆無、学校の先生に相談なんてとてもじゃないけれどできず、とにかく自分でやるしかない、という感じでした。休日は、個別指導の先生に見てもらったり、梅田にある自習室(大学入試指導センター)で勉強していましたが、到底医学部医学科に合格する学力は身につかず、現役時のセンター試験は、半分も取れませんでした」
この年は、医学部医学科への受験は断念し、近畿大学の生物理工学部を受けたものの、不合格に終わります。
totoronさんは、「医学部医学科に行くため」浪人を決意します。
「センター試験が終わってから、個別指導の先生に、勇気を出して初めて医学部医学科に行きたいと言ったところ、『絶対に行こう!』と応援してくださって、いっそうやる気が湧きました」
親に浪人の許しを得たtotoronさんは、お年玉貯金を崩して、河合塾に入ります。「ひたすらテキストの復習をしていた」と語るように、朝から晩まで勉強したものの、1浪目は全然成績が伸びなかったようです。
「当時の模試の結果はあまり記憶にないのですが、5月の河合塾全統記述模試で化学の偏差値が29だったことだけは覚えています。トータルの偏差値も50未満だったので、とにかくやるしかありませんでした。1浪目のセンター試験は結局6割ほどに終わり、医学部医学科はどこもE判定でした」
医学部医学科に行けないなら、大学には行けなくてもいいと思っていたそうで、この年は大阪市立大学(現:大阪公立大学)の医学部医学科を受験したものの、不合格でした。
■4浪目で突然成績が上がる
2浪目に突入したtotoronさんは、保険金を解約して費用を捻出し、駿台予備学校に入学。ひたすら勉強に打ち込みます。
予備校の先生にも「とにかく時間をかけてやるしかない」と言われ、医学部医学科入学まで何年もかかるものだと覚悟を決めたのも、この時期だと言います。この年のセンター試験は6割で、三重大学の医学部医学科を受けるもあえなく撃沈でした。
3浪目も前半は金・土・日に1日あたり4~12時間程度、ホテルの配膳のアルバイトをして、講習代や受験費用を貯めながら、駿台で勉強を続けますが、成績は上がらず、センター試験も6割未満。ふたたび三重大学医学部医学科を受験したものの、不合格に終わりました。
しかし、4浪目では進展を見せます。この年も前半は配膳のバイトをしながらの勉強でしたが、毎回模試の偏差値が40だった化学が、ある日突然60にジャンプアップします。数学も40から55程度に上がり、着実に勉強の成果が現れ始めました。
「それまでずっと成績も上がらず、わからないことばかりでつらかったのですが、めげずに毎回わからない箇所を先生に質問しにいったので、少しずつわかることも増えて、基礎も身に付いてきたのだと思います」
とはいえ、センター試験の得点は上がったものの、7割程度。この年も三重大学の医学部医学科を受け、落ちてしまいます。初めて私立の医学部医学科や大阪薬科大学(現・大阪医科薬科大学)なども受験しますが、全落ちで5浪が確定しました。
「3浪までは『とにかく頑張ろう、頑張ったらきっといける、という感じでした。でも、成績が上がってくると恐怖を抱くようになりました。頑張っても、この年にはもう(医学部医学科に)いけないのが肌感覚でわかってくるので。センター試験でこけたら、もう1年やらないといけない。この頑張った1年はほぼリセットになります。センター試験が思うように取れなくて、情けなくて悲しくて、大号泣したのもこの4浪目の年でした」
5浪目は気分を変えて、1浪で通っていた河合塾にふたたび戻る決断をします。さすがにもうこれ以上の浪人はつらいと思ったtotoronさんは、河合塾で京大の理系を目指すコースに入りました。
「もうこの年は医学部医学科だけではなく、別の学科に受かっても進学しようと思いました。浪人生活でいちばんつらかったのが、この年でした」
■断腸の思いで医学部医学科受験を諦める
彼女はこの年まで落ち続けた理由を、「導いてくださる先生の不在」と考えます。
「当時はネットが発達してないので、周囲に誰も志望者がいない未知の進路に進むためには、手探りで自分の道を開拓しないといけませんでした。受験は才能・能力も必要ですが、いちばん必要なのはノウハウだと感じます」
この年も焦りから「ずっと自習室にこもって勉強していた」というように努力を続けていた彼女でしたが、京大と医学部医学科の判定はずっとEのままでした。結局、センター試験も7割ちょっとだったために、断腸の思いで京大と医学部医学科の受験を諦める決断を下しました。
この年、彼女は大阪薬科大学・京都薬科大学・神戸薬科大学・摂南大学を受験し、大阪薬科大学と摂南大学に合格して、ようやく彼女は5浪で大阪薬科大学に進学しました。
5浪で大阪薬科大学に入学したtotoronさんは、ひたすら中学受験の塾でアルバイトをしながら、勉強に打ち込む日々を送ります。「医学部医学科落ちがたくさんいるし、授業自体も面白かった」と満足していた大学生活。しかし、その生活も2年目で終わりを告げます。
「親が大学に行っていないこともあり、薬学部が6年間通うところだとしらなかったんです。1年目は日本政策金融公庫でお金を借り入れてもらい、授業料と入学金を合わせた400万をなんとか大学に納めたのですが、親の事業の失敗もあって、次の年からはとても払えないということで休学しました。
今思えば、奨学金を調べて駆使したら、卒業まで通えたかもしれませんけどね……。そこから私は、とにかくどこかの大学を出なければいけないと思い、そのためには再度受験するしかないと思って、ひたすらバイトでお金を貯めながら、センター試験を受けました」
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