( 154996 )  2024/03/31 23:22:25  
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最近、都営地下鉄三田線の車両に乗った著者は、ユニバーサルデザインが施された新しい車両に注目した。

座席の端にある「袖仕切り」の大型化についての記事では、袖仕切りの高さや素材が利用者に評価されたことが紹介されている。

端の席は人気が高く、壁の向こう側でも立つ人が寄りかかりやすい場所とされている。

一方、誌面や立ち位置による利用者間のトラブルが発生しており、袖仕切りの大型化は利用者間の接触を避けつつ、安全性を高めるために導入されている。

全国の電鉄会社でも袖仕切りの大型化が進んでおり、安全面でも効果があるとされている。

(要約)

( 154998 )  2024/03/31 23:22:25  
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大型化した壁タイプの仕切り。「通勤型車両のユーザー評価の分析」より(画像:迫坪知広) 

 

 筆者(古宮宗、フリーライター)は最近、都営地下鉄三田線に乗ったのだが、それは見るからに新しい車両で、随所にユニバーサルデザインが施されていた。 

 

【画像】えっ…! これが都営三田線の「袖仕切り」です(計7枚) 

 

 立つ人に向けて、さまざまな高さのつり革が用意されているなか、低いものはかなり低い。6人がけのシートでは、席に座りやすく、立ち上がりやすくなるような、縦の手すりが両端含め計4本、どの席にいても使えるように配置されている。もちろん、立っている人もつかまりやすい。 

 

 荷棚が一般的な車両より低くなっていて誰でも使いやすそうなのは、ぱっと見でわかるほどだ。個人的に一番興味を持ったのは、座席の端の仕切り、正式名称 

 

「袖仕切り」 

 

が高くなっているところだった。座っている大人の頭がはみ出るか出ないかくらいの高さだ。 

 

 調べてみると、この6500形車両は2022年に導入されており、その年のグッドデザイン賞を受けている。つり革や荷棚の位置、ガラス製袖仕切りの圧迫感のなさなどが評価された。 

 

 三田線では、新型車両のほか、旧型車両においても袖仕切りの大型化を順次実施しているという。それも、東京都交通局に、 

 

「座席の一番端の席に座っているときに、他の乗客のカバンや髪の毛があたる」 

 

といった声が利用者から届いたからだった。 

 

壁タイプの仕切り。「通勤型車両のユーザー評価の分析」より(画像:迫坪知広) 

 

 座る人にとって、端の席は非常に人気が高い。既に座っている人も、空きが出れば席を移るほどである。 

 

 人気の理由は、片側に壁(袖仕切り)があり、隣の人との接触を減らすのに適しているからだ。また、壁にもたれると寝やすい。 

 

 これは九州大学の迫坪知広(さこつぼ ともひろ)氏による研究論文「通勤型車両のユーザー評価の分析」で実施された、西日本鉄道天神大牟田線大橋駅利用者137人のアンケートにも表れている。 

 

 回答者の63%が、通勤電車に乗ったときに空いているならば 

 

「ロングシート端部」 

 

を選択している。「ロングシートの車端壁に接する場所(車両の端)」11%も合わせ、ロングシートの端を選ぶのは、 

 

・パーソナルスペース 

・楽 

 

だからである。 

 

 一方で、その壁の向こう側も人気スポットである。立っている人が寄りかかれる数少ない場所だからだ。 

 

 アンケートでも、回答者の23%がこのスポットを選び、一番人気であった。「寄りかかれる」「楽」「乗り降りしやすい」ことがキーワードとして挙げられている。 

 

 

金属棒の仕切り。「通勤型車両のユーザー評価の分析」より(画像:迫坪知広) 

 

 端の席に座っていると、この立っている人の寄りかかりをダイレクトに受けやすい。低い板状の仕切りの場合、その上から、立っている人のバッグや背中、髪の毛が越境してきて顔に当たる。 

 

 パイプでできた袖仕切りの場合、立っている人のお尻が越境してくることさえある。しかしなぜか、立っている人はそういった迷惑を他人にかけていることに気付かない。 

 

 筆者はその状況に我慢できないとき、腕で境界線をつくっている。するとその硬い感触を抱いて、立っている人が直してくれる。大人げないとも思うが、そうでもしないとずっと不快な状況が続いてしまう。 

 

 これを経験していれば、立つ側の立場になるときは、越境しないように気を遣うはずなのだが、この状況はなかなかなくならない。 

 

 話題にのぼりづらい地味なトラブルのように見えて、実はSNSでつぶやかれることが多い。 

 

「すごい、いや」 

「なぜ立っている側が気付かないのか」 

「不快なので押し返す」 

「端の席に座らないようにしている」 

 

という声が上がっている。 

 

都営三田線「6500形」(画像:東京都交通局) 

 

 この大型の袖仕切りを導入しているのは、都営地下鉄三田線だけではない。 

 

 論文の対象となっている西日本鉄道天神大牟田線にも大型袖仕切りが一部導入されていて、アンケートでも、金属パイプでできたものや、壁(板状)になっているが低い袖仕切りよりも人気が高く、その理由は壁の向こうの乗客と接しない「パーソナルスペース」が理由となっている。 

 

 例えば小田原電鉄の小田急線でも、強化ガラスを素材にして圧迫感を与えないように配慮しつつ、大型化した袖仕切りを採用している。やはり袖仕切りの両サイドに位置する乗客同士の接触によるトラブルを防ぐべく、よい高さを研究したという。 

 

ほかにも、ガラス製でなくとも透明感のある素材を使ったものなど、大型袖仕切りは全国さまざまな電鉄会社で近年導入が続いている。 

 

立ち席位置の選択肢。「通勤型車両のユーザー評価の分析」より(画像:迫坪知広) 

 

 袖仕切りの大型化は、乗客間のトラブルを防ぐためだけでなく、安全上の理由からも導入されている。JR西日本のリポートにも、袖仕切りを大型化した理由として 

 

「身体の一部に衝撃力が集中しにくい形状に見直し」 

 

と書かれている。 

 

 電車が衝突すると、衝突面方向に体が動き、袖仕切りにぶつかることになる。パイプタイプであれば胸を強打しやすい。 

 

 鉄道総合技術研究所の小美濃幸司(おみの こうじ)氏、中井一馬氏、白戸宏明氏による「通勤列車衝突事故被害軽減のためのそで仕切り高さに関する考察」には、パイプ状の袖仕切りよりも壁状(板状)の方が、また壁が高い方が 

 

「胸部傷害」 

 

が起こりにくいとある。 

 

 大型化した壁のある袖仕切りは、安全面でも優れている。壁を透明化させることで、犯罪が起こりやすくなることも防げるので、このタイプの袖仕切りがベストなのではないだろうか。 

 

古宮宗(フリーライター) 

 

 

 
 

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