( 155166 )  2024/04/01 14:16:41  
00

アメリカではEVの販売は好調で、2023年には年間100万台を超えた。

EVは増加しているものの期待以上でなかったため、一部で「EVは終焉した」との誤解が生まれているが、実際には毎年増加している。

ハイブリッドも人気であり、アメリカではガソリン車が徐々に減っている現状が示されている。

中国のEVメーカーが低価格車で存在感を示す中、日本の自動車メーカーも競争が激しさを増すことが予想される。

 

 

(要約)

( 155168 )  2024/04/01 14:16:41  
00

写真提供: 現代ビジネス 

 

 日本では「2023年アメリカでのEV伸び率の低下」を誤解し、「アメリカでEVはまるで売れていない」「EVシフトは終わった」「ハイブリッドのひとり勝ち」と思っている日本人が一定数いる。しかし、ニューヨークからアメリカの自動車事情を日本に送り続けて8年目となる筆者からすると、それはアメリカでの事実とは言えない。 

 

【写真】大胆な水着姿に全米騒然…トランプ前大統領の「娘の美貌」がヤバすぎる! 

 

 アメリカでのEV販売はいまなお好調で、昨年の2023年は、アメリカで”初めて”EV販売台数が年間100万台を超えた(日本は約8万8千台)。アメリカではただ単に自動車メーカーとアナリストによる予想で「2023年にEVの販売はさらに伸びる」とされていたが、それほど伸びなかっただけの話にすぎない。 

 

 日本でよく見る「アメリカのEV終焉」調の記事だが、アメリカの2024年1月のEV販売台数は約8万9千台だった。アメリカでのわずか1ヶ月で、昨年の日本での年間EV販売台数を超えている。しかも、前年比は15%増だった(SPグローバル・モビリティ)。 

 

 アメリカのEVは、毎年前年比で50%を超えて伸びてきた。だが、今年は前年比15%~20%増程度になるのかもしれない。今年のEV販売シェアは10%予想とされている(Coxオートモービル)。すなわち、EVは増えたものの期待以下だった。EVは増えたものの期待以下だった。だからテスラの株価が下がった。それでも、毎年EV販売台数は増え続けている。アメリカでは2022年と比べて2023年にEV販売台数が減ったわけではない。多くの日本人は、自らの考えや願望を反映させるので「EVは終わった」と読み間違えるのだろう。 

 

エンジン別アメリカ自動車販売年表(出典:エネルギー情報局) 

 

 1つのグラフがある。文字を読んでもまだ理解できない人は、そのグラフを見れば一目瞭然だ。それはアメリカのエネルギー省のエネルギー情報局が出したデータで、ガソリン車と電動車(ハイブリッド・EV・プラグインハイブリッド)の2つに分け、2014年から2023年までの販売シェアをグラフ化したものだ。このグラフを見れば、アメリカでのガソリン車と電動車がどれくらいのシェアで占めているのか誰でもわかる。 

 

 そのグラフについて簡単に書くと、およそ10年前の2014年の時点のアメリカでは、ほぼ100%がガソリン車だった。そこから2023年末には、ガソリン車のシェアは84%に下がった。そして電動車(ハイブリッド・EV・プラグインハイブリッド)は、2014年時点ではほぼ0%だったが、2023年末には16%に上がった。16%の内訳は、EVとハイブリッドのシェアがそれぞれ7%くらいところを並走、残りをプラグインハイブリッドが埋めている。 

 

 これがアメリカの現実となる。現在たった16%の電動車シェアのうち7%程度同士であるハイブリッドやEVという見方もできるし、アメリカではまだまだガソリン車が84%も買われているという見方もできる。 

 

 「ハイブリッド=日本」「EV=海外勢」と思うから、見方が変わるのだ。ハイブリッドはフォードなどからも販売されている。グラフでもアメリカのシェアは「ハイブリッドのひとり勝ち」でもなんでもない。筆者も同じ日本人として、そう思いたい気持ちはわからないでもないが、アメリカでの事実は違う。 

 

 今後アメリカでは、EVの伸び率の鈍化はあっても、EVとハイブリッドのシェアは並走し、ガソリン車は減り続ける。ガソリン車のシェアをEVやハイブリッドなどの電動車が奪い続ける、と言ってもいいだろう。結局のところ、アメリカの実態を言えば「ガソリン車が減っている」ということになる。 

 

 

EVが連なって走っていても珍しくないニューヨーク 

 

 ニューヨークでも街でEVが3台連なって走る光景は珍しくもない。観光でニューヨークに来て写真を撮ると、どこかにEVが写っていることだろう。もはや日常になじんでいる状態だ。乗っているアメリカ人にしても、EVは「排ガスが出ない」「家で充電できる」「新しい」といった程度の認識。日本のようにEVが「環境に優しい」「いや、環境に優しくない」といった”意識の高い”議論は起こっていない。 

 

 25年前からあるハイブリッドが、アメリカで最近になって売れ出した理由は、いずれガソリン車を販売禁止にする州があることが大きい。ガソリン車の新車販売を2035年に禁止にする州は、カリフォルニアやニューヨークなど都市部を中心に9つ。アメリカの国レベルでも、厳しい排ガス規制により2032年には自動車メーカーは罰金を払いながらのガソリン車販売になる見込みで、販売台数の半分程度がEV、13%がその他の電動車となる見通しを立てている(アメリカ2032年型の排ガス規制最終案)。 

 

 アメリカでハイブリッドは、市場の2%くらいのシェアで続いていた。EVが出始めた頃から増え始め、現在は7%ほどだ。それまでなかなか伸び悩んでいた理由は、ハイブリッドの価格だった。 

 

 ガソリン車とハイブリッドが同グレードで同装備の車の場合、価格差はだいたい30万円くらいある。ハイブリッドは燃費が良いから30万円高いのは当然、と思うだろう。しかし、「その先払いした30万円分がお得になるのは11年後です」となればどう考えるだろうか。アメリカで年間1万キロくらいの自動車ユーザーにとっては、ハイブリッドは5年くらいではお得にならないどころか損になるのだ。 

 

 もっと簡単に書けば、ハイブリッドによって「ガソリン代」がガソリン車より年間3万円安くなったとしよう。それでも自動車購入時にガソリン車より多く払った30万円を取り返すまでは年間3万円で10年かかる。つまりこの場合、ハイブリッドがお得になるのは11年目から、ということになる。だからアメリカでは以前からあるハイブリッドが「ガソリン車販売禁止」の動きが出るまであまり売れなかった。 

 

 日本で一般的な年間1万キロという走行距離の利用イメージは、「買い物で週4日、1日あたり10km程度利用。年33回ほど片道2時間程度のドライブ、年3回ほど片道約4時間かけて旅行・帰省する」となっている(三井ダイレクト損保)。もちろん、ニューヨークのタクシーのように年間平均7万マイル(約11万キロ)走るような自動車の使い方の場合、ハイブリッドがガソリン代の節約になることは言うまでもない。 

 

 アメリカの環境保護庁(EPA)のサイトには、アメリカで売られているハイブリッド全車種から自動車の車種を自分で選び、年間の総距離とガソリン価格を自分で入力すると、同車種のガソリン車と比較され、ハイブリッドがいつからお得になるか自動で計算してくれるサイトがある。 https://www.fueleconomy.gov/feg/hybridCompare.jsp 

 

 年間1万キロでニューヨークのガソリン価格を入力した場合、ガソリン車との差額を取り戻せる日までの年数は、トヨタのカムリで約10年、RAV4で約9年、カローラで約8年となった。つまり、アメリカでの試算によると、カムリでは11年目から、RAV4では10年目から、カローラでは9年目から実際にガソリン代が浮くことになる。 

 

 

 世界的なEVへの移行は、もちろん気候変動対策、脱炭素もあるが、石油や天然ガスに依存するよりも、運用に不安がある原発での発電にリスクを取り、石油依存をやめようという”裏テーマ”がある。世界中で紛争が起こっているが、ロシアを筆頭に石油や天然ガスの産出国への依存を続けるのかどうかも問われているわけだ。各国の脱炭素化へ向けた計画も、必ずと言っていいほど原発の稼働を増やしている。ニューヨーク州の脱炭素化計画も例外ではない。 

 

 日本でも国のエネルギー基本計画において、現在の原発による電力供給割合は6%くらいだが、2030年には20%~22%に増やす計画だ。再生エネルギーの割合も現在18%程度で2030年には約2倍に増やす予定だが、原発による発電量はいまの3倍から4倍に増加する予定だ。日本は脱炭素の計画において原発に頼ることがほぼ確定している。 

 

 その上でのEVだ。現実としては、これまでは日本の物価に対してEVは高すぎた。ケリー・ブルー・ブックの調査によると、昨年アメリカでのEVの平均価格は約5万3000ドル(約800万円)だった。昨年の日本の自動車平均価格が約367万円、軽自動車は150万円程度だったので、日本にとってEVはまだまだ高い。 

 

BYDで最上級車でも約580万円のシール(提供:BYD) 

 

 EV価格のゲームチェンジャーとして頭角を現しているのが、中国のEVメーカー。頂点に立っているのは昨年のEV世界販売数1位のBYDだ。中国のBYDのEVは約150万円からあり、とにかく安い。トランプ前大統領が3月16日、中西部オハイオ州の集会で「メキシコで生産される中国の車に『100%の関税』を課す」と演説したのも、中国のBYDを念頭に置いたものだ。2月にBYDアメリカズのCEOが「メキシコで工場を設立する場所を探している」と発言。その後、アメリカ製造業同盟は、すぐさま国にメキシコからの中国製自動車の部品の輸入を阻止するよう要請していたからだった。 

 

 現在、アメリカは「アメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」という名のアメリカとメキシコ、カナダの3カ国間の自由貿易のような協定を結んでいる。この協定は、6年前のトランプ大統領時代にさかのぼり、アメリカが中国からの輸入品すべてに最大25%の追加関税を課した(中国製の完成車には27.5%)ことが始まり。そしてこの協定は、現在のバイデン政権においても引き継がれた。 

 

 中国企業はUSMCAの協定締結後、アメリカから中国製品への追加関税を避けるために、メキシコに工場を乱立させ、製品をアメリカに輸出した。メキシコを関税の抜け道としていたのだ。そして今年の2月には、中国のEVトップ企業であるBYDがメキシコに工場を建設することが濃厚になったなか、BYDは2月にメキシコで2車種のEVを販売することを発表した。アメリカでの販売は明言していないものの、BYDがメキシコからアメリカに輸出する可能性を残している。 

 

 USMCAの協定は、アメリカ国内のアメリカ人の自動車メーカーの雇用を保護するように制定されている。例えば、メキシコで自動車を製造してアメリカに輸出する場合、「その価値の40%が時給16ドル(約2400円)以上の労働者によって製造されなければならない(小型トラックの場合は45%)」など様々な決まりがある。 

 

 しかし、中国政府の権力と資本の後押しによって、安いEVがメキシコで製造されるとなると話は別だ。アメリカにあるEVに関連した日本の自動車メーカーも、太刀打ちできない価格になる。 

 

 

NYオートショーでアメリカの雇用に貢献しているとPRするトヨタ 

 

 アメリカ人は製品の国籍は気にしない。だからこそ、日本製や韓国製の自動車がアメリカで大量に売れている結果になっている。中国製のモノも中国車も例外ではなく、モノが良ければアメリカ人は買う。アメリカ人が反発するときは、自分たちの雇用に関わる場合だ。このため、日本の自動車メーカーはアメリカに多くの工場を設置している。EVはアメリカによる「日本車潰し」など勘違いも甚だしい。 

 

 もしBYDが、メキシコからなんらかの方法でEV販売においてアメリカ進出を果たした場合、アメリカ国内の自動車メーカーは打撃を受け、アメリカ人の雇用に影響する。そのため、トランプ前大統領は「(自分が再び大統領になったら)メキシコで生産される中国の車に『100%の関税』を課す」と発言した。日本はどうだろうか。今後もEVを巡る競争は激しさを増すことだろう。 

 

笹野 大輔(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

IMAGE