( 156843 ) 2024/04/06 14:06:18 0 00 今でも人々の心に傷跡を残す「就職氷河期」の記憶(写真はイメージです) Photo:PIXTA
ある議員のXでの投稿に氷河期世代から多くの声が寄せられている。そこに綴られていたのは、就職氷河期をまるで忘れたかのような議員たちの態度だったからだ。今も当時の深刻な就職難が傷になっている40~50代前半は少なくない。しかし政治家たちにとって、これは人ごとなのだろうか。(フリーライター 鎌田和歌)
● 売り手市場のバブル期から一転 地獄の「就職氷河期世代」
「『私が就職活動で100社もの会社に落ちた1997年…』と話し始めたら」――。
3月28日夜、伊藤たかえ参議院議員(国民民主党)はXにこんな内容の投稿を行った。予算に関する反対討論の中で、就職活動中のエピソードを語ったところ、議場から吹き出す声などが聞こえたのだという。
<投稿内容の引用>
「令和6年度予算三案に関する反対討論で本会議登壇。 冒頭『私が就職活動で100社もの会社に落ちた1997年…』と話し始めたら、議長席(?)で吹き出す声や、議場から『100社はむごい』とか『オレ全部受かった』とか、笑い声や話し声が色々耳に入って来て動揺し、めちゃくちゃ噛んでしまう」
https://twitter.com/itotakae0630/status/1773323335671181355
この投稿では触れられていないが、1997年が就活生にとってどういう時代であったのかは、40代以上であればすぐにピンとくるだろう。
1991年にバブルが崩壊し、それまでは売り手市場だった就職事情が激変。特に1993年から2005年頃までに就職活動をしていた世代が「就職氷河期」と呼ばれる。
今では考えられないが、バブルの頃は企業が内定者を逃がさないように海外旅行に招待することもあった。これが一転したのが就職氷河期で、1991年に81.3%だった大卒の就職内定率は2003年には55.1%まで落ち込んだのだった。1990年代中旬の就活生たちは、華々しく内定を獲得していた先輩の姿と自分たちとの違いに愕然としただろう。
一流企業を狙うどころか、卒業までに就職が決まらない学生が珍しくなかった時代に辛酸を舐めたのが、今の40代~50代前半(出生年は1970年~1984年頃)である。
しかし議場には、この年代の議員が少なかったのだろうか。もしくは二世議員は就職には苦労することがなかったのだろうか。伊藤議員のエピソードに吹き出したり、「オレ全部受かった」と言った議員がいたりしたという様子を聞くと、政治家たちは氷河期世代の受難を忘れてしまったのかと言いたくなる。
● 庶民感覚の欠如と時代錯誤 的外れな政策が量産される温床
伊藤議員は3月31日に、今度は「就職氷河期」の言葉を使って、次のように投稿している。
<投稿内容の引用>
「登壇すると議員の顔は全て見えます。寝るも笑うも呟きまでもよく聞こえます。 国会には就職氷河期の奮闘を笑う議員もいれば、少子化を『男と女がいれば子供は生まれるんだよ』と野次る議員もいます。 そういう課題認識の元で的外れな政策が量産されているのです。変えねば。次世代に申し訳が立たない」
https://x.com/itotakae0630/status/1774199855617085501
庶民感覚のなさに無自覚だったり、的外れで時代錯誤なヤジを堂々と飛ばしたり。問題意識に欠けた議員こそが日本社会の「課題」なのだろう。
ちなみに伊藤議員自身は1998年にテレビ大阪に入社し、その後資生堂、リクルートとキャリアを重ねている。女性は特に就職が難しかった時代において、相当の努力があったのではないか。
● 「100社落ちる」は 珍しい話ではなかった
さて、伊藤議員の「100社もの会社に落ちた1997年…」の投稿には、笑った議員たちに対しての様々な怒りの声が寄せられている。多くは、議員たちは就職氷河期を知らないのかという憤りである。また数字を出して当時を振り返る人も見られた。
大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は次のように投稿している。
<投稿内容の引用>
「1997年(1998年卒)は就職率(文部科学省・学校基本調査「卒業者に占める就職者の割合」)が全体65.6%、女子64.5%(2023年卒は全体75.9%、女子81.2%)。就職氷河期の初期で「100社もの会社に落ちた」は女子学生だとそこそこある話だった」
https://x.com/ishiwatarireiji/status/1773531151379878208
エントリーシートが通らず、面接に辿り着けた会社が数社のみだったり、大学名や性別で足切りされたり、が当たり前だった。筆者も氷河期世代だが、圧迫面接という言葉はまだあまり聞かれず、企業が高圧的でも入社を志望する学生は当然従順であるべき、という風潮が強かったように記憶する。
また、氷河期世代の苦難を放置したことが、日本が少子化から抜け出せない結果につながったと見る意見もある。千葉県酒々井町の白井のりくに町議員(立憲民主党)は次のように投稿した。
<投稿内容の引用>
「氷河期世代は、正規職員になれず、非安定就労に低賃金で苦しむことになった。
氷河期世代は、本来なら、第三次ベビーブームが起きる世代のはずだった。
ところが、生活が安定せず、結婚、出産というライブイベントから遠ざかった。 その結果が、今の急速な少子高齢化の大きな原因になっている」
https://x.com/shirai_norikuni/status/1773943094926598444
非正規雇用の割合が突出して増加したのは1998年からの5年ほどで、これは就職氷河期とも重なる。言うまでもないことだが、企業は業績悪化を非正規雇用による人材費削減で乗り切ろうとしたのである。
結果としてワーキングプアが増大。働けど働けど、お賃金が増える未来が予想できない当時の20代は、結婚や子育ては「贅沢」だと感じるに至り、この傾向は今も続いている。
政治家たちはたびたび少子高齢化を嘆いて見せるが、その一因と指摘される氷河期世代のワーキングプア問題に策を講じてこなかったことをどう考えているのだろう。
● 氷河期世代を 代弁する議員は現れるか
内閣府が氷河期世代を「人生再設計第一世代」と捉え、その再チャレンジを支援すると唱ったのは2019年だが、この世代がアラフォーを迎えてからのこの取り組みは遅すぎたのではないかと思わざるを得ない。
「人生再設計第一世代」が提唱された時期にも、氷河期からの反発は強かった。「自分たちの世代は政治から見捨てられた」と感じているこの世代からしてみれば「バカにしているのか」としか思えなかっただろう。
そして今回もまた、国会議員たちのあんまりな反応に、見捨てられた世代の人々がざわついている。
この世代の代弁者となる政治家を選挙で当選させたいと願うところだが、骨のある叩き上げ議員候補はどれほどいるだろう。伊藤議員の投稿は7000回近く再投稿され、1.8万件の「いいね」がついている。これほど共感を集める話なのだから、各政党は一人ぐらい、氷河期世代の救済を公約に掲げる候補者を立ててほしいものだ。
鎌田和歌
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