( 153113 ) 2024/03/26 13:28:36 0 00 ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daria Nipot
ネットショッピングでの「配達の時間指定」は、積極的に利用したほうがいいのだろうか。物流ジャーナリストの坂田良平さんは「再配達を減らせるので配達現場にとっていいと思われがちだが、配達員のキャパシティをまったく考慮せずに受け付けているため、逆に大きな負担になっている」という――。
【写真】Packcity Japanが運営する、オープン型宅配便ロッカー「PUDO」
■配達員の傷口に塩を塗り込むひとこと
ECや通販、あるいはメルカリ等の個人間売買のときに、時間指定配達を指定しているあなた。
実は、時間指定配達は、配達員の負担になるケースがあることをご存じだろうか?
また中には、指定した時間から遅れた配達員に対し、「午前中指定だったのに、ずいぶんとのんびりだったんですね」などと、配達員に嫌味を言った経験がある人もいるかもしれない。
配達員は、配達に出発する時点で、ほぼ100%、「これは時間指定に間に合わないかもしれない……」と分かっている。
だが仕方ない。
配達すべき荷物が目の前にある以上、運ばないわけにはいかない。
だから、時間指定に遅れたことを、あなたが責める行為は、過剰な配達ノルマから来るプレッシャーに加え、さらに配達先のお客さまからも責められるという、いわば傷口に塩を塗り込む行為なのだ。
残念ながら、時間指定は配達員の苦労を軽減する万能薬ではない。
時間指定配達の課題と、本当の意味で、配達員の負担を軽減し、配達効率を向上させる方法について解説する。
■配達予定がいっぱいでも受付拒否できない
例えば、配達員が10名の営業所があったとする。
ある日、この営業所で18時から20時の間に配達しなければならない荷物が1200個あったとしよう。
2時間で1200個の荷物を10名で配達する――つまり、1人の配達員が、1分で1個の荷物を配達しなければならない。
普通に考えれば、配達できるわけがない。
なぜこういうことが発生するのか?
端的に言えば、日時指定を含む時間指定配送を受け付ける時点で、「この日この時間は、配達予定がいっぱいなので受付できません」と受付を拒否する仕組みが世の中に存在しないからである。
■現場のキャパシティを超えるかどうかは運任せ
当然ながら、あるエリア内で配達可能なキャパシティは限られている。
だから、本来はEC・通販サイトで商品を購入する際や、あるいは荷物を送ろうとする段階で、受付の可否を判断できれば良いのだが、これができない。
「配達ができるかどうか?」は、そのエリアを配達する配達リソース(配達員やトラックの数など)に加え、「どの荷物をどの順番で運ぶか?」という配達計画を勘案しないと、判断がつかない。だが、「ECで注文した時点で、運送会社の配達計画立案システム(配車システム)と連携し、配達可否を判断する」などというシステムは実現していない。
理由は配車システムを導入していない運送会社も多いことに加え、仮に配車システムを導入していたとして、「配達ができるかどうか?」を都度判断するという演算処理が複雑すぎて、システム上実現がとても難しいという事情もある。
つまり、配達時の時間指定は、実際に配達を担う現場のキャパシティなどをまったく考慮せずに行われている。極論すれば、配達現場のキャパシティ・オーバーが発生するかどうかは運任せなのだ。
■持ち帰りばかりだとAmazonから“クビ”に
「配達量が多いのであれば、近隣の営業所に応援を要請したり、あるいは臨時でドライバーを増やせばいいのに!」と思う人もいるだろう。
もちろん、それができるときはやっている。
だが、そもそも配達員の数自体が足りていない上、配達量が多いタイミングは重なるものだ。例えば、Amazonのブラックフライデー(11月下旬開始)などで配達量が増加する時期はすべての現場で配達員が不足する。当然ながら、他の営業所に応援を回す余裕などない。
配達現場のキャパシティ・オーバーが発生したとき、その尻拭いをさせられるのは、現場の配達員たちである。
例えば、Amazonの配達員は、日々配達において、事実上の配達ノルマを課されている。
配達出発時点で託された荷物は、仮に持ち帰りになったとしても、金銭的なペナルティ(日給が減るなど)は課されない。だが、持ち帰りを頻繁に発生させていると、Amazonの配達ができなくなる。
事実上の配達ノルマをこなすために、配達員は食事はおろか、トイレに行く時間すら我慢して、なんとか配達を終えようと必死に働いているのだ。
■「時間指定は再配達抑止に効果的」という勘違い
2015年10月に国土交通省が発表した、「再配達による社会的損失は、年間約1.8億時間、年約9万人分の労働力に相当する」という衝撃的なレポートは、当時、TVや新聞でも大きく取り上げられたから、ご記憶の人もいるだろう。
このレポートでは、消費者に対してもアンケート調査を行った。結果、「『後日における再配達の依頼を前提とした不在』が併せて4割」(※レポートから転記)もあったという、これまた衝撃的な報告があった。
本レポート中、「再配達の削減に向けた具体策」として筆頭に挙げられたのが、配達日・配達時間の指定である。
少し考えれば、配達時間の指定が、前述のような配達現場の混乱と無理を招くことは分かりそうなものだが、本レポートの担当者等は気が付かなかったらしい。
ともかく、このレポートを契機に、結果として、EC・通販を利用する消費者の間に、「再配達を防ぐためには時間指定をすれば良い」という認識が広まったと、筆者は考えている。
■時間指定している人が悪いわけではない
また、この認識はさらなる問題を引き起こした。
消費者の中には、「わざわざ時間指定を“してあげた”のに、その時間帯内に配達できない配達員は怠慢だ!」という発想をする人たちが生まれたのだ。
余談だが、筆者が昨年「物流の2024年問題」をテーマに、あるニュース番組に出演したとき、生放送中に受け付けた視聴者からの質問の中に、以下のようなものがあった。
「番組を拝見していると、『時間指定は本当は良くない』と感じ始めたのですが、いかがでしょうか?」
もしかすると、本稿をここまで読み、「私は時間指定をして、実は配達員を困らせていたんだ⁉」と自責の念を感じている人もいるかもしれない。
これは、政府による再配達削減に関する対策周知が間違っていた結果であり、ある意味、あなたも被害者の一人と言える。
こと個人宅への時間指定配達については、誤った情報の拡散によって生じた社会的損失と言えよう。
■配達員に優しい、置き配や宅配ボックス
ここからは、EC・通販、あるいは個人間売買を利用する消費者が、配達員に優しく、かつ社会にも優しい配達を実践するための具体策を紹介する。
その1つが、置き配や宅配ボックスなどの利用促進である。
玄関先などに荷物を置く置き配や、宅配ボックスは、以下のメリットを持つ。
・消費者が直接荷物を受け取る必要がない。 ・配達員にとっては、配達スケジュールの中で都合の良い時間に配達できる。
また、ここで言う宅配ボックスとは、自宅に設置した宅配ボックスだけでなく、共同住宅における共有の宅配ボックスや、「PUDO」(ヤマト運輸)や「Amazonロッカー」など、商業施設、駅、コンビニなどに設置された公共型の宅配ボックス、あるいはコンビニエンスストアでの荷物受け取りなども指す。
■置き配は盗難リスクが懸念されているが…
ただし、置き配や宅配ボックスにも課題はある。
・置き配に関しては、盗難の可能性がある。また、「何を購入したのか?」というプライバシーや、氏名・住所といった個人情報が、近隣住民に知られてしまう可能性がある。 ・宅配ボックスが満杯で、なかなか荷物が受け取れないケースがある。 ・冷凍冷蔵食品などに対応できる宅配ボックスは、まだごくわずかしかない。
なお、置き配における盗難リスクについては、以下のレポートを紹介しておこう。
・セイノーHDグループのLOCCOとTポイント・ジャパンが2022年5月に発表したレポートによると、2021年1月から2022年3月の間で実際の「盗難」や「紛失」などによる盗難保険の適用率は0.0008%。つまり、置き配でトラブルに遭遇するのは10万件に1件未満。 ・東京都消費生活総合センターによれば、同センターに寄せられた置き配による盗難・誤配トラブルの件数は、2019年:104件、2020年:375件、2021年:298件。
ちなみに、2022年度における宅配便取扱個数は、50億588万個だった。ちなみに、この中に、Amazonやヨドバシ・ドット・コム等で、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便などの宅配便事業者に頼らず、自前で配達を行っている個数は含まれていない。
少なくとも今までのところ、置き配による盗難リスクは、決して高くはないと言えよう。
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