( 152826 )  2024/03/25 14:19:41  
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電気自動車(EV)の素材価格が2022年以降急落しているが、バッテリー式電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売量は増加しており、2023年には1360万台に達する見通しである。

これは、三元正極の材料であるコバルト、ニッケル、マンガンの価格も下がっていることに対して不思議な点である。

この変化には、世界的に供給量が増大し、新たな電池技術や代替え材料が台頭していることが影響している。

具体的には、リチウム供給量が急増して価格が下落している他、次世代電池として注目されるナトリウム電池の登場もEV素材価格に影響を与えている。

(要約)

( 152828 )  2024/03/25 14:19:41  
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EVのイメージ(画像:写真AC) 

 

 日々のニュースではわからないが、改めて電気自動車(EV)素材価格に関する市況を見てみると驚くことがある。 

 

【画像】えっ…! これが60年前の「海老名サービスエリア」です(計15枚) 

 

 それはリチウムイオン電池材料である炭酸リチウム、さらには三元正極の材料である 

 

・コバルト 

・ニッケル 

・マンガン 

 

の価格がほぼ2022年を境に下落しているのである。 

 

 ではバッテリー式電気自動車(以下BEV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売量が2022年頃から下落しているのかといえば、そのようなことはない。 

 

 世界におけるBEV/PHVの販売量は、国際エネルギー機関(IEA)で報道されているとおり2022年は1020万台(対前年比60%増、内訳BEV710万台、PHV310万台)だった。 

 

 また2023年は1360万台(対前年比31%増、内訳はBEV950万台、PHV410万台)となったようだ。なお、2024年は“踊り場”として成長鈍化するものの、それでも2023年を上回ると推定されている。 

 

炭酸リチウムの価格推移(画像:トレーディング・エコノミクス) 

 

 それにしても不思議ではないだろうか。BEV/PHVの販売量がこれだけ増えれば、基幹部品である電池材料はレアメタル(希少金属)であるため、比例して値上がりするのが普通だろう。しかし、EV素材価格は2022年以降急落している。これには三つの理由があると考えている。 

 

●世界的に供給量が増大 

 筆者(和田憲一郎、e-mobilityコンサルタント)がi-MiEV(アイ・ミーブ)の開発に携わっていた頃、BEVは黎明期ということもあり、電池正極材の方向性が限定的だった。例えば、エネルギー密度を高めるため、ニッケル、マンガン、コバルトの三つの希少金属を主成分とする三元系(NMC)リチウムイオン電池や、安全性を優先するためリン酸鉄リチウムを使用するリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP電池)などである。 

 

 しかし、中国において新型コロナが収まりかける2020年後半から、BEV/PHVの急拡大が始まった。中国汽車工業協会の発表によれば、2021年におけるBEV/PHVの販売量は対前年比2.6倍の352万台、2022年には対前年比で約2倍となる688万台と急伸した。そのため、リチウムイオン電池に使用される炭酸チリウムや三元系(NMC)電池の素材であるニッケル、マンガン、コバルトが材料不足となり価格急騰に至った。 

 

 緊急事態が発生した際、世界の自動車メーカーは即座に材料を変更することが困難であるため、初期の対策として資源企業に対し供給面の拡大を要請した。これにより、全世界的な投資ブームが引き起こされた。 

 

 特にリチウムについては、チリ、オーストラリア、アルゼンチン、中国が主要な埋蔵国だった。しかし、この投資ブームにより、これらの地域の供給量が増加する一方で、米国、カナダ、ボリビア、ジンバブエなども新たにリチウムの供給国として名を連ねるようになった。 

 

 その結果、2023年にはリチウムの供給量が急増し、価格が急落する事態となった。具体的には、炭酸リチウムの価格は、2022年のピーク時の約60万元/tから、2024年2月末時点でその1/6まで低下した。さらに、2024年の予測では、炭酸リチウムの供給量が約41万tに対し、需要は19万t余りに過ぎず、約20万tの供給過剰が見込まれている。 

 

 

ニッケルの価格推移(画像:トレーディング・エコノミクス) 

 

 残り、ふたつの理由を説明しよう。 

 

●技術進歩による高価格材料からの方向転換 

 一方、三元系(NMC)電池の素材であるニッケル、マンガン、コバルトも、ほぼ2022年をピークに下落が続いている。これは主要メーカーによる材料変更の影響がある。例えば、比亜迪(BYD)は「Blade Battery(ブレードバッテリー)」と呼ばれるLFP電池を開発した。これはLFP電池であるものの、電池セル自体に強度を持たせてボディの一部とするCTB(Cell to Body)構造を採用することで、空間利用率を向上させ、エネルギー密度の低さをカバーしている。つまり最大手のBYDでも三元系電池を採用していない。 

 

 またテスラは、米国仕様と中国仕様があるが、中国生産のModel Yでは寧徳時代新能源科技(CATL)製のM3Pと呼ばれる電池を採用した。これは、LFP電池にマンガンを加えたリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)電池が近年登場しているが、M3Pではさらに他の金属要素も若干含めて製造しているようだ。このように、LFP電池よりエネルギー密度を高めた電池が登場しており、三元系電池の需要が減少している。 

 

●代替え材料への移行 

 もうひとつの注目すべき動きが、リチウムイオン電池に対して、安価で資源地を限定されない次世代電池として、ナトリウム電池が出現してきた。 

 

 ナトリウムは、これまでリチウムに比べるとエネルギー密度が低く、重量が重いなどの弱点があり製品開発が遅れていた。しかし、CATLは2023年4月、奇瑞汽車に対してナトリウムイオン電池(NIB)を供給することを公表した。またBYDも次世代電池として、江蘇省蘇州市に大型のナトリウムイオン電池工場を建設する予定だ。まだ動きとしては少しであるが、CATLやBYDが動き出していることが、炭酸リチウム価格の低迷につながっている。 

 

BYDのウェブサイト(画像:BYD) 

 

 現在は電池素材の置換によって、BEVの価格を引き下げ、市場の要求に対応しようとしている。特にBYDでは、 

 

「ガソリン車よりも安い電気自動車」 

 

をキャッチフレーズに低価格戦略を打ち出した。中国では、BYD 2024年モデルにて「秦PLUS EV」が10万9800元(約225万円)から、PHV「秦PLUS DM-i」は7万9800元(約165万円)からである。 

 

 ということは、BEV黎明期に比べると 

 

「EV素材のステージが変わったのではないか」 

 

と思える。日本ではBEVはまだ販売台数が少なく、価格が高いというイメージがあるが、中国メーカーを中心に一気に低価格戦略が始まった。このような流れについていけないと、EVシフト競争でも取り残されてしまうように思えてならない。 

 

和田憲一郎(e-mobilityコンサルタント) 

 

 

 
 

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