( 154626 )  2024/03/30 15:14:39  
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「ダウンタウン」の松本人志が飲み会で女性に性的な加害をした疑惑が報じられ、松本は事実無根だとして「週刊文春」に対し損害賠償を求める裁判を起こした。

第一回口頭弁論が行われ、松本側が被害者の個人情報を明かすよう求める一方、週刊文春側は十分な自信を持って報道したと主張している。

裁判の進展が注目されているが、被害者のプライバシーや保護にも考慮が必要である。

(要約)

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Photo by Getty images 

 

 飲み会の席で出席した女性に性加害をしたとされる報道に揺れる「ダウンタウン」の松本人志。事実無根だと訴える松本は記事を報じた「週刊文春」に対し、損害賠償を求める裁判を起こした。3月28日、東京地裁で第一回口頭弁論が開かれたが――。今後、松本はどうなるのだろうか。芸能関係の裁判に詳しい弁護士が解説する。 

 

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公判前の松本の投稿(本人のXアカウントより) 

 

 〈たくさんの人が自分のことで笑えなくなり、何ひとつ罪のない後輩達が巻き込まれ、自分の主張はかき消され受け入れられない不条理に、ただただ困惑し、悔しく悲しいです〉 

 

 3月25日、自身のX(旧Twitter)アカウントでそう投稿した「ダウンタウン」の松本人志。 

 

 松本が女性らに性加害をしていたとされる問題が『週刊文春』で報じられると、1月8日に休業を発表。その後、松本は「週刊文春の報道は名誉棄損にあたる」として、発行元の文藝春秋と文春オンライン編集長に対し、5億5000万円の損害賠償を求める裁判を起こした。 

 

 当初、所属する吉本興業は「当該の事実は一切なく、記事はタレントの社会的評価を著しく低下され、その名誉を棄損するもの」と主張し、一方の週刊文春編集部は「一連の報道には十分に自信を持っている」とコメントしたことから両社の対決は法廷に持ち込まれた。 

 

 ついに行われた第一回口頭弁論。3月28日、東京地裁の前には傍聴券を求めて600人以上が列を作った。 

 

 松本が法廷に姿を現すことはなかったが、裁判は初回から物議を醸した。 

 

 「それぞれの代理人弁護士が出廷し、文春側は全面的に争う姿勢を見せました。対する松本さん側は認否を認めたり、反論はせず誌面で証言している『A子』『B子』の名前(芸名があればその名称)、住所、生年月日、携帯番号、LINEアカウントを明らかにしてほしいと求めました」(全国紙司法担当記者) 

 

 さらには松本側の弁護士は2人の容貌や容姿がわかる写真の提出も要求している。 

 

 自らの潔白を主張する松本側だが、身に覚えがないのであれば、A子さん、B子さんの個人情報を求める必要はあるのだろうか。潔白であるのなら、週刊文春の報道に対して「書いてあることはすべて誤りです」と突っぱねればいいだけの話だ。 

 

 週刊文春の代理人である喜田村洋一弁護士は公判後に行われた記者会見の場で、「そんなアホなことあるかい!」と、被害女性の特定を求める松本側の訴えに憤りを見せる。 

 

 

 「理由として考えられるのは、その頃に六本木のホテルで同じようなことをたくさんやっていたからだと考えます。どれがAさんで、そのうちどれがAさんでBさんなのかわからない(中略)つまり、この本件記事に書かれていることのどの辺までを認めるのか、認めないのかということを明らかにしないで(裁判を)やるからこういうことになるんですよ。次回、原告が出す準備書面でもAさん Bさんが分からないから準備できない、と言ってくる可能性もあります」 

 

 文春の報道以来、A子さんの元には身元特定を匂わす嫌がらせや、「虚言」「カネ目的だ」などという誹謗中傷が相次いでいるという。被害者にとってみれば、性加害の当事者に対して身の危険が及ぶような情報を詳らかにするはずがないだろう。 

 

 「だいたい今までの名誉棄損裁判でも認否できない、なんて言った人は初めてです。私も47年弁護士をやって、名誉棄損裁判もたくさんやっているつもりですが、(性暴力被害者の)住所も氏名も明かしてくれ、なんてことを言った人は初めてです」 

 

 喜田村弁護士はそう語気を強める。 

 

 一方、松本側代理人の田代正弘弁護士は、公判後に行われた取材で集まった記者に対し、「文春側が記事にした内容は社会的評価を低下させている」と主張。同意のない性行為があったか、の立証は争点ではない、とした。 

 

 田代弁護士は、A子さん、B子さんの特定を求めたことについては次のように理由を説明した。 

 

 「A子さん、B子さんが誰かがわからないから酒席もわからないでしょ。どの酒席かわからないから特定をしたいんです。答えようがないんです」 

 

 さらに強制的な性行為があったか、松本がどのように答えているのか問われると、「強制的な性行為はないというのがコメントでした。相手が誰であろうと強制的な性加害はまずない。それ以外のことについて、酒席を共にしたのか、寝食を共にしたのか、というのは相手が誰だかわからなければ答えようがない」と回答した。 

 

 松本にとっては「強制」ではないのだろう。だが、被害者感情はまた別のものだ。認知の歪みが性暴力となり、多くの女性たちを傷つけてきた可能性は否定できないだろう。 

 

 

 一連の流れを整理するため、芸能人の訴訟や名誉棄損裁判に詳しい弁護士法人ALG&Associatesの谷川聖治弁護士に話を聞いた。 

 

 まずは週刊文春側の主張からだ。 

 

 「週刊文春は松本氏側に対し、『記事のどの部分があなたたちのいう名誉毀損なのか』『どこが真実なのか』を聞いています。これは文春側が松本氏側からの訴状に反論するために、記事のどの記載内容が名誉毀損にあたるのか、を明確にしなければならないからです。前提として名誉毀損にあたるには、記事に記載されたような真実は『ない』、もしくは真実であると信じるに足りる相当な理由が『ある』ということを文春側が訴えていかなければならないのです」 

 

 そのため、文春側は反論すべき部分が明確にするため、松本側へ認否を訴えた。だが、返ってきた答えはA 子さん、B子さんの特定を求めるものだった。 

 

 谷川弁護士は次のように解説する。 

 

 「松本氏側は複数回、飲み会を開いていた。そのため記載された内容を読んでも、そこに誰が参加していたのか特定ができない状態なのでしょう。例えば、指摘されている飲み会が8月末に行われていたものと仮定します。ですが松本氏側は別の7月に行われた飲み会だと認識していた。その日を指して、『こういう状況だった』と証言したとすると、文春と松本氏、それぞれで主張する日程が異なることになる。そうなると双方の証言はかみ合わなくなってしまう。松本氏側としては、その飲み会の参加者がわからなければ文春側の主張に対し、反論も防御できない。そのため、2人の身元を明確にしてほしい、と訴えているのでしょう」 

 

 だが、A子さんとB子さんは性加害の被害者だ。被害者保護の観点やプライバシーを守ることはもちろんだが、松本側が名前や連絡先を入手することは、2人になんらかの社会的圧力をかけるリスクを高めることになるのではないだろうか。 

 

 「弁護士が付いている状態で、かつ、マスコミや世論も盛り上がっている状況でそうした行動に出ることは考えにくい。2人の身元を特定する松本氏側の意図は、文春側が記事の内容に自信があり、それを事実だとするのであれば、人を間違えては大変だ、とみているからだと思います。もし法廷で違う人のことを話せば、別の被害者を作りかねない」(谷川弁護士・以下「」内も) 

 

 そのため、氏名などに関しては裁判官が公には明らかにならないように配慮し、なんらかの形で松本側に伝える可能性があるという。 

 

 「今はもう、特定したことで『裏から圧力をかける』とか『陥れたい』という状況ではないと思います。双方、さまざまな情報が入り乱れています。曖昧なまま審理を進めたら人違いでは許されない状況にもなり得る。松本氏側の代理人はそうしたリスクも含めた慎重さから今回のような要望を出したのではないでしょうか」 

 

 続く後編記事『「松本人志側は非常に苦しく、厳しい戦いになる」...《性加害疑惑》の松本人志裁判、詳しい弁護士が「松本側の弱点」を解説』ではさらに松本の裁判の行方を追っていく。 

 

週刊現代(講談社) 

 

 

 
 

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