( 156496 )  2024/04/05 14:04:14  
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中国のEVメーカーBYDは、2023年から日本市場に参入し、非常に価格競争力のあるEVを展開している。

ミッドサイズSUVの「ATTO3」は450万円からという価格設定で、他の主要メーカーのEVよりも安価である。

BYDの価格の安さは強力な武器とされており、日本市場で一定のシェアを獲得する可能性が高いと評価されている。

しかし、他のライバル車に比べて独自の魅力や革新性には欠ける部分も指摘されており、今後のBYDの日本市場での展開が注目されている。

(要約)

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BYDの「価格の安さ」は本物か? 主要メーカーのEV価格を徹底比較(Photo:JuliusKielaitis/Cobalt S-Elinoi/Shutterstock.com) 

 

 2023年の日本市場への参入以降、急速に存在感を高めているのが中国のEVメーカーBYDです。特に同社の強みと言われているのが“価格の安さ”。BYDの価格設定はどれだけアドバンテージになるのでしょうか。また、価格の強みを武器にBYDはどこまで競合と戦えるのでしょうか。本記事では、主要メーカーのEV価格を比較しながらBYDのポジションを確認しつつ、今後のEV市場の展開について考察します。 

 

【詳細な図や写真】【図解】日本市場におけるBYDのポジションとは?(出典:日本自動車輸入組合より筆者作成) 

 

 1995年、バッテリーメーカーとして誕生したBYD(本拠地:中国・深セン)は、バッテリー事業だけでなく、自動車、ITエネルギー、新エネルギー、都市モビリティまで事業を拡大しながら成長を遂げてきました。特に、自動車分野では2022年に年間180万台ものEVを生産するまでに成長している。まさに中国のEVの覇者と呼べる存在です。 

 

 そんなBYDが得意のEVで日本市場に参入したのは2023年のことです。同年1月にミッドサイズSUVであるEVの「ATTO 3(アットスリー)」、同年9月にはハッチバック車の「DOLPHIN(ドルフィン)」を相次いで発売します。そして、日本上陸初年となる2023年には合計1446台(BYD発表)の登録台数を実現しました。 

 

 日本車の販売台数からすると、年間1446台という数字は小さなものとなります。ところが、輸入車としては十分に大きな数字と言えるのです。 

 

 たとえば、2023年の実績で見ると、BYDの販売ランキングは17位。上位ではありませんが、1000台レベルには他に、アルファロメオ(1671台)、アバルト(1466台)、フェラーリ(1395台)、シボレー(737台)、ジャガー(697台)、キャデラック(576台)などがあります。 

 

 

 また、BYDに先駆け2022年に日本乗用車市場に再参入を果たしたヒョンデも489台。つまり、日本国内で1000を超える実績を初年から達成できたBYDは、健闘していると言えるでしょう。 

 

 しかも、BYDは日本国内に販売ディーラーが2023年3月時点で51拠点(うち正規ディーラー22)を構えますが、2025年には100拠点にまで拡大する計画を立てています。現在、日本市場において年間1万台規模でクルマを販売する輸入車ブランドは、どこも100以上のディーラー網を構築しています。当然、100のディーラー網を構築したBYDは、日本国内での販売が飛躍的に向上する可能性が高まるでしょう。 

 

 

 そんなBYDの強みとして言われているのが“価格”です。実際に、どれだけ安いのでしょうか。ここからは主要メーカーのEV価格を比較していきます。 

 

 

 BYDには、ほかにない強い武器があります。それが価格です。 

 

 ミッドサイズSUVの「ATTO3」は450万円から価格がスタートします。日本のEVであるトヨタ「bZ4X」は550万円から、日産「アリア」は約660万円からという価格設定です。また、テスラの「モデルY」は約564万円から、BYDのハッチバック車の「DOLPHIN」は363万円からなのに対して、日産の「リーフ」は約408万円から。細かい仕様の違いはありますが、スタート価格を見ると、確実にBYDが安価になっています。 

 

 ライバルとなるのはヒョンデのコンパクトSUVとなる「KONA」くらいしかありません。また、「DOLPHIN」は、その「KONA」よりも低い価格設定になっています。 

 

 このBYDの「価格の安さ」は、非常に強い武器と言えるでしょう。クルマを買うときは、先に予算を決め、その中から予算範囲内のクルマを選ぶものです。予算外にあっては、選択肢に入ることさえできません。価格が手ごろというのは、それだけライバルに対する強力なアドバンテージになるのです。 

 

 また、EVという製品は、そもそもエンジン車に対して、価格が割高という問題点を抱えています。そのデメリットもBYDであれば解消していける実力があります。これらを踏まえると、BYDは日本のEV市場において一定のパイを獲得できる可能性は非常に大きいでしょう。 

 

 ただし、国内におけるEV市場の総数は年間で4万4000台ほどしかありません(日本自動車販売協会連合会・燃料別登録台数より)。これは日系ブランドも含んだ数字であり、輸入車に限れば2万3000台ほどになります。こうした小さい市場の中で、BYDがどれだけ販売台数を伸ばせるのか、年間数千台というレベルで終わるのか、それとも1万台を超えるのか、これらは日本のEV市場全体の伸びにもかかっています。 

 

 また、仮に国内EV市場が大きく成長を遂げたとしても、その中で競争に勝ち抜いていくには、いくつかのハードルがあると考えています。 

 

 

 そもそもの話としてBYDの製品であるEVが、ライバルを上回っていなければ、数字はどこかで停滞してしまうでしょう。ライバルは、同じ輸入車のEVであり、日系ブランドが販売するEVなどがそれに該当します。具体的な名前を挙げれば、テスラをはじめ、トヨタや日産のEVがライバルになります。 

 

 実際に筆者はBYDの「ATTO3」と「DOLPHIN」を試乗したことがあります。どちらのクルマも街中において、「走る/曲がる/止まる」といった機能には不満はありませんでした。見栄えの質感も悪くはありません。普通に使うことを想定した場合は、なんの問題もありません。 

 

 ただし、残念ながら、「絶対この車が欲しい」と感じさせる「決定的な魅力」は感じられませんでした。 

 

 たとえば、テスラ車に乗ると分かりますが、まるでミニマリストの部屋のように、ボタンやスイッチ類が整理・排除されており、その先進性・革新性に感心するばかりです。また、日産「アリア」の加速感は非常に独特でモーター制御の緻密さは、ひいては日産のEV技術の洗練を感じさせてくれます。 

 

 そうしたライバル車にあるような「おお、すごい!」と感じさせる部分が希薄かもしれません。さらに言えば、BYD車に使用されているリチウムイオン電池の信頼性も未知数であり、これから信頼を積み重ねていくといった状況です。そんなBYDが今後どのように日本市場を攻略していくのか注目です。 

 

(参考文献一覧) 

・BYDのHP 

(https://byd.co.jp/byd-auto/) 

・日本自動車輸入組合の「輸入車新規登録台数(速報) 発表資料」 

(https://www.jaia-jp.org/ja/stats/stats-new-car-ja/?post_year=2023) 

・日本自動車販売協会連合会「燃料別登録台数」 

(https://www.jada.or.jp/pages/342/) 

 

執筆:モータージャーナリスト 鈴木健一 (鈴木ケンイチ) 

 

 

 
 

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