( 152656 ) 2024/03/25 00:44:43 1 00 日銀が17年ぶりにマイナス金利を解除し、利上げを行ったことについて世間の反応が分かれている。 |
( 152658 ) 2024/03/25 00:44:43 0 00 マイナス金利解除で17年ぶりの利上げ。世間の反応はどうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
日銀が、マイナス金利の解除を決定したことが大きな話題となっている。メディアではそれなりに取り上げられているものの、いまいち反応がわかりづらい市井の声を聞いてみたい。(フリーライター 武藤弘樹)
● 「他人事ではなくなった」 マイナス金利解除に湧く列島
日本銀行がマイナス金利を解除して17年ぶりに利上げが行われた。金融緩和策の柱だったマイナス金利だが、当面の方針としては以前緩和路線を続ける見通しだ。
では、なぜここにきてマイナス金利解除に至ったのかといえば、「2%の物価安定目標が達成できそうな見通しになったから」がその主な理由である。
これが報じられた当初は、新聞やテレビなどのメディアからはおおむね評価されていた印象で、「長らく異例が続いた金融政策の正常化がようやく図られた」と言われていた。しかし2日ほど経った今は、テレビ出演やネット記事掲載など、依頼から出演・掲載までタイムラグがある意見発表の場に、真逆の評価を下す知識人たちが現れて、「このタイミングでマイナス金利解除は愚の骨頂」と厳しくやっている。
このように、世論は賛否入り乱れている最中である。
この日銀の舵取りが景気にこれからどう影響していくかは全国民にとって他人事でなく、またマイナス金利解除後にすぐさま影響を受けそうな住宅ローンの金利は、住宅ローンに関わったことのある人たち、住宅ローンを検討したことのある人たちにとって、「他人事でない」どころか、もはや当事者である。すなわち、大いなる関心が寄せられている。
このニュースに接する人たちの姿勢に特徴的に見られるのは、「賛か否か、おおかたどちらかに寄る」という傾向である。しかしそんな中にあっても「別に騒ぐことほどのでもない」「生活の手応えが急に変わることもないだろう」と静かな人たちはいる。
そうした比較的珍しい意見を含む、街の声を本稿で紹介していく。なお、あくまで「街の声」であり、専門家の知見ではない点をご了承願いたい。しかし、「街の声」だからこそ見えてくる部分もあるので、興味深く読み進めていただければ幸いである。
● 泰然自若と構える 「騒ぐほどのことでもない」派
「騒ぐほどのことでもない派」のAさん(40代男性)は、いくつかの知識に基づいて大局を見ている。
「目下、住宅ローンが上がるのではないかと注目されているが、大幅に上がることはないはず。上がりすぎて住宅ローンという商品が消費者から見向きもされなくなっては元も子もないので、銀行は金利の引き上げに慎重だろうし、もし上げるにしても融資関連の手数料を引き下げて全体でできるだけトントンに近づけるよう努力するはず。それに、変動金利が固定金利の水準に急に追いつくこともないだろう。
また、住宅ローンには『5年ルール』と『125%ルール』があるので、『住宅ローンが変化し、それにつれて生活が急変する』ケースを心配する必要はそれほどない。加えて、マイナス金利解除といえども日銀は緩和策路線を続けるとのことなので、経済情勢も大きくは変わらないだろう。
以上をもって、今回のことは騒ぐに当たらない」(Aさん)
一方、「騒ぐほどのことでもない派」のBさん(50代男性)はまったく別の考えからその派となっている。
「難しいことはよくわからないが、日銀が何か大きな決定をして、世間が騒いで、結局景気はよくならなくて……という展開を長年にわたって繰り返し見てきた。『偉い人たちも一生懸命やっているんだろうな』と思うから批判する気にはならないが、今回もどうせ例によって効果は上がらないだろうとしか思えないので、特に盛り上がらない」(Bさん)
Aさんの観測の切り口は、実は「マイナス金利解除をポジティブに評価する人」のそれによく似ている。ポジティブ評価勢は、「住宅ローンは上がり過ぎないだろう」「経済も混乱するほどは変わらないだろう」という見通しを持つことで、「ネガティブなことは起こらないので、マイナス金利解除は全体的にポジティブ」と好感していると言える。
ただ、Aさんは同じ材料を見てポジティブ評価に行くのではなく、「騒ぐほどでない」という意見に至った。これはご本人の性格も大いに関係していそうである。また、当該ニュースによって加熱ムードの世論に一旦落ち着いてほしい……といった気持ちもあるのかもしれない。
一方Bさんの観測の切り口は、ネガティブ評価勢が取りうるスタンスである。「日銀のやることはどうせハズレ。だからマイナス金利解除を評価しない」となるのが大半だが、Bさんのような、政府や日銀などの公的機関の労をねぎらいたい優しい人は、ネガティブ評価に向かわず、かといってポジティブにもなれないので、結果的に中立派である「騒ぐほどでない」勢を選択することになるのであろう。
● 2つのアンケート結果の乖離に 隠された国民の願いとは
Yahoo!ニュースのアンケート「日銀のマイナス金利解除、どう評価しますか?」を見ると、投票18,400人中、以下のような結果になっている(3月22日0時時点)
大いに評価する……37.5% ある程度評価する…17.6% あまり評価しない…11.6% 全く評価しない……29.4% どちらとも言えない/わからない……4%
「評価する」の合計が55.1%、「評価しない」の合計が41%である。
興味深いのは、同サイトでほぼ同時に並行して行われている「景気の動向をどう感じていますか?」というアンケート(84,280人投票中)である。こちらは、以下のようになった。
良くなっている………………………2.4% どちらかというと良くなっている…4.2% どちらかというと悪くなっている…21% 悪くなっている………………………69.4% どちらとも言えない/わからない……3%
「良くなっている」は合計でわずか6.6%であり、「実質賃金22カ月連続マイナス」を多くの人が身にしみて感じていることが伝わってくる。一方、日銀のマイナス金利解除は春闘の賃上げや「2%の物価安定目標が達成できそうな見通し」が根拠であり、つまり景気の上向き観測を織り込んだ決定となっている。
日銀は「景気は上向いてきた・上向くだろう」と考え、一方多くの人は反対に「景気は悪くなっている」と考えている。しかし日銀の「景気は上向いてきた・上向くだろう」という考えに基づいた采配は、多くの人に指示されているのである。両者の見ているポイントに大幅な乖離が生まれているが、それでもマイナス金利解除が多数に評価されているのは、「停滞した現状を打破するカンフル剤的な何かがほしい」という、国民のすがるような願いの表れなのかもしれない。
不動産関係者は、「マイナス金利解除を歓迎するわけではないが、このまま経済が停滞すれば家を買う人が本当に減ってしまうから、何かしらの変化はほしかった」と話していた。この談話ともリンクするアンケート結果である。
● 市井の声は懐疑的か? 一方金融関係者からは好評
筆者が数十人に聞き取り調査を行った結果、上記のアンケート結果に比して、マイナス金利解除に懐疑的な声の割合がだいぶ多かった。もっとも直接インタビューする形式で調査を行ったので、回答者が「脳内お花畑だと思われないように自重気味に回答しよう」と意識した可能性を差し引きながら、回答を見ていく必要はある。
「まだ時期尚早。あと数年待って判断するべし」(60代男性)
「金利上昇によって株価が下がるとまずい」(40代男性)
「マイナス金利解除に反対ではないが、それで消費が上がるとは思わないでほしい」(30代男性)
「せっかく景気が上向き始めそうだったのに大丈夫かなと不安」(50代男性)
春闘が好調との報道だが、賃上げを行えているのは一部大企業で、中小企業以下は以前苦しいとも伝えられている。多数の人が感じている、好景気の実感が得られない生活の手触りが、マイナス金利解除への懐疑の根っこにありそうである。
住宅ローンの金利に関しては、先述のAさん同様、「大幅な変動はないだろう・ないと思いたい」という見方が多かった。
他方、ある金融関係者はおおむね評価する方向のようである。
「金利がある程度高くないと経済ショックが起きた際の緩和策が限られるから、いつかは金利を上げておくのがベターではあった。マイナス金利解除によって株が暴落することがずっと恐れられていたが、日銀の植田総裁は事前にリーク記事を出させるなどして市場にショックを起こさせないことに完璧に成功したから、『市場とコミュニケーションを取れている人』という点で市場関係者からはすごく評価されている声がある。
会社経営者は、『コロナ融資の返済も始まったタイミングなので、金利が上がったら資金繰りがきついうえに、賃金上げるのなんてさらにきつい』と考えている」(金融業)
なお、日銀のマイナス金利解除を受けて、大手銀行が相次いで普通預金金利の大幅引き上げを決定したが、たとえば「三井住友信託銀行とりそな銀行は金利0.001%から20倍の0.02%に引き上げ」で、他も似たような塩梅であり、「チリがホコリになった」などと言われていて、これにはほとんどの人が「ほぼ恩恵なし」と感じているようである。
さて、不動産関係、金融関係、そして一般人と、判じ方が異なっている様子は興味深かった。見える景色・見ている景色はそれぞれである。
良し悪しが目下議論されている今回のマイナス金利解除だが、舵はすでに切られた。うまくいってくれることを願うばかりである。
武藤弘樹
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