( 152648 ) 2024/03/25 00:30:40 0 00 史上最高値の更新が続く日経平均株価=4日午後、大阪市中央区(渡辺恭晃撮影)
「過去の異次元緩和の遺産は当面の間は残り続ける」。日本銀行が大規模な金融緩和から「普通の金融政策」への回帰を宣言した19日。総裁の植田和男は記者会見で、日銀がこれまで大量に買い入れた国債や上場投資信託(ETF)を「遺産」と表現した。
そこに「負の遺産」のニュアンスが込められていたのは明らかだった。
■最高値を更新、活況の東証
日銀の決定から祝日を挟んだ21日。日経平均株価は4万815円66銭で取引を終え、史上最高値を更新した。活況が続く東京株式市場だが、株価急落のリスクが静かに忍び寄る。
株式の寄せ集めであるETFは国債と違って償還期限がなく、株式の配当に相当する「分配金収入」が入る。日銀は令和4年度に1兆1044億円を受け取った。
ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジストの井出真吾の試算によると、日銀が保有するETFは2月末時点で簿価が約37兆円であるのに対し、時価は約71兆円。含み益は約34兆円に上る。時価が簿価を下回る損益分岐点は日経平均換算で2万円という。
井出は「含み益は投資家から、かっさらったもの。本来なら投資家が得るはずの利益だ」と指摘する。
金融政策としてETFを買い入れる異例の「買い物」は平成22年12月、事実上株価を下支えする時限的措置として始まった。25年4月からの大規模緩和策で買い入れ額は増え、新型コロナウイルス禍の株価下落局面で上限が最大で年間12兆円に膨らんだ。
処分を誤れば、市場にショックを与えることになる。政府が音頭を取って「資産運用立国」の実現を目指す中、投資熱を冷ましかねない問題だ。
井出は政府系の第三者機関にETFを移管して運用を続けることを提案。「日銀にある〝埋蔵金〟を政府の財源とし、子育てや人材育成などに活用すれば、国民への還元にもなる」と訴える。
■国債頼みの危うい財政
日銀が21日発表した令和5年10~12月の資金循環統計によると、国債(短期を除く)の時価ベースでの発行残高に占める日銀の保有割合は昨年12月末時点で53・78%。大規模緩和導入直前の平成25年3月末の11・55%から大きく膨れた。
日銀はマイナス金利を解除した一方、当面はこれまで通りの規模で国債買い入れを続ける方針だ。だが、植田は将来、保有資産の縮小を視野に入れるほか、「どこかの時点で買い入れ額を減らしていくことも考えたい」とも言及している。
「(大規模緩和からの)出口となれば、金利オーナス(金利上昇による財政負担)に見舞われるのは間違いない。そのときに日本の財政がどうなるかが問われている」
財務省前事務次官の矢野康治は2月の講演でこう語り、財政再建の重要性を訴えた。
同省によると、国債や借入金などを合計した国の借金は昨年末時点で1286兆4520億円。前年末から29兆4528億円増え、過去最大を更新した。物価高対策や社会保障費の伸びなどによる歳出が増え、国債頼みの予算編成が続いている。
巨額の借金を抱えると、金利が上昇した際に利払い費が大きく膨らみ、財政運営はさらに厳しくなる恐れがある。
日本の財政リスクが高まる中、投機筋はもうけるチャンスを虎視眈々と狙っている。「日本国債でもうけることは、大型ヘッジファンドの夢。市場に隙を見せてはいけない」。ピクテ・ジャパンのシニア・フェロー、市川真一は警告する。
「買い物」を無駄に終わらせないためにどうするか。植田率いる日銀には重い宿題が課せられている。=敬称略(米沢文、宇野貴文)
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