( 153141 )  2024/03/26 14:05:17  
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JR東海と静岡県の間で進行中のリニア中央新幹線の協議は、2024年度に持ち越される可能性があり、2027年には開業予定となっていたリニアについて、JR東海の立場や進捗状況、建設費変動の可能性などが検証されている。

「リニアは絶対にペイしない」という社長発言の真意やリスク対策についての考察も行われている(要約)。

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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 リニア中央新幹線をめぐるJR東海と静岡県の協議は、具体的な進捗を見ないまま2024年度に持ち越されようとしている。JR東海は果たしてどんなことを考えているのか、多くの人が漠然と抱いているだろう疑問を、同社にぶつけてみた。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也) 

 

● リニア中央新幹線をめぐる JR東海の「言い分」は? 

 

 リニア中央新幹線をめぐるJR東海と静岡県の協議は、具体的な進捗を見ないまま2024年度に持ち越されようとしている。そもそも2007年、JR東海が「リニアを自己資金で建設する」と表明した際の開業予定時期は2025年だった(その後、リーマンショックで2027年に延期)。「あと1年でリニアが開業する!」そんな世界もありえたのだろうか。 

 

 さまざまな論点のあるリニア問題は、数回程度の記事で論じられるものではないし、川勝平太静岡県知事、難波喬司静岡市長、大井川流域自治体各首長の主張の是非や真偽の検証も、専門的知見のない筆者には困難だ。大上段の議論については、当事者と国土交通省、有識者会議、専門部会に任せたい。 

 

 筆者が考えたいのは、もっと一般の人向けへのコミュニケーションの問題についてだ。「秘密主義」と目されがちなJR東海だが、ウェブサイトで申請・手続き・契約など各種資料や、FAQ(よくある質問)などの情報公開は積極的に行っている。 

 

 しかし、どうにも形式ばっており、人々に届く言葉にはなりきれていない。世間の理解・関心が高まり切らないのは、そんなコミュニケーション不足が一因ではないかと思ってしまう。 

 

 JR東海は、どんなことを考えているのか。現時点で言えること、言えないことはさまざまだろうが、だからこそ彼らの「言い分」を聞いてみたい。多くの人が漠然と抱いているだろう疑問を、JR東海広報部東京広報室の池田朋史室長にぶつけてみることにした。 

 

 なおあらかじめ断っておくと、本稿は同社の回答の真偽を検証するものではなく、是非を論じるものでもない。あくまでも今後の議論の前提となる、同社の公式見解を引き出すことを目的としたインタビューであることに留意されたい。 

 

 

● 品川~名古屋間が完成しないと その先には手がつけられない 

 

 ――静岡工区の着工が遅れる中、川勝知事は静岡以外も遅れていると主張しています。他の工区は当初(2027年開業)スケジュールに沿って進んでいるのでしょうか。 

 

 どこも厳しいところはあります。計画通りというところもあれば、(計画通りに)いっていないところもあり、工程としては非常にタイトなのは事実です。 

 

 ――金額ベースでいうと、総工費7兆円に対してどの程度、進んでいるのですか。 

 

 2014年度から2022年度の累計設備投資額は約1兆5000億円です。 

 

 ――2023年度計画が3400億円ですね。トンネル掘削など土木工事の本格化はこれからとはいえ、まだそのくらいですか。 

 

 工事は一斉に進むのではなく、静岡工区(南アルプストンネル)、品川駅、名古屋駅、都市部シールドトンネルの発信基地となる非常口掘削工事など、時間がかかる工区から早く手を付けなければなりません。しかし、静岡は2017年の工事契約から6年間、工事に着手できていません。 

 

 ――鉄道はどこか一部でも完成しなければ開業できません。先行するはずだった静岡工区がボトルネックとなっているわけですね。 

 

 スケジュール通りにいくところ、いかないところがあり、早期開業を目指すことに変わりはないのですが、各工区の進捗を確認しながら、全体としてどう進めていくのが適切なのか検討しています。急いでやれば工事費がかさむ部分もありますし、どれが一番リーズナブルかを考える必要があります。 

 

 ――静岡工区の遅れが他の進捗に影響を与えているため、今となっては当初スケジュールとの単純比較は難しいということですね。そんな静岡工区ですが、2020年に「2027年に開業させるためには今が着工のタイムリミット」と発表したことをふまえれば、今すぐに着工しても開業は2034年以降です。そうであれば、元々2037年開業を予定していた名古屋~新大阪間も同時に建設し、一括開業はできないのですか。 

 

 この際、もう全部いっぺんにやればいいじゃないかという主張もありますが、両方同時というのは人的資源的にも経営資源的にも無理です。工事部隊は完成次第、名古屋~新大阪間に移っていきます。名古屋まで出来ないと、名古屋から先には手をつけられないんです。 

 

 ――昨年末、名古屋~新大阪間の環境アセスメントに着手したと発表しましたが、これは2027年名古屋開業、2037年新大阪開業の当初スケジュールに沿ったものだったのですか。 

 

 そこはあまり明確にひもづいてはいません。名古屋以西については沿線自治体との間で、どういうステップで工事を進めていくか意見交換をずっとしてきましたし、情報収集もしています。話がまとまってきたところは、もう一歩進めて調査をやっていきましょうか、という話です。 

 

 奈良にしても三重にしても、駅候補地の調査を始めようということでボーリング調査を始めましたが、それでもって名古屋以西の全てのアセスの手続きがどんどん前のめりに進んでいくかというと、分かりません。準備ができたことからいろいろなリサーチをしていくということに尽きると思います。 

 

 

● 物価・人件費の高騰などで 建設費が膨張する可能性は? 

 

 ――近年、物価・人件費の高騰で事業費が増額する例が相次いでいます。2021年に品川~名古屋間の建設費が5.5兆円から7兆円に増額していますが、さらに膨張する恐れはないのでしょうか。 

 

 2021年の数字なので当然、ここからアップデートする必要があるのか検討するわけですが、コストアップになっている部分もあれば、技術開発によるコストダウンになっている部分もありますので、今の時点では7兆円でそのままいけるっていう見立てです。 

 

 1.5兆円増えた主な内訳は、難工事への対応が0.5兆円ぐらい、地震対策を充実させるために0.6兆円、それからトンネル掘削の発生土の活用先を確保するために必要な追加コストとして0.3兆円としました。 

 

 ですから資材が高騰していって、同じ工事がコストアップになるというわけではありません。この先はコストが上がっていく可能性は十分ありうると思っていますが、そこはやり方を工夫することで、7兆円の建設費で名古屋までいけるだろうと見立てています。 

 

 ――川勝知事が「部分開業」を主張するように、莫大な資金を投じた資産はできるだけ早く稼働させるべきだとの考え方もあると思います。開業の遅れは経営に影響しないのでしょうか。 

 

 教科書的に言えば、投下した資本が早くリターンを生み出すに越したことはありません。調達した資金の金利分が毎年無駄に流れているというように見ることもできます。 

 

 一方で1年経過するごとに東海道新幹線のキャッシュフローが5000億円くらい入ってくるので、数字だけ見れば、開業が延びれば延びるほど財務面は良くなります。早くできた方がいいのですが、延びれば延びるほど首が絞まっていく、兵糧攻めにあうというわけではありません。 

 

 ――マイナス金利政策が解除されるなど、超低金利時代が転換点を迎える可能性がありますが、長期債務が大幅に増加する中、金利の上昇はどのように影響するでしょうか。 

 

 金利は安いに越したことはありません。財政投融資から借りている3兆円は平均すると金利0.86%で、その他の借り入れを含めた平均金利は1.6%ですが、計画では金利3%で試算し、問題ないことを確認しています。金利が今後、5%とかになれば驚きますが、多少上がっても問題はないと考えています。 

 

 

● リニアは絶対にペイしない というトップ発言の真意 

 

 ――採算性といえば、2013年9月に当時の山田佳臣社長が「リニアは絶対にペイしない」と発言したことが話題を集めました。今でもリニア反対論において必ず持ち出されるこの発言の真意とは何だったのでしょうか。 

 

 リニアの目的について、新幹線と合わせてもっともうけるためではないと言いたかったのだと思います。リニアの計画の最大の目的は、リスクの回避です。東海道新幹線を二重系化して、未来にわたって安心な輸送体制を作ります。 

 

 リニアは東海道新幹線と一元的に経営する前提ですので、単独での投資回収の可否や、回収に要する年数にポイントを置いた投資判断はしていません。 

 

 そのため、投資家受けが悪く、「もうけが減るのに何でそんなことするんですか」という方もいます。しかし、株主だけがステークホルダーではありません。また、投資家はマーケットからExit(離脱)できますが、我々はできません。 

 

 ――最大の「リスク」としては南海トラフなどの巨大地震が挙げられますが、対策は万全なのでしょうか? 

 

 東京・名古屋・大阪を結ぶ以上、断層は必ず横切ります。これはある意味、宿命のようなものです。ルート選定では断層をなるべく避けていますが、どうしても横切る場合は、なるべく断層とトンネルを垂直に交差させ、交差部を補強します。これはリニアに限らず、鉄道建設の基本です。 

 

 断層がずれた場合のトンネルへの影響についてもよく聞かれますね。実際、東海道本線丹那トンネルの建設中、1930年に発生した北伊豆地震でトンネル断面が約2メートルずれた事例があります。 

 

 しかし、社内外のさまざまな専門家に聞くと、地震発生と同時に断層が動く可能性は高くないといいます。今回の能登の地震を見ても、津波が来た後に地面がゆっくりと隆起した痕跡が確認できます。 

 

 リニアは新幹線と同じように、早期地震警報システムでP波を検知し、設備構造物に影響が出る前に、少しでも早く止まるようにします。 

 

 ただし、断層を横切るときに巨大地震が起きて、ブレーキをかけても間に合わないような場所の断層が瞬時に動いて、そこに突っ込んだときには危ないかもしれません。とはいえ、そのようなことが起きる確率は正直どのぐらいあるのかと。 

 

 ――確かにそこまで行くとリニアに限った話ではなくなってしまいますね。 

 

 

 
 

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