( 156261 )  2024/04/04 22:50:22  
00

休日や仕事時間外にスマートフォンなどで仕事の連絡を受けることが増え、その影響について報道がある。

多くの人が勤務時間外に業務上の連絡を受ける経験があり、連絡は便利でもストレスを感じることもある。

また、仕事とプライベートの線引きが曖昧になることで疲労や睡眠に影響を与える可能性も指摘されている。

一部の企業では、休日に仕事とのつながりを断つ制度を導入する動きもある。

日本では「つながらない権利」を法制化する例もあるが、個々の職業や状況に合わせた対応が必要で、企業のリーダーシップも重要だとされている。

(要約)

( 156263 )  2024/04/04 22:50:22  
00

イメージ画像 

 

 「この案件、分かりますか?」 休日の午後、スマートフォンに着信した同僚からのメッセージ。「急ぎみたいだから仕方ないか」とため息をつきつつ、返信を打ち始める―。こんな経験がある人も多いのではないでしょうか。スマホやチャットアプリが普及し、いつでも気軽に仕事の連絡ができるようになった現代。便利さと比例するように、「つながらない権利」にも注目が集まっています(記事中の登場人物の肩書きは取材時点のものです)。(時事ドットコム編集部 川村碧) 

 

【写真】休日に上司から届いた業務連絡のイメージ 

 

◇通知気になり、休日も離れられず 

 

 神奈川県内に住むエンジニアの40代男性は、週に1~2回ほど、勤務先から業務時間外の連絡を受けることがある。「通知が来ると気になってしまい、内容を確認してその場で返信をしている。緊急の時もあるが、正直『今でなくてもいいんじゃないか』と思う問い合わせも多い」といい、「社用端末がなく、私用のスマホにチャットアプリをインストールしているので、休日も電源を切れず常に受信状態なのがつらい」とこぼした。 

 

 男性の会社にチャットアプリが導入されたのは約3年前。それまで同僚との連絡はメールと電話が中心で、休日に緊急の電話が掛かってくることはまれだったという。「チャットはすぐに用件を送れるので便利だが、時間外でもかまわずに連絡してくる人が増えた」と感じている。 

 

 業務連絡は勤務時間内にするルールだが、守られていないのが実情だ。「退勤後に短い返信をしたくらいで残業申請をするのは現実的ではないが、ちょっとした返信でも積もり積もれば多くの時間を割くことになる。プライベートを楽しんでいても、連絡が来ると気持ちが仕事に引き戻されるし、寝る前に重い内容の相談が来て眠れなくなったこともあった」。そう声を落とした。 

 

◇7割が「勤務時間外に連絡」経験あり 

 

 連合が2023年9月に実施した「つながらない権利に関する調査」では、回答した雇用者942人のうち、72.4%が「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡が来ることがある」と回答。緊急の用件であれば時間外連絡を許容する人も一定数いる一方で、仕事と私生活の線引きに悩む複雑な心情もうかがわれた。 

 

 勤務時間外に業務上の連絡が来ることがどれくらいあるか尋ねた設問では、「時間外の連絡が来ることはない」が27.6%だったのに対し、週に1日以上あると答えた人が42.4%を占めた。「勤務時間外に業務上の連絡が来るとストレスを感じる」と回答した割合は、全体の62.2%。どのような連絡なら勤務時間外でも許容できるか複数回答で尋ねたところ、「すぐに対応が必要なことに関する連絡」が48.5%で最多だった。 

 

 職場で勤務時間外の連絡について定めたルールがあるか尋ねたところ、「ない」が46.3%で、「ある」の25.8%を大きく引き離した。「働くことと休むことの境界を明確にするため、勤務時間外の部下・同僚・上司からの連絡を制限する必要があると思うか」との問いには、66.7%が「思う」と回答している。 

 

◇仕事との「心理的距離」が重要? 

 

 「スマホやメールといった技術の発達によって、仕事とプライベートの境目がどんどんあいまいになっている」。こう指摘するのは、疲労と睡眠について研究する労働安全衛生総合研究所の久保智英上席研究員だ。物理的に仕事から離れても、心理的に拘束されているとストレス解消や疲労回復につながらないという海外の研究があるといい、「家でも仕事のことを考え過ぎてしまうと、深い睡眠が取れない。仕事との『心理的距離』を保つことが重要になってくる」と語った。 

 

 同研究所の池田大樹主任研究員は2021年、情報通信業で働く98人を対象に、時間外の仕事の連絡があると、寝る前の疲労や仕事との心理的距離がどう変化するかを調査した。その結果、出社勤務でも在宅勤務でも、時間外連絡に対応していた時間が長いほど、心理的距離が取れず仕事のことを考えてしまう傾向があることが判明。ただ、出社勤務では、連絡時間が長いほど疲労や抑うつ感が強くなったのに対し、在宅勤務の場合大きな変化はなかったという。 

 

 池田主任研究員は「出社勤務では、帰宅後のプライベートな時間に切り替わってから連絡を受けるため、より負担を感じたと考えられる。在宅勤務ではそれほど悪影響がないように見えるが、家で仕事の連絡を受けることに慣れてしまって、実は疲労を自覚できていない可能性がある」と指摘。今回の調査では、いずれの働き方でも睡眠時間に影響は見られなかったが、「時間外連絡が常態化すると睡眠の量や質が悪化する可能性もあり、軽視できない」と話した。 

 

 

電話の自動転送について書かれた白石肇担当課長のメール例(画像を一部加工しています) 

 

 社員のストレス軽減を図るため、休みの日に仕事と「つながらない」制度を導入した企業がある。設備工事会社「オーテック」(東京都江東区)中部支店は2023年11月から、平日に休みを取っている社員に顧客から直接電話があった場合、支店に自動転送する取り組みを始めた。単に転送するだけではなく、担当以外の社員でも緊急のトラブル対応ができるように現場ごとのマニュアルをまとめ、職場で共有する体制も整えたという。 

 

 きっかけは、働き方改革の中で社員から上がった声だった。制度導入に携わった中部支店技術部の白石肇担当課長は、「土日に出勤した場合は平日に代休を取るが、『お客様から電話がかかってきてしまう』『携帯が気になり休んだ気にならない』といった意見があった」と説明。この部署は病院や工場などの空調制御システムの保守管理を担っており、社員は担当の顧客から連絡があると、代休中でも対応せざるを得なかった。 

 

 導入後は、社員から「誰かが対応してくれているという安心感があり、携帯を気にせずに休日の外出を楽しめるようになった」といった声が上がったそうだ。中部支店の相沢敏宏支店長は「昔はお客様からの電話なら夜でも出るのが当然で、平日に代休を取ることも難しかったが、今はそういう時代ではない。年長の社員からは『電話には出ないとだめだ』という意見もあったが、そうした先入観を捨てて挑戦してみたら、実現することができた」と話した。 

 

◇「つながらない権利」日本で実現できる? 

 

 働く人の健康やプライベートに配慮し、勤務時間外の仕事の連絡を拒否できる「つながらない権利」を法制化した国もある。例えばフランスでは、過去の裁判例などを通じて労働者には時間外の連絡に応じる義務がないとされていたが、現実には、対応を求められる労働者が後を絶たないことを踏まえ、2016年に労働法に「つながらない権利」を明記した。日本では、こうした対応は難しいのだろうか。 

 

 青山学院大法学部の細川良教授によると、日本では19年施行の「働き方改革関連法」によって、時間外労働の上限規制が導入され、労働者の休息時間の「量的」な確保が可能になった。しかし、勤務時間外も仕事の連絡から解放されない問題については、現行の法律ではコントロールが難しいという。「次のステップは、いかに休息の『質』を確保するか。それを実現する手法として、日本でも『つながらない権利』が注目されるようになった」と説明する。 

 

 ただ、休日や夜間に対応しなければいけない職業もあるため、「何時から何時までは時間外連絡は禁止」といった一律の規制は難しい。連合の調査では、勤務時間外の連絡に「ストレスを感じない」と回答した人も37.8%おり、仕事にアクセスできないことを負担と感じる場合もありそうだ。細川教授は「つながらない権利の実現には、法律よりも企業のリーダーシップが期待される。まずは、どうやって社員の休みの質を高めるかという視点で考えてみてはどうか」と提案。「例えば、いつの間か増えてしまった連絡業務を見直したり、緊急時以外は連絡できない休日と、連絡可能な休日を分けて職場で共有したりするのも選択肢だ」と話した。 

 

 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。 

 

 

 
 

IMAGE